言えなかった言葉 べっとりと血のついた服を洗う。擦っても擦っても、盥の水がどれだけ赤黒く濁っても、布地は元の色に戻らない。それでもメルルは懸命に手を動かす。
大方を洗い終えて、大きく穴の開いた片袖に手を伸ばす。繕うより新しい袖を縫い付けたほうが早いだろうと祖母に言われ、思い切って鋏を入れた。皆がレオナから治療を受けている間に近い色の布と糸も仕入れた。もうこの袖は捨てるばかり。洗い直す必要などないのだ。そう分かっていてもメルルは手を止められない。水を赤く染めていく血が、彼の――ポップの身体から流れ落ちたものだと考えるだけで涙が止まらなかった。
(ごめんなさい)
ポップが『逃亡』した後何をしていたのか、レオナたちから聞いた。たった一人でバランと竜騎衆の元に向かい、足止めをしようとしていたのだと。服に残っていた無数の裂け目は、竜騎衆の一人に剣でいたぶられた跡なのだとヒュンケルは語った。
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