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    sangurai3

    かなり前に成人済。ダイ大熱突然再燃。ポップが好き。
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    妄想メモ投げ捨てアカウントのつもりが割と完成品が増えてきました。

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    sangurai3

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    32話後妄想。まさかのカナル視点。誰向けかと言えば私向け。
    例によって推敲無し一発書きのため、細かい部分は見逃してください。

    祈る手を前に激しい雷鳴が数度轟いたのち、国中を揺らし続けていた地鳴りが止んだ。
    壁の至る所ひび割れた王城の寝所では誰もが息を詰めていた。
    終わったのか。誰かが呟く。
    勝ったのは竜の騎士様か、それとも。外に様子を見に行くべきか皆が迷い、戸惑う。
    「カナル」
    低く静かな声が近衛兵の名を呼ぶ。
    「はっ」
    短く応えカナルは王の元へ跪く。
    二言三言王の言葉を聞くと、一礼し寝所を辞した。

    城門に向かって駆ける途中、地下牢に繋がる階段からよろよろと上がってくる姿が見えた。
    「ナバラどの」
    名を呼ばれた老占者は顔を上げ、ああ、あんたかいと息をついた。
    「孫のメルルを見なかったかい?あの坊やも…牢からいなくなってしまったんだ」
    ナバラが言うには坊や-竜の騎士の子である少年-の額から一際強い光が放たれ、彼女はその衝撃で壁にまで突き飛ばされ気絶してしまったのだそうだ。
    ようやく気がつけば牢の格子はねじ曲げられ、少年も彼女の孫娘も消えていたのだと言う。
    「おそらくお二人とも外でしょう。先程までとてつもない戦いが行われていたようで…。音が止みましたので確認に行くところです。ナバラどのはどうぞここでお待ちください」
    カナルの言葉に老女は首を振る。
    「そういうことなら私も行くよ」
    「しかし、まだどちらが勝ったかは分かりません」
    今は静かだが、勝者が力を蓄え待ち構えているのかもしれない。もし人間を滅ぼす意思を持つ竜の騎士様の勝利であれば、外に出た瞬間命を奪われることもあり得る。
    カナルがそう告げるとナバラは皮肉げな笑みを浮かべた。
    「もしその通りなら、遅かれ早かれ死ぬってことじゃないか。それなら私は孫の姿を確かめてから逝くよ」
    そう言われては止めることも出来ず、二人は共に城門を目指した。

    城門の外はひどい有様だった。地面は深く抉れ、城を囲む森は遠い山まで木々が薙ぎ倒されていた。
    門に繋がる塔なども崩れ、戦いの激しさを物語っていた。
    「メルル!」
    孫娘の姿を認めナバラが叫ぶ。近くにはパプニカ王女レオナ等の姿も見える。
    (彼等が、勝ったのか)
    カナルは深く深く安堵の息を吐いた。
    「おばあさま…」
    ナバラの元へ駆け寄ってきた少女は、互いの無事を喜ぶより前にカナルに向かって声を上げた。
    「彼等の治療をひどい怪我をしているんです。姫様や私の回復魔法だけでは追いつかなくて…」
    カナルは頷くと、レオナの元へ走り寄った。
    「姫」
    声をかけると、安心したような顔でこちらを向く。その顔や身体には幾つもの傷があった。
    「薬草や治療道具をお持ちします。詰所には寝台もありますが…運び入れますか?」
    彼女の側には倒れ伏した少年の姿があった。共に王を訪ねてきた魔法使いだ。一行の中で一番重傷なのかぴくりとも動かない。僅かに上下する胸元でようやく息があることが分かるくらいだった。
    「ありがとうございます。でも…」
    レオナは言葉を濁し、城を見上げた。戦いの間はその被害の大きさに気付けずにいたのだろう。ここに自分達が来たことで多大な損害を与えてしまった。そう考えていることはカナルもすぐ理解できた。
    「姫、我が王より言伝を言いつかっております」
    側に跪き、申し入れる。先を促す仕草に一礼した。
    「『我らはこれより自ら選ぶ』と。そう仰せでございました」
    「そう、そうですか。ありがとう」
    短い言葉の意味を王女は正しく受け止めた。
    「治療道具はありがたくお借りします。ですが詰所への運び入れは結構です。そちらの兵の皆さんの寝る場所を奪うわけにもいきませんから。この状態では皆帰れないでしょう?」
    そうですね、とカナルは頷く。城の修繕がどれだけかかるか分からない。それにいつ崩れるかもしれぬ場所へ招き入れるのも逆に負担をかけるようにも思われた。
    「ではこれからどちらへ」
    「うちに来させるさ。昨夜もそうした」
    ナバラが横から口を挟んだ。王族への礼儀としてはなったものではないが、レオナは気にせず「そうさせてもらえるとありがたいわ」と笑った。
    「皆様重傷のようですし、何人か手伝いを寄こしましょうか」
    この申し出も丁重に断られる。自分達で何とかするから、と。おそらく今は自分達の間に誰も入り込ませたくないのだろう。死闘を越えた彼等を繋ぐ強い絆がカナルの目にも見えた気がした。
    倒れたままの少年はリザードマンの武人が抱え上げた。白銀に輝く鎧を纏った戦士が小柄な少年の肩に手を置く。少年は一瞬森の方へ顔を向け、ハッとしたように振り返るとカナルに駆け寄ってきた。
    「あの…!」
    出会ったときとは全く違う瞳の輝きにカナルは瞠目する。これが勇者か。これこそが、勇者か。彼等が必死に護り、取り戻そうとしていたのは彼だったのかと得心した。
    その勇者ダイはカナルを見上げて申し訳なさそうに言う。
    「あの、おれ…牢の格子曲げて壊しちゃって。ごめんなさい」
    国が破壊されるかという戦いを終えた後に心配するのがそれかと、カナルは思わず笑ってしまった。
    「大丈夫ですよ。元々あそこに入れる囚人など、この国にはいないのですから。皆さんがご無事で何よりでした。どうぞお気になさらず、勇者ダイ様」
    優しい言葉にありがとう、と笑う姿は年相応の子どもらしさに溢れていた。

    「カナル、でしたね」
    去り際レオナが声をかけてくる。は、と頭を下げるカナルに微笑んだ。
    「パプニカ王女レオナよりテラン王へ、ご助力心より感謝しているとお伝えください。王とこの国の人々に神のご加護あらんことを願っています」
    「お言葉確かに承りました。姫様と皆様にも神のご加護がありますように」
    互いに目を伏せ、神に祈る仕草をする。
    崇める神は違えど、パプニカも信仰の厚い国だ。
    神の使いとも言われる竜の騎士に戦いを挑もうとも、その心に神に祈る気持ちを忘れたわけではない。
    力も心も手放さず生きることは出来るのだと、猛き王女はその身を以てカナルに、そしてテラン王国に示していた。

    ひととき安らげる場所へと歩み出す一行を、カナルはその姿が見えなくなるまで見送った。
    傷だらけの身体を互いにかばい合い、支え合い、一歩ずつ次なる道へと進んでいく姿を。
    知らず胸に当て握り締めていた拳を、空に掲げる。
    この手で日々祈ってきた。争いの無い平和な世となることを。
    だが、我々の、私の手は、祈ることしか出来ないわけではない。
    彼等ほど強くはなれなくとも、自分達に出来ることもきっとあるはずだ。
    神に縋ろうと合わせてきた手を、今こそ開くときなのだ。
    握り拳を夕日に翳し、カナルはゆっくりとその手を開いた。

    祈る手を開き、前へ。そして自ら選び、掴むのだ。私達の世界を。私達の未来を。
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