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    sangurai3

    かなり前に成人済。ダイ大熱突然再燃。ポップが好き。
    CPもの、健全、明暗、軽重、何でもありのためご注意ください。
    妄想メモ投げ捨てアカウントのつもりが割と完成品が増えてきました。

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    sangurai3

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    原作完結後、ヒュンとポプ中心の薄暗い話。BLぽく見えるかもしれませんが書いてる者の意識としては兄弟弟子としての情です。
    あまり状況を説明しない、淡々とした感じの文章が書けないかなと模索してみましたが、難しいですね。

    宴の夜 差し出されたグラスは受け取る前に横から伸びてきた手に奪われた。小さな気泡が浮かぶピンクゴールドの液体がごくりごくりと細い喉を通っていく。
     高級なスパークリングワインを一気に飲み干した青年は、ぷはあっと不作法な息を吐いた。グラスを差し出した側と受け取ろうとした側、呆然としている双方ににこりと笑いかける。
    「いやあ、すんません。喉が渇いちまってて。ごちそうさんでした」
     王宮で開かれている宴にはおよそ似つかわしくない砕けた言葉を発した直後、青年はごふっと大量の血を吐きそのまま意識を失った。
    「ポップ」
     本来グラスを受け取るはずであったヒュンケルが崩れ落ちる身体を支える。床に散る赤い飛沫にご婦人や令嬢達が甲高い悲鳴をあげた。倒れたポップと支えるヒュンケル、そしてグラスを差し出した男を囲むように人垣が生まれ、ざわめきはさざ波のように会場中へと広がっていった。
     宴の主催者である王女は声一つあげず、身動ぎもせず、ただ傍に控える者達に目配せを送った。主君の意を汲み取り忠臣達は素早く動き始める。
    「ヒュンケル、ポップ君」
     太陽の賢者アポロが二人に駆け寄る。ぐったりとしているポップの手を取り脈を測った。そのまま解毒呪文が施される。淡い光がポップの全身を包み込んだ。
    「即効性の毒のようだな。しかもかなり強力な」
     独り言のように繰り出された言葉に、グラスを差し出した男は青ざめた。まさか、そんなはずは。思わず零れたか細い声を聞き逃さず、アポロは男に目を向ける。
    「まさか、とは?」
    「は、いや……」
     厳しい目で見つめられ男は思わず後ずさろうとした。しかしその動きは数歩で止められる。振り向くと背後には年若い女性が立っていた。細い腕をそっと男の背に当てている。ただ手のひらを添えているだけ、決して力を入れているふうでもないのに、男は身体を動かすことができなかった。いくら力を込めて押しのけようとしても、彼女が身に纏う桜色のドレスも、結われた桃色の髪の一房も、ひらりと揺れることすらしない。
    「無礼な!手を離せ!」
     高位の貴族である男は声を荒げたが、女性は眉一つ動かさず静かにたたずむばかりだ。そのうちに近衛兵達が集まってくる。男は身分をわきまえぬこの女を拘束せよとわめいたが聞き入れる者はいなかった。
     いつの間にか彼らの側にはもう一人、豊かな黒髪を背に流した美しい女性が立っていた。大きな瞳がきらめき、男の全身をすうっと見つめる。そして細い指で豪奢な衣の数カ所を指し示した。男が動揺しているうちに近衛兵達は示された部分を探る。襟元、袖口、上衣の裾。しつけ糸で留められた薬包が次々と発見され、アポロに引き渡される。
    「ち、違う。それは、違うのだ」
     何も訊かれていないのに弁解を始める貴族の男を兵が取り囲んだ。「お話はあちらでお聞きします」有無を言わさず腕を取り、別室に連れ出そうとする。
    「私は何もしていない!」
     男は声の限りに叫び、ヒュンケルを睨みつけた。
    「悪魔め!貴様のせいで祖国は壊滅したのだ!罪を裁かれるべきはあ奴だ魔王軍の手先に死を」
     怒号が会場中に響き渡る。扉の向こうに連れられてもなお、男はヒュンケルへの呪詛を吐き続けていた。
    「おおよそ毒は抜けたが、このまま休ませた方が良さそうだ」
     近衛兵達が退室するまでを見送ったアポロはヒュンケルとポップに視線を戻す。言葉どおりポップの呼吸は落ち着いているようだったが顔色はまだ優れない。青白い首筋に伝う赤い血がやけに鮮やかだった。
    「部屋を用意させるので、頼めるかな」
     アポロの言葉に「無論」と応えたヒュンケルは、ポップを横抱きにして立ち上がった。裾の長い法衣がはらりと垂れ下がり、煌びやかな刺繍やビジューにシャンデリアの灯火が反射してきらきらと輝く。扉へと向かうヒュンケル達を見て再びご婦人方が小さな悲鳴をあげる。その声色は先ほどに比べどこか艶めいて聞こえた。
     
     案内された部屋は天蓋付きのベッドが据えられた豪華な客室だった。ベッドサイドチェストには水差しと薬が置かれている。ポップが目覚めたら飲ませるようにとのアポロの指示だ。お食事がまだでしょう、軽いものをお持ちしましょうかと問う侍女にヒュンケルは首を横に振った。燭台に火を灯すのも断る。窓から明るく差す月光で部屋の内部は十分見て取れたし、ポップをこのまま寝かせるならば蝋燭の火さえも眩しすぎると感じたからだ。一礼して退室する侍女を見送り、ヒュンケルはポップの身体をそっとベッドに下ろした。この格好では寝苦しかろうと法衣の詰め襟に手をかける。途端にぱちんと叩かれた。
    「男に脱がされるシュミはねえよ」
     言うなりむくりと起き上がったポップは自ら襟の留め具を外し始めた。装飾で重たそうな上着をぞんざいに脱ぎ捨てる。広いベッドの上に次々と放り出されていく衣服を、ヒュンケルは丁寧に拾い上げ、クローゼットに吊るしていった。ブーツまで脱ぎ下着一枚になったポップは柔らかなベッドの上に大の字に寝転んだ。シーツに頬をすり寄せ心地よさそうに微笑むポップの額にヒュンケルが手を伸ばす。
    「寝るのならバンダナも取れ」
    「これは別にいいだろ」
    「……最後の一つは結び目の中か?」
     一見ちぐはぐな兄弟子からの問いにポップは眉をしかめ、次いで、はあっと溜息をついた。見つめるヒュンケルの視線に逃れられぬと悟ったのか、五歳の頃からのトレードマークだという黄色い布を額から外す。解かれた結び目からぽとりと白い包みが落ちた。ヒュンケルはそれを拾い上げ、チェストの上に置いた。
     襟元、袖口、上衣の裾。ブーツの底にまで忍ばされていた薬包がずらりと出揃う。どれが毒でどれが毒消しなのか判別できかねたため、「こちら側が上だ」とポップに言い添え、左から順に並べた。おうと返事をしたポップは横たわったままヒュンケルに視線を送ることさえしなかった。
    「示し合わせていたのか?」
     再度の問いに「まさか」と応え、ポップは口の端だけで笑う。
    「姫さんはともかくマァムやアポロさんに腹芸なんてできねえだろ。おれの動きに即興で合わせてくれただけだよ」
     そうかと頷く兄弟子に、でも、とポップは言葉を添える。
    「皆がすぐおれの思惑に気付いてくれたのには訳がある。……腹に据えかねていたからさ。宴のたびに毒を盛ろうとするクソ貴族どもにも、毎回律儀に杯を受け取るお前にもな」
    「……そうか」
     会場を退室する直前、視線を交わしたマァムの表情をヒュンケルは思い出した。怒りとも悲しみともつかない顔をしていた妹弟子。毒を飲んだポップの容態を心配してのことだと思っていたが、どうやらそれだけでは無かったらしい。
     月光に照らされる部屋の中、薄い肌着のみ身につけているポップの身体はぼうっと光っていた。先ほどまでは法衣の豪華な装飾に紛れていたが、倒れてからずっと自ら解毒呪文をかけ続けているのだ。それでもまだ青い頬。一体どれほど強い毒を呷ったのか。ヒュンケルの背中がぞくりと粟立つ。
    「すまない、オレなどのために」
     そう言って肩に手を置くと、「ケッ、別に」と軽い応答が返ってくる。
    「おれが勝手にやったことだ。おめえに謝られる筋合いはねえよ」
    「しかし」
    「うるせえな。もう寝るから黙れよ」
     寝返りをうつようにふいと背を向けられ、ヒュンケルは言われたとおり押し黙った。だが肩に置いた手は外せずにいた。ポップの身体を包むほのかな光が、触れている部分を通じてヒュンケルへと伝わってくる。やがてヒュンケルの全身も柔らかく発光し、温かな魔法は身体の奥底にまで染み渡った。
    「……無味無臭の上に遅効性か。えげつねえな」
     背を向けたままポップが呟く。胃の腑に感じていた重みが薄れ、ヒュンケルは深く息をついた。
    「後で毒消しを飲むつもりだった」
    「一般に出回ってるのじゃ効かねえよ。あいつら相当やばい取引してるみてえだ。今夜の取り調べでその辺全部暴けたらいいけど」
     淡々と告げるポップの背をヒュンケルはゆっくりと撫でた。一瞬びくりと反応した背中は、穏やかな手つきに次第に呼吸を合わせていく。
    「……すまない」
    「だから別にいいって」
     顔だけを振り向かせたポップは少し身体をずらし、ヒュンケルの側に余裕を空けた。意図を悟ったヒュンケルは一旦ポップから手を放し、身につけていた礼服を脱ぐ。
     用意されていた夜着を纏い、ヒュンケルはポップの隣に横たわった。広いベッドは青年二人が並んでもまだ十分に余裕がある。再び背に手を当ててゆっくりとさするヒュンケルに、ポップは小さな声で言葉をかける。
    「……ごめんな、ヒュンケル」
    「……何故お前が謝る?」
     探るつもりはなく、純粋な疑問としてヒュンケルが問いかける。ポップは背を丸め、枕に自分の顔を押しつけた。くぐもった声は更に小さくなり、すぐ隣にいても聞こえづらいほどだった。
    「おれだって……こんなやり方が正解だとは思っちゃいねえ……でも、他に思いつかなかったんだ」
     ぐすりと鼻をすする音が聞こえる。誰より冷静に戦況を見極める地上最強の魔法使いでありながら、誰よりも情に厚く誰よりも臆病な一人の少年の背中がヒュンケルの前にあった。
    「心配かけてごめん。嫌な言葉聞かせてごめん。……信じてねえみてえな真似して、ごめん」
     紡がれる謝罪の言葉を聞きながら、ヒュンケルはひたすらポップの背を撫でた。震える身体を労るように、浮き出た背骨を伝って響いてくる声を、胸の中に染みこませるように聞き続けた。
    「ありがとう、ポップ」
     懺悔が途切れた隙間に兄弟子の静かな言葉がかけられる。とうとう涙腺が決壊したのか、ポップの喉から嗚咽が漏れ始めた。胎児のように丸くなる身体をヒュンケルは背後からそっと抱きしめる。
     遠くから管弦の音色が聞こえてくる。広間ではまだ宴が続いているようだ。二人が眠る客室を冴え冴えとした月明かりが照らす。
     
     それは月がとても美しい宴の夜のことだった。
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