甘色ランジェリー休日の午後。商業施設の一角にあるランジェリーショップは、柔らかな照明と可愛らしいディスプレイに包まれていた。淡いピンク色やラベンダー色のレース、きらきらと光を反射するリボン。季節ごとに入れ替わる新作が並ぶ棚の前で、ユメカはふと見慣れた後ろ姿に目を留めた。
「あ、イアちゃん!」
思わず声をかけると、相手は肩をぴくりと震わせ、「ユメカさん!?」と振り返る。彼女は手にしていたブラジャーを慌てて体の後ろに隠そうとするが、逆にそれが目立ってしまい、彼女の頬は見る間に赤く染まっていった。
「ここの下着、可愛いの多いよね」
「そう、ですね……」
にっこりと話しかけたユメカに、イアはぎこちなく返事を返す。イアの手元には何種類かの下着があり、ユメカは興味深げに顔を近づけた。
「それ買うの? どんなやつ?」
「えっと……」
イアは一瞬固まったかと思うと、恥ずかしさを押し隠すように小さく身を縮める。声も、まるで空気が揺れるように微かだった。
イアはそっとユメカに顔を寄せ、彼女の耳元で囁く。
囁き終えると同時、恥ずかしさのあまり目を伏せた。
ユメカは「ヒャーッ」と声を上げ、思わず両手で頬を覆った。
「いいねぇ、そういう〝彼氏だけに〟ってやつ」
「わた、私もは、はじめてか、買いに来たのでっ」
イアは慌てたように言い添えた。耳まで真っ赤に染まった顔がどこまでも純粋で可愛らしい。その流れで、今度はイアのほうがユメカに訊ねてきた。
「ユメカさんは……その、こういう下着、買わないんですか?」
「わたし? わたしはね~……、彼氏いないからね~」
ユメカは肩をすくめるようにして笑ってみせた。
「そうですか……」
その声にどこか申し訳なさが滲んでいるように感じられ、ユメカは「でもね!」と切り替える。
「誰にも見られないからこそ自由に着れるって意味では、結構可愛いの着てるんだよ! 見てこれ、可愛くない?」
そう言って、今日買う予定で手に取っていたブラジャーをイアに差し出した。淡いピンク色に、花柄のレースと小さなリボンがあしらわれている。
イアの目がぱっと輝いた。
「わあ、可愛い!」
無垢な反応にユメカも嬉しそうに微笑んだ。
「ね~。いいでしょ」
「ユメカさん、やっぱりピンクが似合いますね」
その一言に、ユメカはふと手元のブラジャーに目をやる。そういえば、ショーツの方も同じ色を選んでいた。無意識にピンクを選んでいたことに気付き、ぽりぽりと頬を掻く。
「……似合ってるかな」
「似合ってますよ!」
不安を含むような声で問いかけると、イアは真剣な顔で頷いた。ユメカはえへへ、と顔をほころばせる。そんなやり取りが可笑しくも楽しい。
レースやリボンに囲まれながら、時に囁き合い、時に笑い合う。その光景はまるで、秘密のおしゃべりをしているようだった。少し覗くだけのつもりだったランジェリーショップで、ユメカとイアは、気づけばもうしばらく店内を見回っていた。
Fin.