これから俺は松風天馬!サッカーが大好きな中学一年生だ。
ちなみに先週死んだばっかりだ。
いやあ、信号待ちしてたらシュキオビ運転のトラックに突っ込まれて轢かれるなんて運がなかったなあ。
え?じゃあなんで今喋ってるのかって?それがさあ、聞いてよ。おれ幽霊になっちゃったんだ!すごいでしょ。死んだらあの世でサッカーできるのかな、とか考えてたけど…なんかもうしばらくはみんなと一緒みたいだよ。
あはは、わかんないって顔してる。おれもそうだよ。ボールには触れるし宿題なんかしなくていいし、案外楽かもしれない。でも誰もおれに気づかないんだ。
秋ねえはおれの顔が目の前にあってもずっと暗い顔してるし、こっそり見に行った神童さんは広い部屋の中でうなだれてずっと泣いてた。剣城?あ、そうそう!おれ剣城の話したかったんだ。いやあ、幽霊になってから記憶がはっきりしないや。
そう、それでね、剣城のとこにも行ったんだけどさ、あいつずっとおれが写ってる写真見て天馬、天馬、って震えた声で言っててさ、もちろんおれには気づかない。
でもさ、おれだって剣城のこと悲しませたくないな〜って思って。どうしたらいいか考えたんだ。そしたら思いついたんだよ!一緒にサッカーできれば剣城も寂しくないでしょ!どう、名案じゃない?
それでさ、まずおれがいることに気づいて貰わなくちゃいけないからいろんなものに触ろうとしたんだけど全っ然ダメで。全部すり抜けちゃうの。剣城にも触れないし。よく触ったら怒られてたセットされてる髪もダメ。おれ困っちゃってさ…どうしたらいいと思う?
え…ボールには触れるんじゃないのかって?うわあ!そうだった!きみ頭いいんだね…。じゃあ今からやってくるよ!バイバーイ!
「天馬…」
永遠にサッカーするって言ったじゃないか…あれは嘘だったのかよ。
俺は液晶に表示されたあいつの、泥だらけのくせに若葉みたいに爽やかな笑顔に呼びかけた。
文字盤をぎゅっと強く握りしめるが、壊してしまいそうなのでほどほどにしておく。
もういないあいつに語りかけるのも虚しくて携帯を閉じようとしたその時だった。
何かがトン、と落ちた音がする。思わず顔を向けると、棚の上に置いたはずのサッカーボールが床に転がっていた。俺が拾おうと手を伸ばすと、嫌がるようにさらに部屋の隅へと移動した。
俺は何故だかわからないが、どうしても言わなければいけないような気がして、「……天馬?」といないはずの名前を呼んだ。
するとまるで嬉しくて尻尾を振る犬かのようにボールが飛び跳ねる。間違いない。姿は見えないが天馬がそこにいるんだろう!
「お前、サッカー、できるんだな」
うん、と答えたいのかボールが一回跳ねる。
俺は衝動でボールをきつく抱きしめた。
「ああ、天馬…天馬……姿は見えなくてもいい。ただ俺とこれからもサッカーができるなら、それで充分だ」