少女は空に祈る Twinkle, twinkle, little star,
How I wonder what you are
Up above the world so high,
Like a diamond in the sky.
Twinkle, twinkle, little star,
How I wonder what you are
夜空をキラキラと光るお星さまたち。
そのお星さまたちと一緒に空に浮かぶ、たくさんの冒険をした英雄さんやお母さんのくまさんと子どものくまさんたち。
お空はとても賑やかで楽しそう。
わたしとも一緒に遊んでくれるかしら。
わたしも仲間に入れてくれるかしら。
ああ、わたしもあのお空に行けるといいな。
そしたら、きっと、皆に見てもらえるよね。
「幽霊だあ?」
まだ静けさの残る朝。朝の涼しい風が吹く中、エリオスタワーのヒーローたちの住む区域の一つ、サウスセクター研修チームの共同リビングでアキラの素っ頓狂な声が響き渡った。
アキラの隣でブラッドの話を聞いていたウィルがまだ朝なんだから少しは落ち着いてほしいという視線をアキラに送る。その小言を言いたげな視線をスルーしてアキラはブラッドに尋ねる。
「つうか、なんで幽霊をヒーローが追いかけるんだ?そもそも幽霊なんてもん」
「アキラ、ちゃんと話聞いてなかったの」
ウィルの棘のある言葉がアキラの言葉にかかる。
「こうイクリプスがどうとか?」
「……何もわかってないじゃないか」
当てずっぽうに答えるどころか、ほとんど答えを返せていないアキラにウィルがため息を吐く。
「その幽霊の女の子が現れているところでイクリプスの出現が確認されているから、警戒にあたれってこと。それにその女の子が現れたところに何かあるかもしれないから、そこをパトロール中に確認すること」
「なるほど、じゃあ、その幽霊が現れたってとこに行けばいいんだな」
「そう、パトロール中に。イクリプスもなんで現れたかよくわかってないみたいだから、それの調査も兼ねてね」
「そうだ、ついでに周辺の住民にも何か変わったことがないか聞き込みもする必要がある」
ウィルの説明を引き継いでブラッドが付け加えた。
「それからその幽霊の少女の外見だが、ブロンドの髪に青い瞳の八歳ぐらいだと遭遇者は皆言っている。それもどこにでもいそうなごく普通の少女だと。パッと見ただけではわからないらしいが、出会った者と少し話すと一様にその場から消えるとも報告されている」
「でも、それとエリオス、イクリプスがどう関係するんだ?」
「……アキラ」
本当に何も聞いてなかったのかとウィルが項垂れた。確かにアキラは寝起きだ。ついさっきまで眠そうにはしていたが、朝食も食べてだいぶ意識ははっきりしていたはずなのに。
アキラの理解能力が低すぎるだけなのか、これからパトロールという事実に浮かれて何も耳に入っていなかっただけなのか。
行き先が不安に
「イクリプスが狙っているの何?」
「そりゃサブスタンス、ってあっ、そうか。その幽霊とサブスタンスが何かしら関係があるかもしれないってことだな!」
ウィルの問いからようやく答えにたどり着いたアキラがなるほどと嬉しそうな声をあげてぽんと手のひらを叩いた。
その一部始終を無言で眺めていたオスカーもブラッドに余計な手間を掛けさせずにすんだとほっと息を吐く。
朝食を終え、これからサウスセクターでパトロールに出るという時刻であった。制服に着替えて、あとは出発するのみ。今日も大活躍してやるぜと意気込み、今にも飛び出していきそうなアキラを制したのはブラッドだった。
今日はパトロール前に連絡があると、同じように部屋を出ようとしていたオスカーとウィルを止めて上層部からの連絡事項を伝え始めたのだった。
曰く、最近少女の幽霊がミリオン州の随所で確認されているとのことだった。そして、少女が現れたあとにはイクリプスも確認されているという。幸いなことにイクリプスは攻撃する意思を見せずにすぐに姿を消してしまうとのことで、被害は今だゼロだ。
だから、幽霊の少女に出合ったらすぐに報告しろ、とブラッドが三人に伝えたところでアキラが大声を上げたのだった。
「ノヴァ博士やヴィクターもその関係性を調査しているところだ」
「じゃあ、そのうちなんかわかりそうだな」
「ああ、予測はついてはいるらしいが、もう少し調べてから連絡するとのことだ。今日の夜あたりにでも報告があがってくることだろう」
テンションの高いアキラに対して、どこまでも冷静に淡々とした物言いのブラッド。
こう見ると本当に正反対なんだよなあ、とウィルは二人を見比べる。
「何か質問はあるか」
「大丈夫です」
「んじゃー、さっさとパトロール行こうぜ」
ウィルがきちんと返事をするのに対しアキラはウィルが答えたことをいいことに部屋の扉の方へと向かう。
落ち着いてはいられない、動いていないと死ぬ生き物か、というテンションのままにアキラが早速部屋を出ていった。
まだ完全に話終わってないだろとウィルがアキラを呼ぶが、すでに扉は閉まりかけ。
どうしてこんなにも落ち着きがないんだか。行ってしまった幼馴染に変わりウィルがブラッドに向き直り、謝る。
「すみません、ブラッドさん」
「いや。連絡すべき内容はこれで全てだ。俺たちも行こう」
もはや慣れたものだとブラッドも気にせずにアキラを追うために、部屋の扉の方へと歩いていく。
「はい」
「了解です」
その後を追うようにしてウィルとオスカーもまた共同のリビングから廊下へと出るのであった。