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    たまの

    一次創作。3人の刑事さん。
    Twitterに山ほど載っけてる。 https://twitter.com/tamatzyan

    亜己ちぃってネタバレなんですよ知ってました?(さんざんTwitterでくっつくってバラしてるやんけ)

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    たまの

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    ここにいるよ

    ##3人の刑事さん
    ##荒井健
    #一次創作
    oneCreation
    #小説
    novel
    #SS
    #創作
    creation
    #オリジナル
    original

    ああ、これが、俗にいう「桜にさらわれる」ってやつかぁ、なんて。あたしは思ってたんだ。

     この冬は色々あって。
     ……ホント、説明が難しいくらい色々あって。
     ケンが、たまに遠い目をするのは、今に始まったことじゃないんだけど。
     その原因を、事件を、あたしと亜己ちゃんは目の当たりにすることになって。
     あたしじゃどうすることも出来ないんだなって。大事な同僚なのに、苦しんでるの分かるのに、ただただ自分が無力で、痛いくらい。
     今でも、思い出すだけで苦味がこみ上げる。でも、ケンにとってはきっとそれ以上の苦しみだったから、あたしはもう、何も言えなかったんだ。
     亜己ちゃんが背中押してくれなかったら。
     あたしは押し黙ったまま、潰れてたかもしれない。ここにいるよって。あたしここにいるよって、やっと言葉に出来て。ゆるやかに、氷が溶けるみたいに、あたしたちは日常へ戻ってこれたけど。
     冬が終わりを告げて、春めいた日が続くようになって。
     それでも思い出したように、ひんやりとした気持ちがよみがえる時がある。
     静かに桜を見上げているケンの背中を目で追いながら、あたしの気持ちどんだけ届いたのかな、自信ないな、って。
     かすめるように舞う風に、散り始めの花びらが数枚混じる。
     ねえ。
     あたし、ここにいるよ?

    「ゲッホ!!」
     穏やかな空気を突き破るように、ケンが突然むせ返った。
     突然、……というか、傍らにいた亜己ちゃんが、背中から思いきりどついてた……。
    「てっめ、亜己! いきなり何すんだ!」
    「ぼーっとしてるからだろ。これから現場検証だってのに」
    「言やいいだろ、言や! いきなり殴ることあるか!!」
    「腑抜けてっからだよ。気合いだ気合い」
    「優雅に桜をたしなむ余裕もねーのかよ、ったく……。嫌なお仕事でごぜーますなあ」
    「知ってんだろ、今さらかよ」
     やいのやいのと普段どおりの軽口を交わす二人に、あたしは一瞬、ついていき損ねて。
     その後から、じわじわと笑いがこみ上げてきて、たまらず吹き出した。
    「ちぃ?」
    「待て待て、笑うとこじゃねえだろ」
     だって、おかしい。
     亜己ちゃんてば、強引すぎる。
    「物理攻撃、つっよ……」
     笑いがおさまらなくてお腹抱えて、ようやく理由を絞り出したあたしに、ケンは思わず真顔になった。
    「あのな、笑い事じゃねえぞ千百合。こいつのコレ、言葉より先に手が出てくるの、どうかと思うぜ俺は」
    「効果抜群だろ?」
    「は!? なに得意げになっちゃってんのお前!? 嘘だろ!?」
     だから千百合は笑うな! と釘を刺されれば刺されるほどおかしくて、ついでに亜己ちゃんにも笑いが伝染して、大笑いするあたしたち二人と、一人異議を唱え続けるケンっていう、いつもの三人の光景が繰り広げられてた。

    ――ここにいるよ。
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