「看護師長は、今年でいくつになるんだったか」
リオセスリはふと、そう尋ねる。水の下、紅茶の香り漂う彼の執務室で、問われた張本人──シグウィンは、拗ねたような表情を浮かべて、もう、とため息を吐きつつ口を開いた。
「レディに年齢を聞くなんて、マナー違反なのよ。公爵だって知ってるはずよね?」
「おっと、そうだったな。申し訳なかった」
謝罪の言葉を口にした彼は、どこかうわの空だった。アフタヌーンティーに、と淹れた紅茶にも口をつけない。ただその水面が反射する光を見つめていたリオセスリは、何でもない風を装って、呟くように投げかけた。
「俺がここに来た日からずっと、看護師長は変わらないな」
そんなこと、口に出さずとも、当たり前のことだと知っている。人間に近い見た目をしていても、彼女はメリュジーヌなのだから。水龍の眷属、フォンテーヌに住むすべての人の良き隣人。そんな彼女と自分の歩幅を比べること自体、意味のないことなのだと知っている。けれど。
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