身体の妙なスイッチが入って泣く話。「愛されたことがないからあんな本の虫に育つんだ」
大したことではなかった。だから聞こえないふりで立ち去った。ただ、全く謂れのない罵倒を浴びただけ。普段なら気にもしない。本当にそう思うのに。
その場をあとにして数分、長く続く白いスロープの上で。
ぽろ、と瞳から涙が溢れ出た。
「アルハイゼン?」
足が止まったアルハイゼンに気づいたのだろう。緑の学帽を被ったカーヴェが振り向く。カーヴェは大きな瞳をさらにまん丸く見開いたあと、アルハイゼンの手をとって、誰にも見られないように、隠すように、ラザンガーデンのドームへと誘った。ステンドグラスが埋め込まれた屋根の下で覗き込む瞳が心配に揺れている。
違う。あんな正当性のない主張。百の反証だって言い返せる。傷ついたわけではない。なのに涙が止まらない。
2272