気分 溶けたアイスが手首を伝う。
近くの広場で元気に遊ぶ子供達の声、そよ風による木の葉の掠れた音が混ざるお昼過ぎ。
今の気分は…。と食後のデザートと一冊の本を持ち、木の上で優雅に本を読みふけっている最中だ。題名に目を惹かれ、たまたま手に取ってみた本だったが意外にも面白い。
器用に片手でページを捲っては、食べかけのデザートなんて忘れて先へ、先へと読み進めてしまっている訳で。
一番の盛り上がりを読み終わると一気に味わえる満足感。そして集中力がきれる感覚。ついでに片手への違和感。
「…忘れてた」
自分の集中力への融通の利かなさに苦笑を零す。改善させる気はさらさらないけれど。これも一つの風流!…使い方間違ってるかなぁ。と自分自身にツッコミをすると、やっとアイスを持っていた片手へと目を向ける。
溶けに溶けたアイスは本来の持ち場を離れ、重量に逆らわず、塊ごと地へとかえっている有様だ。
地面に落ちたアイスを観察するとなにやら黒い点々が見える。それが列を作っているものだから直ぐに蟻だと察した。
甘いものを巣に持ち帰る習性があるのは覚えているが、流石に蟻が固形物以外のものをどう運ぶのかは忘れたのか覚えていない。思い出そうとしてもなにも出てこない。…なら調べるしかないじゃないか。
開いていた本はまだ読み途中だと言うのにしおりもせずに勢いよく閉じると、脇に挟みこむ。そして手慣れたように木から飛び降り、少し早足でその場を後にする。変に気になって仕方がない。あぁ、そうだ。図書室に行く前に手を洗わなくては。
手洗い場に着くと手慣れた手つきで変に長い横髪を肩に引っ掛け、濡れない様本を適当に横側に置く。蛇口をひねり、流れゆく水と戯れる。
地下から引っ張ってきているのか、出てくる水は外の気温に似合わず冷たい。このまま水遊びをしたいぐらいだ。と感情に思考を任せてしまう。
途中まで無心で流れる水を見詰めた後、おもむろに本来したかった事を思い出す。そうだそうだ。ボクは図書室に向かおうとしていたはず。
きゅっ。ようやく流水と戯れるのをやめる。ハンカチはあったかな。適当にポケットの中を確認すると運良く入っていたのでそれを使う。そう言えば今朝、同室の子に持たされた記憶が蘇る。
最高だね。役にたったよ。この布切れ。
手も綺麗になった事だ、これからやっと図書室に向かう。鼻歌を歌いつつ、何を確認しに行くんだったかな。と考えながら着々と目的地に向かい始めようとした。しかし、何かを忘れている気がして足を進められない。手を洗う前に何かを持っていた気が…。
色々ごちゃごちゃしている思考回路の中、思い返してみるとそういえば本を持っていた気がする。少し戻って手洗い場の横手を見ると見知った本が一冊。忘れずに思い出したボクに賞賛の声があっても良い気がする。
そうだ、この本を読んでアイスが溶けたんだった。色々と思い出し、調べたかった内容も思い出すと今度こそ図書室に向かう。こんなにもグダグダと過ごしていたら、蟻の本を探している途中でチャイムがなるだろうな。と察するが…まぁ。授業はサボろう。
今はボクの好奇心の方が優先度が高い。誰か同級生に見つかる前に図書室に逃げ込もう。
そう判断すると小走りで図書室に向かった。