お疲れ様父さんは、キノコ狩りの最中に魔獣に襲われて亡くなった。
母さんはその分頑張ろうと色々な仕事をしていた。私も手伝ったけど、負担を減らすことは出来ずに、母さんは過労で亡くなった。
だから、私が頑張らなくちゃならないんだ。
「兄貴…あまり、無理すんなよ?俺だって一応稼ぎはあるからよ」
弟のその言葉はとても嬉しい。でも、長男だから頑張らなくちゃいけないのは当たり前なんだ。
さぁ、今日も任務に………。
「エンが…倒れたって……?!」
翠緑の蟷螂の本拠地に訪れたキルシュは、セッケの両肩を掴んで揺らしながら問い詰める。
「一体!何故!?」
「か、過労で倒れたって…!フッハァ!脳が、揺れ…」
「急いで見舞いに行かなければ!」
少々雑にセッケを解放すると、キルシュは慌てて飛び去っていく。
後に残されたセッケは平衡感覚が死んだのかその場にへたりこんで、「フッハァ…」と溜息。
菓子や果物を沢山買い込んで、キルシュはエンの家の前まで来た。
ドアを開けようと手を伸ばしたが、その前に開いて、現れたのは今まさに会おうとしていた人物だった。
「キルシュ君……?どうしたんだい?」
「どうしたも何も、顔色が悪いじゃないか!」
「大したこと…「兄貴!寝てなきゃダメだろ!」
エンと同じ髪色をしているが、髪は随分と短い青年がやって来て、今にも倒れそうなエンを支える。
キルシュが、背を伸ばして家の奥を見ると、他の弟妹達も集まってくるのが見えた。
「全く…なんで休んでくれねぇんだよ」
「いや、十分休めたよ…早く、仕事に行かないと…沢山、働かないと……」
「俺も妹も稼いでるからそんなに頑張るなよ!」
「大丈夫…大丈夫、だから……」
そう返事をして儚げに微笑むと、エンは気を失った。
「ったく…悪いな、折角来てくれたのに」
「気にしないでくれ。手土産は置いていこう、では、私は…」
「あー……待ってくれよ。兄貴の傍に居てやってくれ。アンタの言うことなら聞くだろ。俺達じゃ無理だ。頑固だからな、あー見えて」
「……わかった」
さっきよりも酷くなった顔色、滲んでくる玉汗を薄地のタオルで拭き取る。
「うぅ、…ん……」
小さく呻くと、エンは瞼を開けて、キルシュを見た。
「キルシュ君…ごめんね……来てくれたのに…今、起きるから……」
無理に起き上がろうとするエンを抑えて、キルシュはその頭を撫でた。
「休んでもいいんだ」
「でも……」
「君は、きょうだいを信じていないのかい?」
「そんな事はないよ……!ただ、私は長男だから…」
「長男だから無理をするのか?それで死んでしまったらどうするんだ!…頼むから、少しだけでも良い。自分を大切にするんだ」
手を強く握られ、キルシュの必死さが伝わってくる。
「君はひとりじゃない、それに、きょうだいは支え合って生きていくもの…それが最も美しい。さ、分かったら眠るんだ。私はずっとそばに居るから」
頭を撫でられるまま、エンは瞼を閉じ直す。
心が少し軽くなった気がした。