お誕生日おめでとう、私!!!「お誕生日、おめでとー!!」
リビングに集まった悪魔達が私の誕生日を盛大にお祝いしてくれた。
部屋から連れ出してくれたのはアスモで、プレゼントを真っ先に渡してきたのはマモン。
「ちゃんと俺様が稼いだ金で買ったやつだかンな!」なんて一生懸命に言うものだから、お礼の言葉と共に少しだけ頭を撫でてあげた。顔を真っ赤にして去っていくマモンと入れ替わりでプレゼントをくれたのはレヴィ。
私が欲しがってたゲームの事を覚えててくれたみたいで「後で夜通しプレイしような」ってレヴィもそのゲームがプレイ出来るのを楽しみにしているようだった。
「あまり夜更かしばかりするなよ」と注意をしてくれたのはサタン。プレゼント悩んだんだけど、俺からはこれ。と手渡してくれたのは綺麗にラッピングされている。そしてやけに重い。「選びきれなくてな」なんて少しだけ申し訳なさそうに笑う彼に、読みがいがあるよと伝えると、嬉しそうに笑ってくれた。
後で感想を伝える約束をして、手招きして呼んでくれているアスモの元へ。
「ぼくが開発も携わってるやつ!オススメだから使ってみて」
そう言って渡してくれたのは見たことの無いコスメセット。
きみに1番最初に使って欲しかったんだ〜なんて万遍の笑みで言われてしまったら受け取らないわけにはいかない。アスモのコスメなら尚更だ。アスモのセンスの良さは私が一番知っている。
ベールからはオススメだという肉料理にケーキ。食べ物は全てベールが用意してくれたそうだ。
あれもこれも食べて欲しいと差し出してくるベール。自分も食べたそうにしていて、あーんをしてくれるけれどまず自分が食べてしまう、そんなベールが微笑ましかった。
「すまない」と言いつつフォークで食べ物を私の口元に運んでくれる。とっても美味しいよと答えれば、ベールも嬉しそうに笑ってくれるのだ。
「ほら、口についてる」と拭ってくれたのは隣にいたベルフェ。
「ぼくからのプレゼントはこれ」そう言って渡してくれたのは触り心地のいい枕。
最近熟睡できないってベルフェに相談したのを、彼は覚えていてくれたのだろう。これは今イチオシの枕だから。絶対良く眠れるよ。そう言って優しく微笑んでくれる。
ベルフェのイチオシなら間違いないはずだ。今夜から早速使おうと思う。
一通りみんなからお祝いの言葉とプレゼントを受け取って、ふと、一人足りないことに気付く。
「あ、ルシファーでしょ?今夜はどうしても外せない用事があってまだ帰れないんだって」
せっかくのきみの誕生日なのにね〜。と顔をムッとしながらアスモが教えてくれる。
忙しいなら仕方ないよ、とこの場の雰囲気を壊したくなかった私はアスモに笑顔で伝える。
そうか、ルシファーはいないのか。
私が恋心を抱いてる当の本人はこの場にいない。
どうしても外せない用事…きっとディアボロ絡みの件なのだろう。彼にとって譲れない用事なんてそれしか思い浮かばない。
好きだ、愛してる。そんな言葉を貰って年柄もなくはしゃいで、浮かれていた。
でも、あれからしばらく経っても、彼から肝心の言葉は貰っていない。
つまりは、付き合ってはいないのだ。
お互いに同じ気持ちなのに、付き合ってはいない。
決定的な言葉を貰えなければ、私に都合のいい解釈をする勇気はない。
かと言って、私から言うことも出来ずあやふやな関係が続いている。
恋人でもないのだから、こちらの誕生日を優先する必要は無い。当たり前のことだ。
そう思い込むことにした。
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楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、時計の針は23時を指していた。
一足先に自室に戻った私は、ベッドの上で一人、ため息をつく。
あと一時間。
心のどこかで待ち望んでいる彼はまだ帰ってこない。
…当たり前だが、連絡もない。
もう眠ってしまおう。そう思って布団に潜ろうとした時、D.D.D.の画面が光る。
チャットが飛んできたようだ。
『起きているか』
そのたった一文で、心臓が跳ね上がるほどに嬉しかった。
でも、天邪鬼な私はそのチャットを開かず、D.D.Dを伏せて置いた。
少しくらい困らせたっていい。そんな子供っぽい思考と意地悪心もあった。
5分程経っただろうか。D.D.Dが震える。
電話か…?と思い手に取ると、またチャット。
『これから帰る』
『君の部屋に行くから、鍵を開けておいてくれ』
ドクン、と心臓が波打つ。
これから、ルシファーが部屋に来る。
私の誕生日を知らないわけではないし、なんだかんだで気を使ってくれる彼はきっとお祝いの言葉をくれるのだろう。
でも、お祝いの言葉より欲しいものがあった。
それを、トクベツな日である今日なら私にくれるだろうか。
そんな期待を込めて、ゆっくりと起き上がり鍵を開ける。
起きて待つのはなんだか気恥ずかしくて、またベッドへと潜る。
どくんどくん
心臓の音がうるさい。
変に期待してはいけないのだ、今までだってそうだったんだから。
はやく、はやく会いたい。
待ちきれない。
何度も何度もD.D.Dを見るが、見る度に時間はそんなに進んでなくて。
私の心ばかりが急ぐのだ。
――ふと、足音が聞こえる。
それは確実にこちらへと向かってくる。
間違いない、ルシファーだ。
部屋の電気は消してあるから起きていても表情がはっきり見えることはないが、やはり起き上がることは出来なかった。期待と緊張と恥ずかしさが極限まできているこの状態では無理である。
足音は部屋の前で止まり、ゆっくりとドアが開く。
「───」
静かな部屋に、優しげな声が響く。
ドアが閉まった音が聞こえて、またゆっくりと足音が近付く。
私は返事をするタイミングを逃したのもあり、気まずくなって寝たフリをすることにした。
頭の中でどうしようかとぐるぐる考えている間に、彼はベッドまでやってきていたらしい。
微かに笑い声が聞こえる。
「起きているんだろう?」
…バレている。こうなれば寝たフリも意味は無い。
観念して布団から顔を出す。目覚めのキスが必要だったかな?と意地悪な顔で言われ、私の顔は真っ赤になった。
「…っ、い、いいです」
丁重にお断りしてベッドから起き上がる。その姿を見てまた笑うルシファー。
そういう所がズルいのだ。簡単にそういうこと言うくせに、肝心なことは言ってくれないのだから。
「…今日が何の日か、分かる?」
極めて冷静に言ったつもりだが、少し拗ねた感じになってしまった。
「ああ。君の誕生日だな」
遅くなってすまない、とおでこにキスを一つ。
〜〜〜〜〜そういうとこが!ズルいのだと…!!
言えたら良かったのだが、される事自体は嫌ではないので言えるはずもなく。
ただ私の気持ちだけが先走る。
きっとこのままではずっとあやふやなままだ。
少しのわがままなら許される日であるなら、私から望むしかないのだろう。「あのね」と言葉を区切り、意を決して次の言葉を紡ぐ。
「ルシファーは、私に好きだって言ってくれたけど…その先は、えっと…」
決定的な言葉をください。その先に行かせてください。
言いたくとも言葉が出てこない。ここまで来てこれか…と自己嫌悪してしまう。
私が彼に求める願いはたった一つ、
恋人になってほしい。ただそれだけなのに。
押し黙ってしまった私を静かに見ていたルシファーが口を開く。
「おまえは」
「おまえは、俺の事をどう思ってる?」
え、?と顔を上げると少しだけ眉を下げてこちらを伺うように見る彼と目が合う。
その瞳にはほんのりと不安を纏っているような気がした。
そういえば、想いを受け取るばかりで私はきちんと言葉にしていただろうか。
彼に、ルシファーに、ちゃんと自分の気持ちを…。
「ルシファーが、好きだよ」
しっかりと目を見て、気持ちを伝える。
私の想いを受け取った彼は、一瞬目を丸くして、ゆっくりと瞼を閉じ、そうか。と応えた。
そして力が抜けたようにベッドに座り、至近距離で私の顔を見つめる。
「――俺の、」
俺の、恋人になってくれないか
普段のルシファーからは想像が出来ないほど、弱々しく、今にも泣きそうな顔で、そう告げられて。
返事なんて決まっている。ずっと欲しかった言葉を貰えたのだから。
私の頬を触る彼の手が微かに震えている。その手に自分の手を重ね、おでこをくっつける。
「よろこんで。」
互いに笑い合う。やっと、やっとこの時がきた。
「誕生日おめでとう、───。愛しているよ。」
最愛の彼からのお祝いの言葉。
私はこの日をずっと忘れはしないと、心に誓うのだった。