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    ゆめかぜ

    マイイカSSのまとめ置き場。時間軸順不同御免。

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    ゆめかぜ

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    トウハとファミーちゃんが初めて会った日の話。(ほのぼの)

    #うちよそ
    atHome

    ファーストコンタクト:トウハ&ファミー編普段トウハは、自分から他のヒトに声をかけることはほとんどなかった。誰かと一緒にいるときは別だが、一人のときはいつも一人である。もちろん、ナワバリバトルのように必要な場面では話すこともあるが、自分から積極的に関わることは滅多になかった。
    そんな人見知りの激しいトウハが、その日、ハイカラシティで初めて見知らぬヒトに声をかけた。考えるよりも先に口から言葉が飛び出していた。
    黄色いゲソにFCジャージーをまとったガール。彼女の手には二画面に分かれた携帯ゲーム機が握られている。それを目にした瞬間、トウハの口から上ずった声が漏れた。
    「え⁉ そっ……それ、3DSですか⁉」
    「……え?」
    彼の声に、少女はくるりと振り返った。ちょうど待機中だったのか、それとも操作の合間だったのか、こちらを向いたままぽかんと口を開けている。無理もない。いきなり見知らぬヒトに声をかけられただけでなく、自分の私物に注目されたのだ。不審に思われても仕方がない。
    彼女の反応を見て、トウハはようやく自分が知らない相手に話しかけてしまったことに気づいた。途端、顔に熱がぶわっと広がる。
    両手を少女の前に突き出すと、トウハは慌てて顔を横に振った。
    「ご、ごめんなさい! ぼ、僕、田舎者で、貧乏で、本物の3DS見たのとか初めてで! つ、つつつい!」
    いや──こんな言い訳、相手にとっては何の意味もない。なぜそんなことを口にしてしまったのか、彼自身も分からなかった。
    そんなトウハの混乱とは裏腹に、少女は静かに視線をゲーム機へ戻していた。その目は、まぎれもなくゲームに集中しているプレイヤーのものである。ゲーマーなら誰もがわかる、話しかけてはいけない時間。
    「そ、それでは! へ、変に声をかけてしまい、すみませんでした!」
    トウハはぺこりと頭を下ると、足早にその場を立ち去ろうとした。
    しかし、その背中に声がふりかかる。
    「ちょっと待って下さい」
    立ち止まった彼の耳に届いたその声は、確かに少女のものだった。振り返ると、彼女は視線を3DSに向けたまま、操作を続けながら訊ねた。
    「あなたは、ゲームが好きなのですか?」
    「え……?」
    その問いに、トウハはしばし固まる。
    ゲームが好きか。それは、彼の数少ない趣味の中でも群を抜いて大切なものだった。普通の〝好き〟とは少し違う。深く、コアな意味での〝好き〟。そんな領域に足を踏み入れている自覚がある。
    だからこそ、その問いに対しては、素直な答えしか出てこなかった。
    「……はい。大好きです」
    口をついて出た言葉の勢いのまま、トウハは自然と言葉を繋げていた。
    「そのカラー、初期生産モデルですよね? しかも完全な初期型。後に値下げされた再販モデルでもない。それなのに、そんなに綺麗な状態で遊べてるなんて、すごいです」
    少女はその言葉に反応し、操作の手をぴたりと止めた。そして無言のまま、3DSをそっとトウハの目の前へ差し出す。トウハの顔をちらりと見ると、彼女は小さな声でぽつりと言った。
    「よかったら、少し遊んでみますか?」
    「うえぇ⁉」
    驚きと嬉しさが半分ずつ混ざり合い、トウハの口から変な声が漏れる。表情もまた、まるでお化けでも見たかのように引きつっていた。
    だが──反射的に、あるいはゲーマーとしての本能か、彼の手は自然と3DSに伸びていた。それを見た少女からふっと微笑みがこぼれる。
    「別にいいですよ。少しくらい」
    「え、あ、え、ほ、本当にいいんですか?」
    「あなたのようなヒトなら、大丈夫です」
    「僕みたいな?」
    「本当に、ゲームが〝好き〟なヒトのことです」
    その一言に、彼女があえて口にしなかった言葉の意味を、トウハは痛いほど理解してしまった。
    彼女もまた、きっとゲーマーなのだろう。
    (ハイカラシティには……、こんなに可愛いゲーマーな子がいるんだ……)
    驚きとともに、ふとトウハは思い出す。3DSという高級品を触らせてもらっているというのに、自分は一番大切なことを伝え忘れていた。
    「あ、あの。僕はトウハって言います。きみの名前は?」
    「私は、ファミー、と言います」
    軽く自己紹介を交わすと、トウハは胸を高鳴らせながら、生まれて初めての3DSを手に取った。
    後に、ファミーが自分よりも三つも年下だったことを知るのは、また別の話である。

    Fin.
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