エルフの攻撃が辺りを破壊した。
落ちてくる瓦礫の中、その手を伸ばして、目の前の彼の体を突き飛ばす。
「危ない!!」
か細い声しか出ないはずの喉を震わして、大声を出した君を見た時、君の姿は瓦礫の中に消えてしまった。
「しなびたキノコ君!?」
キルシュは顔色を真っ青にして、瓦礫を退けると、髪もローブも血で汚された細い体を抱き上げる。
「早く、回復魔導士の元に…」
「無駄、だよ……」
自分の体を抱くキルシュに、エンは今にも力尽きそうな声をかける。
「肋骨が何本も肺に刺さってる…それに体も動かないんだ……」
「そんな……!何故、何故私を助けたんだ…!」
エンはそれに答えずに、ただ微笑んで、別の言葉を口にした。
「団の…自室……机から三番目の…引き出しに、遺書が二つ………家族と、団長に……お願い……」
腕の中で失われていく熱を強く抱き締めながら、キルシュは静かに泣き
「確かに、聞いたよ。だから、安らかに…眠ってくれ……」
ありがとう、と微かに聞こえた気がした。
「……そうか、ありがとよ」
戦いの後、ジャックに遺書を渡したキルシュ。
「アイツの家族には俺が渡しといてやるか?」
「いえ、私が行きましょう。…彼が死んだのは私のせいだ」
向けた背がやけに辛そうなので、ジャックは手を伸ばしてその肩に置いた。
「そういう言葉は、アイツは望んでねぇ、だから…その、あんまり言うことじゃねぇけど、あんまり思い詰めんな」
「…大丈夫です」
そう答えるも、背に負ったものは少しも軽くならなかった。
平界のとある田舎町に着いたのは夕方の事であった。
町の人々に話を聞いて、キルシュはエンの家を探す事にした。
「まぁ、リンガードさんの家を?」
「アイツらの家ならあっちだぜ」
「家族皆、仲が良くて」
「長男は真面目だし、優しくてなぁ」
「この町の誇りでもあるな」
人々から聞く言葉が余計に、キルシュの心を締め付ける。
それでも、キルシュは歩いた。
煉瓦造りの家に着いた時、キルシュは何て間が悪いんだと呟きそうになる。
なぜなら、家の前に棺桶が運ばれてきた所であったからだ。
棺桶を運んできた魔導士達が去るのを見届けると、キルシュは意を決して、一番背の高い青年に話しかけた。
「エン・リンガードの家の者かい?」
「兄貴の、知り合いか…?」
「これを…そして、君達に私は謝らなくてはならない」
「王族様がなんで…」
キルシュは深々と頭を下げて、震えた声で謝罪の言葉を紡いだ。
「彼は、私を庇って死んだ…!本当に済まない…!!」
キルシュの言葉に、泣いていた幼いきょうだい達も泣くのを止めた。
「頭を上げてください…」
長女に言われて顔を上げると、右の頬を打たれた。
「兄さんを返して!!」
その叫びを皮切りにキルシュを言葉の刃が貫いていく。
「この人殺し!」
「あなたさえ居なければ、兄さんは…!」
「おにいちゃんをかえしてよ!」
「平民を盾にしとして、よくここに来れたわね!」
次々と心臓を貫いていく言葉に耐えきれず、逃げ出したくなるが、ここで逃げる訳にはいかない、逃げたら駄目な気がすると耐え抜いていく。
そうしているうちに、次女が魔導書を取り出したが、それを今まで黙っていた次男が諌めた。
「やめろ、もう十分だろ」
「けど…!」
「俺の言うことに従え、今日から俺が家長なんだ」
それだけ言うと、きょうだい達は棺と共に家の中に入っていった。
「…済まねぇ。皆、兄貴が大好きだからさ」
「いや、構わないよ。寧ろ、許されるべきではないんだ。何度謝ろうとこの罪は晴れない」
「そこまで考えてんなら俺としては十分だよ」
「優しいな、君は。…そうだ、これを渡しに来たんだ」
次男に遺書を手渡すと、その場で開けて読み始めた。