ショタ🎸「かかれぇーーーーー!!!」
一年に一度、天使が地獄の住人を粛清するエクスターミネーションの日。
今回のエクスターミネーションは地獄のプリンセスがエクスターミネーションを指揮する天使との間に溝を作ってしまい、半年に1度に期間が短縮された。
エクスターミネーションを指揮する天使の号令で天使たちは地獄に向かう。
「さぁ、ボス。私たちも」
「わかった!」
最後にその指揮する天使の小さな手を補佐の天使、リュートが取り、地獄へ導いていた。
エクスターミネーションを指揮する天使、アダムは子供だった。
人類の祖と言われ人類の父でもある彼が何故子供の姿なのか。
塵から生まれた彼には子供時代というものがなかった。
その子供時代を埋めるかのように天使に昇天した際に主がアダムを子供の姿に創造しなおしたのだ。
心身ともに子供の彼は補佐のリュート含め天国の天使に甘やかされて暮らしていた。
何もすることがない毎日に飽き、なにか仕事がしたいとごねたアダムはエクスターミネーションの指揮を任された。
と言っても彼の役目は天使軍の士気向上。
応援係だった。
しかし、彼も一応格好がある。
そのため、熾天使セラに与えられた武器型のギターを持ち戦場に赴いたわけだ。
「やれぇー!そこだぁぁ!!」
天使軍が悪魔たちを掃討する間ギターを鳴らして応援する。
「ボス、あそこが」
「あれが前会ったおねえさんのホテルか。なんか変な術使ってるな……そういう時はこれを使いなさいとセラから貰った道具がある」
キラキラと光る天使が作った道具。
「おりゃー!!」
その道具をホテルを覆う術に投げるとその術が消えた。
「見事です、ボス」
「やったぁ!」
「では、私も裏切り者を倒してきます。ここでお待ちください」
「わかった」
リュートがアダムの元を離れホテルへ向かった。
「んー?」
ずっと応援をしていたアダムは段々飽きてきていた。
そもそも指揮を執る自分が何故ここでずっと応援していないといけないのか。
ホテルの屋上に降り立ち建物の縁に座る。
ぷらぷらと足を遊ばせた。
「暇だ」
「アダム…?」
「!…おねえさん。私と戦いに来たのか?」
「私は、あなたと戦いたくなんかないわ…」
持っていた武器を下ろすチャーリーにアダムは怒りをぶつける。
「何故だ!私はお前の敵だ!それに酷いこともいっぱい言ったぞ!?」
「それは……許せないけど、でも、貴方とは…」
「うるさい!お前がやらないなら私がする!!」
アダムの小さな体躯に見合わない大きなバトルアックス。
ふらふらとチャーリーの方へよろつきながら向かう。
「アダム、もうやめましょう…?!」
「いやだ!」
ぶんっと身体を浮かせながらバトルアックスを振るう。
チャーリーの伸ばした手に少し掠り、傷を作った。
「いたっ…」
指先からぽたぽたと血が流れ、アダムはびくりと身体を震わせる
「あっ………ど、どうだ!?私に恐れをなしたか!?降参か!?」
チャーリーはどうしたものかと悩んだ。
降参する訳にはいかない、下にいる仲間を裏切ることは出来ないからだ。
しかし、かと言ってこのままアダムと戦うのは避けたかった。
するとアダムの後ろに白い悪魔が降り立った。
「こら!!」
「ぎゃん!」
アダムの頭上にゲンコツが落ちる。
「ちょっと、パパ!」
「チャーリー、待たせてすまない」
「うぅぅぅ!痛い!殴ることないだろう!」
「お前は天国から指揮を命じられたはずだが?何故現場に来ている?」
「私はエクスターミネーションの全てを任されている!何をしても私の勝手だろう!」
そういうアダムの頭に再びごち、とゲンコツした。
「ならば、お前の部下が私の家族を傷つけた。地獄生まれの者には手を出さないのがルールのはずだ。それにチャーリーも、地獄育ちだ。罪人ではない。それを傷つけたお前は責任を負うべきだと思うが?違うか?私のシマを荒らしたお前をここで殺すことだって出来るんだぞ」
悪魔の姿で怒りを露わにするルシファーにアダムの瞳に水の膜がはる。
「ぅっ………」
「パパ……子供にそんな……言いすぎよ……」
「そうか?こいつは子供の姿だが十分な時間を天国で過ごしている。子供の姿をしているが相応の態度は取れるはずだ」
「でも……」
チャーリーはアダムをかばうがルシファーは許さないと言ったように言葉を続けた。
「私はこいつが大人であった時を知っている。その時から横柄で乱暴な態度が目に余っていた。それが今では子供だって?子供でも同じ轍を踏もうとしている。ならば、今度は大人が、それを正してやるべきなんだ」
ルシファーはアダムの顎を掴み、アダムと目を合わせる。
「さぁ、お前に与える、罰を考えよう」
「ーーーっ!!」
ぎゅ、と目を閉じると涙が零れた。
大粒の涙が頬を伝いぽろぽろと溢れだす。
決壊した涙はもう止めることができなかった。
「わたし、わるく…ない…!わたしはぁ…!わるくないもおおん!!」
ルシファーの手を振り払い地べたに転がり駄々をこねた。
「だってわたしわるくない!!みんなが、みんながぁ!!やれっていったからやっただけだもん!!セラだって、私にまかせるっていってくれたもん!!リュートも、みんなも、罪人を殺すことは大切なことだって!!いってくれたもんーーー!!」
自分は悪くないと大声で泣き叫びながら駄々をこねるアダムにチャーリーはおろおろとし、ルシファーは頭を抱えた。
「ボス…!!ボス…!!アダム!!」
アダムの泣き声を聞きつけ、ぼろぼろの身体でリュートがホテルの屋上へ到達し、アダムを抱きかかえる。
「ふえええ、りゅーとぉぉぉ!!」
「…お嬢さん、アダムを置いて天国へ帰れ。」
「出来ません…!アダムも連れて天国へ帰ります…!!」
「アダムの処遇は私が決め、セラに報告する。何、殺しはしない」
「アダムを痛めつけることはしないと約束しますか」
リュートはルシファーに問うた。
ここでアダムを置き帰ることはできないがルシファーの言葉を無視し、アダムを連れ帰ることは不可能だということも理解していた。
リュートに残された選択肢はもはやここにアダムを残していくが危害を加えないと約束させることしか出来なかった。
「痛めつけたり、怪我をさせることはしないと約束しよう。しかし、躾の範囲内だがな」
「…わかりました。」
「ふえ、りゅ、と?」
「ボス、必ず迎えに来ます」
アダムを腕の中から離し、ばさりと羽を広げる。
「撤退だ。撤退しろ!!」
「うぇぇん!!やだああ!!りゅーとおお!!わたしをおいていかないでぇぇ…!!」
アダムの言葉に後ろ髪を引かれながらリュートはアダムを置いて天国に帰っていった。
「ひっく…ぐす…なんで…なんで…うぇぇ…ひっく」
恥も外聞もなく泣き叫ぶアダムは母に置いて行かれた子供のようで。
チャーリーは腕を伸ばすがそれをルシファーが阻止した。
「がんばったチャーリーたちにはパンケーキを御馳走するとして。さて、アダム。これから忙しくなるぞ。いつまでも泣いているんじゃない」
「ひっく…ぐす…うぇぇん…」
地面にうずくまって羽で自分の身体をかくして泣くアダムを抱きかかえる。
「!」
「全く。泣いてばかりではこれからやっていけないぞ。今日から地獄での生活が始まるんだから。取り敢えずは、私の部屋に来なさい」
しゃくりあげるアダムを抱きかかえホテルに帰っていった。
***
「汚れた身体をなんとかしないとなぁ。風呂に入れてやろう」
「ん…あひるさん入れてほしい」
「…あひるさんなら腐るほどこの部屋にある。好きなものを持ってお風呂にいきなさい」
風呂には必ずアヒルの玩具を持って、入っていたアダムがルシファーに要求するとルシファーは部屋のアヒルを見せた。
「…これがいい」
選んだのはセラによく似たアヒルと天使に似せて作ったアヒルだった。
「さぁ、お風呂に入ってきなさい」
「…ルシファーは一緒にはいらないのか?」
「え?」
「私は1人でお風呂に入ったらいけないんだ」
ルシファーは目を抑えて天を仰いだ。
甘やかすにも限度があるだろうと。
はぁ、とため息をついた。
「アダム、大人になったら1人でお風呂に入らないといけないんだ。今日は一緒に入ってやるが明日以降は1人で入れるようになるんだよ」
「やだ!!」
「…」
アダムの躾はまだまだ難航しそうだとルシファーは痛む頭を抑えた。
***
『アダムは元気にしていますか?リュートから貴方がアダムを拉致したと報告が上がっていますよ。』
「セラ…。流石に1人の娘を育てた父として言わせてもらう。甘やかしすぎだ。エクスターミネーションでのことも、今までの事も」
『さて、いったい何のことやら』
しらをきるセラにルシファーは続けた。
「エクスターミネーションはアダムが何か仕事がしたいといったからさせたとアダムから聞いている。それに今あいつと生活して見て思った。何もできないじゃないか」
『…』
天国との会議。
ルシファーはホログラムのセラとアダムについて話していた。
他にも話す議題はたくさんあったが一番最初の話題がアダムとは。
本当に甘やかされている。とルシファーはため息をついた。
「お前たちがなにも教えてこなかったからこっちで大変だ、1人で風呂にも入れない、1人で寝れない。私のベッドはあいつのものでいっぱいだ。」
『可愛らしいではありませんか』
「それに好き嫌いも多すぎる。もっとバランスよく食べさせないとだめだ」
『地獄の食べ物がアダムの身体に合いますか?すぐに天国の食べ物を…』
「そういうところだ。全く。アダムはしばらくこちらで面倒を見る。しっかりとした教育と躾が必要だ。甘やかしすぎもよくない」
『子育てに成功したことのない貴方がそんなことできるのですか?』
「チャーリーで成功しているだろうが!!」
怒りのまま通信を切った。
その後10分もしないうちに天国から食料が大量に送られてきた。
アダムが好きなお菓子や玩具、寝巻などが入っていた。
「ホームステイじゃないんだぞ…」
ため息をついてそれらをアダムの見えないところに隠した。
今後ご褒美として少しずつ与えよう。
そう、ルシファーもああいっていたがなんだかんだアダムに甘いのである。
***
アダムの仕事は朝起きてルシファーを起こすところから始まる。
「ルシファー、起きて。時間だよ」
「ん…。」
「おきてーー!!」
ルシファーの上で飛び跳ねなんとか起こした。
「んぁ…おはようアダム」
「おはよう、ルシファー」
おはようの挨拶をする。
その挨拶も最初は出来なかった。
ここまで来たのはルシファーの躾の賜物だ。
「朝ごはんを作ろう。紅茶を淹れてくれ。火傷しないようにな」
「わかった!」
ルシファーはキッチンに立ち、朝食の準備をする。
アダムはその横で台に乗り、ポットにお湯を注いで紅茶を淹れていた。
「今日はアッサムにしたのか?」
「この缶が可愛いからこれがいい」
「そうか」
紅茶の缶はアダムの好きな動物のシールを貼り、気分で選べるようにしていた。
自発的に何かを選ぶ、という教育だ。
「ほら、できたぞ」
朝食を並べてテーブルにつく。
子供用の椅子を自分で引いてアダムも席に座った。
「いただきます!」
「ゆっくり食べなさい」
今日の朝食はベーコンパンケーキとサラダ。
野菜を嫌がるアダムに最初は口にサラダをねじ込んだものだが、ドレッシングをかけてやることでそれも解決した。
そして、アダムはパンケーキにたっぷり蜂蜜をかけて食べるのが好みなので蜂蜜は子供でも扱いやすい形のポットに入れてある。
カトラリーも子供用の物を設えアダムに与えた。
「ん-ー!美味しい!」
「それはよかった」
口の周りを蜂蜜で濡らしながら朝食を食べる。
それを眺めながらルシファーは自分の食事に手を付けた。
「口の周りを汚すのはよくない。ちゃんと口に入るサイズに切って食べなさい」
「はぁい」
小さな手でパンケーキを切り分けていく姿に何とも言えない感情が芽生える。
甘やかし、切り分け、口に運んでやりたい欲を何とか抑えこむ。
アダムはなんとも庇護欲を掻き立てる存在だ。
さすが主が再度作りなおしなだけある。
「?ルシファー?」
「なんでもない。食事を終えたらロビーにいくから早く食べなさい」
***
朝食の後はホテルの手伝いをする。
チャーリーと一緒にエクササイズをしたり、ハスクの手伝いで買い出しに行ったり、エンジェルと一緒にお菓子を作ったり。
清掃員と一緒にホテルを掃除したりとなんだかんだと頑張っている。
元より素直な性格であることは見てわかっていたので毎日少しずつ出来ることが増えていった。
「今日もがんばった!」
「よかったな、今日のご褒美だよ」
毎日毎日送られてくる天国の物を少しずつご褒美として与える。
「わぁ!私が好きなお菓子!」
「よかったな。労働には必ず対価が生じる。働かざる者食うべからずといったもんだ」
「??」
「まだわからないか。いずれわかるときがくるよ」
頭を撫で、今日やった事を褒める。
すると浮かない顔をしてアダムがルシファーを見上げた。
「なぁ、ルシファー。私はいつになったら天国に帰れるんだ?」
アダムの言葉にぎくりと肩を跳ねさせる。
ルシファーはアダムを囲ってずっとこの生活が続けばいいと思っていたからだ。
「それはセラが決めることだ。しばらくはここでの生活を頑張りなさい」
嘘だ。
セラは日に日に早くアダムを天国に返せと連絡をしてくる。
しかし、こいつを手放すのが惜しくなっている自分としてはまだ返したくないと期日を伸ばしている。
いつまでもこの生活を続けるわけにはいかないとわかってる。
アダム自身もこの地獄の生活で自立しかけている。
このまま、心身共に自立できるようになれば自分の意志でどちらに残るか決めるだろう。
その時が来たときに…
こちらを選ぶよう、仕向ければいい。
「?ルシファー?」
「…何でもない。アダム、明日は何をして過ごそうかな。労働をしているがお休みももちろん必要だ。好きな事をしてリフレッシュする。それも労働をする上で大切なことだ」
「ふぅん。私明日はルシファーと一緒に居たい!」
「!…そうか、じゃぁ、明日は私の仕事を手伝ってもらおうかな」
「うん!」
屈託のない笑顔を向けられる。
仕事を手伝うといいながらアダムが介入できるような仕事はない。
ルールーランドにでも連れて行って遊園地で遊ばせるか。と思案しながらアダムを抱き上げる。
「さぁ、お風呂の時間だよ。今日は何のアヒルにしようか?」
「これがいい!」
選んだのはルシファーによく似たアヒルとアダムによく似たアヒルだった。
「これ、私たちに似てる!」
「そうだね、似せて作ったからね」
「ルシファーが作ったのか!すごいな!私にも今度作り方を教えてくれ!」
「そうだな」
アダムの丸い頬にキスをしてバスルームに消えていった。
END