氷菓に映る午後アロワナモールにある人気スイーツ店、クリームアンコウ。店内には甘い香りと冷房の涼しさが満ち、カウンター席もテーブル席も甘味目当ての客で賑わっていた。
カラフルなフルーツとアイスが山のように盛られたかき氷を目の前に、ユメカは嬉しそうに声を弾ませた。
「てな感じでね、この前サッドくんと一緒にフルーツミックスソフトクリーム練乳ましましかき氷食べたんだよね」
「お前……、」
その一連の話聞いていたクロバは、苦い顔をしながら眉をひそめた。
「こんな店にサッドを無理やり連れて来たのか?」
「失礼な! サッドくんはちゃんとついてきてくれたよ、クロバと違ってね」
彼女はぷうっと頬を膨らませ、スプーンをくるくると回しながら反論する。視線をテーブルの上へと移すと、改めてそのかき氷が自分の知るそれとかけ離れていることが分かる。今更なのかもしれないが、クロバは念のため確認した。
「前も思っていたんだが、その量は二人前じゃないのか?」
大ぶりの器にこんもりと盛られた氷の山。上にはフルーツとアイスクリーム、練乳が惜しみなくかけられている。一般的に誰かとシェアするのが前提のように思えた。
その問いかけに、ユメカはスプーンを突き立てながら答えた。
「んー、二人で食べる人もいるけど、わたしにかかればこんなの余裕だね」
サラリと返すその様子に、嫌な予感が胸の奥を掠める。まさか──、と確かめずにはいられず、クロバは声を低くして訊ねた。
「もしかして、サッドも一人でそれを……!?」
「もちろん! 美味しそうに食べてたよ♪」
……本当か?
クロバの脳裏には、サッドが無言で氷を口に運び、後半からは無理やり完食を目指している光景が浮かび上がった。頭をキーンとさせながらも、淡々と、黙々と食べ続ける苦行のような光景。いや、あいつなら無言で黙って食べきるかもしれないが──。
クロバは額に手のひらを当て、心の内で同情した。
氷をすくいながら、「サッドくんね」とユメカは目を細めて呟く。
「こういうお店に、誰かと行ったことなかったんだって。まあ一人でのんびりするのもいいけど、美味しいものは誰かと一緒に食べるのもいいよね」
そこには素直な嬉しさと、少しだけくすぐったいような感情が滲んでいる。その言葉に、クロバは僅かに目を見開く。少し考えるように息を吸うと、言葉を選びながら答えた。
「そういう感性はヒトそれぞれではあるがな。俺は、カフェなら一人の方が断然好きだ」
「コーヒーとスイーツを一緒にしないでよ」
「そもそも俺はスイーツを食べにこない」
即答するクロバにユメカは肩をすくめる。
「えー、クロバも抹茶スイーツなら好きじゃん。イアちゃんとこういうお店入らないの?」
そう茶化すと、クロバは少し視線を逸らし、口の端をわずかに引き下げた。
「それはまた話が別だろ。かき氷ならそこまで甘くないし、一緒に食べたことも……まあ、ある」
「へ~~~? 二人で大きなかき氷一緒に食べるの? いいね~~~」
ユメカがわざとらしく声を弾ませると、クロバは渋い顔をしながら返した。
「お前じゃないのにそんなに食べられるか。イアが頼んだのは普通のサイズで、俺は少し貰っただけだ」
「はい、あーん♡ とかやった?」
茶化すようにスプーンを差し出すユメカの仕草に、クロバは一瞬きょとんとした表情を浮かべる。
「あーん……? 食べさせてもらうやつか?」
「おっと、イアちゃんやるねぇ。でもクロバの鈍感も相変わらずぅ」
ユメカが呆れたように笑うと、「あのな」とクロバは不機嫌そうに口を挟む。
「お前はよく俺のことを鈍感と口にしているが……。お前こそサッドに対して、そういう態度をとっていないのか?」
思わぬ反撃に、ユメカは目を丸くし、ぽかんと口を開けた。
「え? どういうこと??」
なにもわかっていない様子のユメカを見て、クロバはまた一つ深いため息をついた。この調子ならサッドもさぞ振り回されていることだろう。自分は昔からこの手の騒がしさには慣れているが、あいつは大丈夫だろうか。ついてきてくれた、という言葉が、言葉通りの意味だったならいいのだが──。
Fin.