Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    mato_chanchan

    @mato_chanchan

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 4

    mato_chanchan

    ☆quiet follow

    ウォルターロス後の感情と折り合いをつける為に書き殴ったもの。
    やりたい放題。
    大事なことなのでもう一度言います。
    やりたい放題。

    火ルート後の621とフロイト。

    C4-621 「手術開始。」


     無機質な天井、白くすべてを塗り潰すかのような照明、顔の見えない技師、その背後にある無数のアーム。


     それが、『私』の最後の記憶。
     遠い遠い日の、終わりの記憶。


     「お前に意味を与えてやる、621。」


     起動。
     忙しなく脳内を飛び交ういくつものセットアップをこなす自動音声の隙間から、そばに立つ人間の声が響く。手足はまだ動かせず、目も首も動かせない私は唯一動かせる思考の中で思う。

     意味って、なんだろう。







     やがて、視界が開く。視神経が正常に動作し始めたようで右へ左へと視界が揺れる。異常なし。ぐ、ぱ、ぐ、ぱ、と手を握って開く動作を繰り返しながら私を起こした人の事を考えた。
     まず私を起こした人間は私を自分の基地へ連れていきまずは基本的なデータをインプットさせた。それから、やがて必要になるであろう知識を私の脳に詰め込むと人型兵器へと私を積み込んだ。
     アーマード・コアと名付けられているそれは、私の新しい手足となった。

     ルビコン03という惑星に私を投下させる直前になっても、彼は余計なことは一切話さなかった。会う機会もそうそうなく、データのインプットもすべてAIに任せられていて顔を合わせる機会はほぼない。そういう意味では、到着してからの方が声を聞く機会が多かった。
     ハンドラー・ウォルター。それが私の新しい雇い主。私を長い長いコールドスリープから起こし、そして何かを成そうとしている人間。

     最初の印象はそんなところだった。










     変わったのは何時からだっただろう。

     誰が変わったのだろう。きっと彼も私も、長く一緒に過ごしすぎた。彼はきっとどこかのタイミングで覚悟を決めていたのだろう。或いは、私にメッセージを残した時点で。
     『    』

     アーキバスの再教育センターから自分を脱出させる際に暗号化された通信。その保存されたログを、折に触れて再生する事が増えた。焼き払われ、何も残らない死の惑星を高速で飛びながらまた最初からログを開く。繰り返し、何度も聞いた元雇い主の声。今はもういない、人間の、声。
     胸を掻きむしりたいような、冷たいものを無理矢理体内に押し込められたような感情が湧き上がる。その押し込められた冷たい感覚が瞳にまで伝達されて溢れそうになる直前、乾いた砂に吸い込まれるように消えた。身体は何度も何度も動かした通りに、淀みなく動くのに胸だけがヒリヒリと焼け付くように痛む。この痛みを、あの人も感じていたのだろうか。この痛みを抱えて、あの人はどうやって一日を越えていったのだろう。











     すべてを焼き払い、ほとぼりが冷めるまで身を潜めたていた私はその後ハンドラーが所属していた組織にコンタクトをとった。
     オーバーシアー。この惑星以外のものを守るためにこの惑星を犠牲にした人々。最初に会った時、無表情で銃を向けた自分に彼らは私と同じ表情を浮かべて静かに口を開いた。
     「我々は既にあなたと同じ罪を背負っている」
     そこには、ハンドラーと同じような感情を滲ませて底のない黒を瞳に宿す人々がいた。これが、あの人が言っていた友人なのだろうか。もう確かめる術のない事だ、と一つ瞬きをして引き金を引こうと手を力を込める。
     「独立傭兵レイヴン。あなたを雇いたい。」
     数人いるうちの1人が両手を上げながらそう言って前に出た。曰く、我々にはデータがあるが現地の情報調達までは手が回らない、それを専用機体を有するあなたに依頼したい。銃を眼前に突きつけられてもなお堂々と、震えずはっきり言い放たれた言葉を噛み砕く。
     『仕事だ、621』

     二度と聞くことのない声が不意に鮮やかに蘇る。
     銃から手を離しても彼らは表情一つ変えずにこちらに右手を差し出した。
     「ようこそ、レイヴン。オーバーシアーへ。」
     その人間は、毅然とした態度でそう言うと差し出した手をしっかりと繋いだ。




     「レイヴン。必要な情報はこれですべてです。帰投して下さい。」
     かつて私を雇うと言った女性はそのままオペレーターとなって新しい依頼主となった。
     「数値に異常なし、ここにはもう集積するほどのコーラルはない、か。」
     早速データを照合し始めたのだろう、ブツブツと呟く声がすべて繋がれたままの通信から流れてくる。だがその声も途切れ、訝しげな感情が宿った。
     「レイヴン、4時方向に何か見えますか?高速でそちらに向かって来ています。」
     「4時?」
     確かに何かが太陽の光を反射して鈍く光っている。だが視認するには距離が遠い。
     「この、識別番号・・・これって!?」
     驚愕の声とほぼ同時、共通回線で弾む声が鼓膜を割いた。
     「やはりそうか、お前、スネイルのログで見た機体だ、そうだろ、なぁ!独立傭兵!!」
     「アーキバス所属、V.Iフロイト・・・!!」
     悲鳴のようなオペレーターの声と同時、拡散するいくつもの銃弾がこちらに迫ってくるのをどこか遠い世界のことのように眺めてからブースターを小刻みにふかす。切り裂かれた空気の音が機体越しでも轟き向かってくる攻撃を右へ左へとかわしていく。
     「やるな、流石はレイヴン、元ウォルターの猟犬、世紀の大犯罪者!」
     その声音は憎悪にまみれた罵倒ではなく、純粋な賞賛の響きを持っていた。その間にも攻撃の手は止まない。
     「レイヴン早く離脱を、」
     「迎え撃つ」
     「レイヴン!?」
     相手から展開されたレーザーオービットはまるで逃げ道を塞ぐように進路を阻む。それは容赦なく命を狙う動きではあったが、それよりも逃さないという強い意志を感じるものだった。
     「相手は私を逃がすつもりはない。なら、撃ち落とす。」
     「レイヴン!」
     叫ぶ声に続いて、嘘、あのレーザー、追尾でなく搭乗者が操作しているっていうの・・・!?
     驚愕する声を置き去りにして、レーザーの隙間を縫うようにこちらを狙うライフル弾を紙一重で躱していくが完全ではなく、残りAPが少しずつ削られている事を自動音声が警告する。さすがに無傷とはいかない。
     「流石だ、このまま心ゆくまでお前と撃ち合っていたい」
     お前はどうなんだ、レイヴン。
     心の底から戦いを楽しむ声が、弾幕と共にこちらの意思を図ろうと降り注ぐ。
     「わたし、は、」
     「戦いそれ自体を、たのしいと思ったことなんて、ない」
     ぎゅう、と操縦桿に力を込めてぽつりぽつりと呟く。声色はがらんどうで、失った後の虚空を思わせる。その虚無をそっとなぞるように、でも、と続けて口を開く。
     「でも、わたしはこれがあるから飛べる」
     「あのひとがこの翼をくれたから、飛べる。・・・まだ、生きていける。」
     舞い上がる爆炎の中から躍り出たフロイトの機体、ロックスミスが青い軌跡を描いて命を刈り取ろうとブレードを振り下ろす。
     「だから、だからわたしは飛ぶ。」
     AP残り30%。スタッガーになるギリギリのところで距離を取りブーストペダルを一気に踏み込む。
     「邪魔はさせない!!!!!!」
     絶叫すると同時に目の縁から凍えた感情が一つ、落ちた。
     






     「・・・レイヴン。」
     震える手を反対の手で握って、私はオペレーターと回線を繋ぐ。

     「これは、この罪は、わたしのもの。」
     償うことも、裁かれることもない、あの人がくれたすべて。
     「この罪は、わたしだ。」

     だから今日も、私はこの空を飛ぶ。
     空はどこまでも続いていかない。それを知った日から、私は飛び続けると決めた。


     轟々と燃え盛る炎を見て、わたしはわたしをくべる。ちろちろと伸ばされるように火の手が上がって、やがて元に戻る。

     震えは、止まった。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works