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    tsumiri__

    赤子の詰莉のss置き場なんですね。ここは。

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    tsumiri__

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    エガキナ 回想死因 一連の流れ

    そこには快晴があった とある正午のバイト中、途中で店長がおもむろに外へと出かけようとしているのを見た。

    「あれ、お出かけですか?」
    「あぁ、呼ばれて」

     私はこの時、声をかけていたにもかかわらず、彼に何にも違和感を感じなかった。

     集が気付けばここに存在し、居残る事になったこの世界は“かつていたゲームの世界”よりも比較的何の変哲もない、平和な日々が過ぎていくだけの生活。
     日当たりのいい商店街のとある本屋さんでアルバイト。終われば大好きなからあげでも買いに行って。食べ歩きしながら夜の街をちょっと散歩。そして眠くなればネカフェで寝泊まり…。
     そんな日常に慣れ始めていた集にはあまりにも気が緩んでいた。感じ取れなかったのである。

    「行ってらっしゃい!」
    「店を、頼む」

     店を後にした店長の背中を見送ってはゆるゆると店番をし続けた。とても暇だ。
     ふと外へ視線を向ける。店の中から見ていてもわかるぐらいに日差しが強い。灼熱の太陽の下、日除け用具等の何も持たずに出て行った店長は大丈夫だろうか。
     ぼぅっと外を眺め続ける。そして違和感に一つに気付いた。やけに同じ方へと向かう人間を見かけるのである。何か催し物でもあるのだろう。
     店の扉を開けると真夏の日差しでアスファルトが焼けた独特の匂い。たまに吹く風と共に流れてくるのは暑い熱気と誰かの話し声。その話に聞き耳を立てる。
     なにやら没が現れたらしい。
     過去が良かったと思うツクリテにのみ幻想を見せる…だとか。しかもその幻想を見せては海の方に誘い出す…と言うところまでを聞いた辺りで嫌な感覚を胸がざわつかせる。
     そういえば、と思考を巡らす。店長は店を集に任せる時「呼ばれて」といって出て行った。

     たしか…あの人って予定があれば前日に伝える様なタイプじゃなかったっけ。

     しかもこんなにも急に、話し声もしていなかったのに呼ばれて?

     一体だれに?

     忘れていた感覚が蘇る。
     嫌な予感がする。
     なぜ気付かなかったのだろう。
    ここまでの不安要素が募れば、伊達に“かつていたあの世界”で仲間と戦闘を繰り返しながら過ごしてきた訳じゃない。エプロンを脱ぎ捨て、心の中で店長に謝りながら店を閉じた。
     間に合え。店長が出て行ってから何分経ったっけ。…その前に間に合ったとして、どうしようか。と考えたまま、取り敢えず人が向かう方へと駆け出した。

     蒼天の空からジリジリと熱い日差し。思わず目の下に影ができる様に手をかざして周りを見渡す。
    あれもちがう。あっちもちがう。あれは…、
     …ほら。嫌な予感は的中だ。

     集の視界の中に捕らえたのは知り合いの背中。店長の背中。
     過去に集は似た様な敵に出会った事がある。その時は正義感に囚われ無責任に助けたが、敵から助け出した者は、幸せな幻想から引き上がられてしまった事に絶望し、集の目の前で命を絶ってしまった。
     だから今回はこう言ってみよう。少しだけ近付いて相手に聞こえる様にして。

    「君と言う物語はそこで終わらせていいの?」

     と問うてみた。が彼の答えは在らず。こちらを見る事もない。……歩みは止まらなそうだ。

    「そう、それが貴方の答え…か」

     手を伸ばしそうになる右手を抑える。深くは踏み込まない事にした。過去と同じ結末をしない様に。
     集は彼の背中を眺め続けることにした。助けられる筈なのに、相手の意志を尊重したいが為、あえて手を出さない。…見殺しにするのだ。

     あぁ。このままだと助けてしまいそう。
     ゲームの中…自分の世界から出てきた“この今の世界”が現実というのなら、どうしてまたこんな感情を受け止めなければならないのだろう。
     もはや現実もゲームの中の世界も一緒じゃないか。

    「お疲れ様でした。店長。貴方も…そっち側の人間だったんだね」

     そう呟くと集は彼を呑み込んだ海から視線を外し、目を閉じた。

    ___________________

     店長の背中を見届けた後、少し呆然としていた。

    「大丈夫かよ」

     いつの間にか背後に誰かが来ていたようだ。知った声が聞こえる。…オオカミくんか。と無意識に声を洩らす。そして緩りと声がする方に視線を向ける。
     狼と同じ大きい耳を頭に生やした、背がとても高い狼男。サラサラのウルフカットな黒髪を海風に靡かせながら視線を向けていた。
    心なしか尻尾も緩く動いている気がした。

    「なにが?私は大丈夫だよ」

     大丈夫。そう自分にも言い聞かせる様に、緩く目を閉じながら笑みを浮かべる。気を遣わせちゃったな。ばったり出会っただけでも分かるぐらいに酷い顔なのだろうか。私はギャルゲーのヒロインなのに。駄目だな。

    「気分転換でもしようかな。ついてくる?」

     そう言った集は、徐に何をすることもなくただただ歩いた。それに伴ってオオカミくんは静かに着いてきてくれる。目の前を通って海に向かう人たちを横目に、ただひたすらに無言のまま海岸に沿って歩いた。
     先程の出来事で平和ボケしていた自分がいた事に気付かされた。現実はそう甘くない事にも。
     どうしたらよかったのだろうか。今更考えたって無駄な事なのに、その事だけが頭の中を侵食する。まるで水の中に一液入れた墨汁の様に。
     あぁ、思考が同じ所をグルグルと回って離れない。
     一度一息入れよう。歩みを止めると一度瞼を閉じた。そして深呼吸。何処かに敵が現れていると言うのに香るのは爽やかな磯の香り。何処の世界でも海の匂いは一緒の様だ。
     もう帰ってしまおうか。少し落ち着いてきた脳内でそう考え始める。
     
     でも、帰るったって…どこに?

     酷く孤独感に襲われながらもゆっくりと瞼を開け、視線を海の方へと向ける。映るのはあの人と同じように歩みを進める人間と、それを止めるニジゲン達。少し視線を動かすとオオカミくんがただ静かに海を眺めている。
     そしてやっと理解する。全ての感覚が衰えていた様な状況に少し苦笑を零す。
     オオカミくんは察してここに居てくれたのだろうか。集は一人じゃないぞ、と。不器用な人だ。今言ったら彼の気遣いに邪魔しそうだから後でお礼を言わないと。
     しかし、今日の朝まで仲良くしてくれていた店長は居ない。自分が見殺しにしたのだ。それは紛れもない事実である。

     少し思考を整理する。今ぐらい余韻に浸ってもいいんじゃないかと。
     取り敢えず、海を後にしようと思う。ここに居ても答えは出ないし、まとまらない。
     行こう。あの人が集に託したあの店に。

     そう思うと踵を返して来た道を戻ろうとした。しかし、振り返りざまに目の前へと映し出される物は、予想をしていない物が映っていた。
     運命はそう簡単に事を進ませてくれるものでは無いらしい。

     少し遠くに映るのは、雲一つなく青にぽっつり浮かぶ煩いほど照り付けてくる太陽と、集のお世話になった人を飲み込んだ深くただ広い海。
     そして新たに一人の知人。

     短く整えられた靡く茶髪。いつもはもっと澄んだ藤色の瞳を持つ彼は、暑そうな冬用のコートを羽織りながら着々と海へと歩みを進める。
    名前は知らないが確実に知り合って話した事のある人だ。

    「ごめん、私…」

     軽くオオカミくんに伝え、離れる。
     あぁ、万年コートの彼も海に呼ばれたのだろうか。なら、彼も死ぬ事を望んでいるのだろうか。

     ――いやだな。

     そう思っているとその知人の近くまで歩いていた。

    「…ねぇ、君も…、君という物語をそこで終わらせていいの?」

     気付けば口から言葉が出ていた。すぐに彼から視線を逸らす。
     言わずに見て見ぬ振りもできた筈だ。さっきだって声をかけてあの結果だ。今回も同じかもしれない。なのに態々また心を痛める理由を作ってしまった。

     この人も私の声なんて聞こえずに海に行くのだろう。

     流石にネガティブな考えが入り乱れる。
     そうであって欲しくない。だから声をかけた。あわよくば。という気持ちで……。という自分への感情に言い訳をつけている間に、なにかぶつぶつと彼から声が聞こえ始める。

    「……物語、…違う。……創……は…、」

     視線を上げる。いつの間にか彼は歩みを止めて、か細くなにかを訴えていた。
     私はその反応があまりにも嬉しかった。
     今なら助けられるかもしれない。
    衝動のまま、立ちすくんだ彼の方へ足を踏み出す。
     激しい焦燥感に駆られながらも手を伸ばすが、助けた後また絶望されたら?という考えが邪魔をして途中で伸ばすのをためらってしまう。そして指先だけが空気を掻っ切る。こんなにも私って弱かったっけ。
     そんな集の思いはつい知らず、目の前の彼は徐にコートのポケットから長細いペンの様な物を取り出していた。集は以前に彼と共闘した時に見かけた事があった。たしかあれは…彼のマキナだ。
     何をするのだろうか。と思うのも束の間。彼はその場に座り込み、左手を砂浜に置けば勢いよく手の甲へとペン先を突き刺してしていた。

    「…は?何して…」

     彼の思わぬ行動に困惑の声を洩らす。ふらり、とペンを抜きながら立ち上がる男性。左手からはポタポタと鮮やかな赤が流れ落ち、砂浜を赤く染めていく。
     いつも何処か弱々しく見えていた彼の姿は、考えがまとまったのか決意に満ちているように、いつも以上に頼もしく見えた。
     少し情報を整理しよう。この男は自分の力で幻覚から目覚めようとして、自傷行為をしたという事になる。そんな脳直な考えで手に文房具を突き刺す奴が居ていいものなのか?
     何がともあれ、自分の意思で前を向いて未来を進もうとしているのだ。
     身勝手ながらもこんなにも主人公に似合う男が居て良いのだろうか。あまりにも嬉しい気持ちが勝ってしまい、思わず笑いが込み上げてくる。

     物語の主人公とはやはりこうでなくちゃ。

    「ふふ、……あはは!そうか、それが君の答えか。いいね、嫌いじゃない」
    笑いを抑えきれず、そう呟いた。
    声をかけるとさっきとは打って代わり、ハキハキと話す万年コートくんがそこに居た。
    「……ありがとうございました。貴方の言葉のおかげです」
    「気にしなくて良いよ」

     一つ大きな風が吹く。風になびく前髪から覗く双眼からは、先と変わらず真っ直ぐと決意の固まった様な眼差しが見えた。正気を取り戻したのだろう。
     集も笑ったお陰か、さっきより呼吸がしやすくなった。店長には悪いが一旦、目先の事だけを考える事にした。集が彼にどう声をかけようか考えている間、彼が集を一瞥すると思い出したかの様に少し距離を取られる。

    「ねぇ、君はこの後どうする?」

     集は自傷行為までして今を生きたい彼の出した答えが知りたかった。

    「選択肢があるね。戦うか、帰るか。君の答えを聞かせてよ」
    「それ、選択肢じゃないですよね。……戦います。戦って,幻覚じゃない本当の親友を探す物語を俺はまた始めます」

     彼はそう言うと、集に想像力を貰えないかと問うてきた。返事は勿論OKだ。力になれるなら万々歳。
     元より集は自分自身から放電ができる体質であり、集がツクリテに想像力を沸かせさせる方法は、他人に直接電流を浴びさせる。という方法だ。
     それをする為には相手のそばに近寄らなければならない。徐に集が一歩踏み出す。そうすると前にいる彼は続けて一歩引き下がる。もう一度進むが下がられる。

    「…逃げないで??」
    「はっ…、すみません、どうしてもつい」

     これだけの行動なのに目の前の男は妙に焦り倒している。前からの知り合いだった事も兼ねての予測だが、この人は女性が苦手な節がある気がする。本人には確認を取っていないが。
     しかし、集はこうしなければツクリテに想像力を湧かす事が出来ないのである。少し申し訳なさは有るが我慢して欲しい。

     集はもう一度彼に近付くと、反射的に今にも逃げそうな右手を取り、自分の片手を添えると軽く電流を流す。加減は手馴れたものだ。バチッ、と音は鳴るが痛くはないはず。

    「えい」
     静電気に当てられたかのような音が鳴る。
    「…マキナ、具現できるはずだよ。やってみて」

     彼から少し距離を取ってあげながらそう集が言うと、彼は目の前で素直にペン先をなぞっては剣を具現化させていく。どう想像力が湧いてマキナが武器に変わる仕組みなのか、まだ理解しきれていないところが多いが、見たところ成功しているようだ。

    「ありがとうございます。……これで戦えます」
    「お礼を言われるほどの事はしていないよ」

     頑張ったのは君の方だ。色々と。
     彼は過去に縋り付かず、前を向き歩みを進めた。私はそんな彼のサポートをしていたのか。とふふ、と思わず笑い零していると、彼は海の方に視線を向けてこう言った。

    「……あの。没は海の中にいます。……貴方の電撃ならアイツを引っ張り出せるかもしれない。もし、協力するというのなら…」
    「一発お見舞いしてあげよっか。いいね。周りの人達にも……被害有っちゃうかもだけど」

     ――周りもニジゲンだらけだろうし。大丈夫でしょ。
     周りの人に文句を言われたらその時に考えよう。それよりも楽しみなのは、久しぶりに全力を出せる機会が来たかもしれない。と言う事だ。
     気分が高揚する。髪留めに手を伸ばし、今一度キツく髪を縛る。潮風が集の長い髪をさらい、青い快晴の中、大きくなびく。

    「さぁ、始めよう!」

     突き進め。その先へ。 








    ーーーーー超絶茶番劇ーーーーー







    「所で深海何メートルぐらいの所にそいつはいるの?」
    「え、知りませんけど」
    「マジ…?」
    「マジです」
    「…す、素潜り合戦…かなぁ…!?」
    「え、安直な考え過ぎませんか!?」
    「ごめん、思考停止してた」

    この後、男性は集に促され羽織っていたコートを、きちんとコインロッカーに置きにいったとかなんとか。
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