非ずとも似たる「えっラーハルトって魔法苦手なんだ?」
目を大きく見開いてダイが問う。ラーハルトは申し訳なさそうに答える。
「ええ、全く魔法力が無いわけではありませんが、呪文は総じて不得手です。魔族の血を引く者では珍しいそうですが」
「へええ~」
相槌を打つ表情は何故か妙に明るい。「如何しましたか」とラーハルトが問うと、あのねっと嬉しそうな声が返ってきた。
「実はおれもね、魔法苦手なんだ。島にいた頃はメラもヒャドも上手く出来なくていっつもじいちゃんに怒られててさあ」
「そうでしたか」
主君の幼い頃の思い出話にラーハルトの顔は綻ぶ。
「今は昔よりちょっとはマシになったけど、やっぱり得意とは言えないかなあ。真空呪文も結局バギまでしか出来ないし、トベルーラはまだポップの速さに敵わないしね」
紋章の力無しでライデインまで使えるのだから十分ではないかとラーハルトには思えるのだが、ダイにとって魔法への苦手意識は消えていないらしい。だが何故そんなに嬉しそうに話すのか。
「だからね、ラーハルト」
大きな瞳が見上げてくる。
「おれ達、似てるなって思って嬉しかったんだ」
「似てる…ですか。ダイ様と私が?」
うん、と頷き、ダイはラーハルトの手を取る。
「ラーハルトは父さんにとって"もう一人の息子"だろ?だからおれにとっては兄さんみたいなものなんだって思ってるんだ。"兄さん"と似てるところがあるって知ったら何か嬉しくなっちゃって。」
思わぬ言葉に今度はラーハルトが瞠目した。兄だなんて、似ているだなんて、そんな恐れ多い。そう言おうとするのが分かっていたかのように、ダイは自称部下である"兄"の名を呼ぶ。
「ね、ラーハルト。今度一緒に呪文の練習をやらないかい?手合わせも楽しいけど、苦手なもの一緒に頑張るのもラーハルトとなら楽しいと思うんだけど」
どう?と小首を傾げられれば拒めるはずも無い。
「ええ、ぜひ。二人で特訓していずれあの大魔道士とやらを魔法でやり込めてやましょう」
そこまではいいよーとダイは笑う。ラーハルトも冗談言うんだなと愉快になりながら。
ラーハルトは目頭が熱くなるのを感じた。ああ、やはりこの方はあなたのご子息だ。こうしてオレをいとも簡単に幸福にしてくれる。心の中で空の彼方にいるはずのかつての主君に呼びかけた。
そして無論、この"弟思いの兄"の中には冗談で済ませるつもりなど一欠片も無く。
「さあ、次はベギラゴンです、ダイ様」
「ええ…まだベギラマちゃんと出来てないのに?」
「いいえ、あなた様なら出来ます!さあさあ」
こういう強引で思い込みが激しいところ、ちょっと父さんに似てるかも。
ダイは心の中でこっそり呟いた。