力と運紅蓮の獅子王本拠地…フォルトゥーナは任務の同行者を迎えに行くべくそこに訪れていた。
「まだかなー」
すぐ来ると言われたのに三十分以上待たされているため、少しイラつき気味のフォルトゥーナだったが、近づいてくる大男に気づいて思わず驚嘆の声を出す。
「うっっわ!!何アレ巨人!?てか腕太っ」
ローブを改造したと思われるマントを纏い、素足で歩いてくる筋骨隆々の男はフォルトゥーナの前で止まった。
「おめぇか?今回の任務…巨大猪討伐一緒にやるのは」
「え、あ、うん…」
「ほう……おめぇ以外はいねぇのか」
「なんか皆『アイツがいるなら行く必要ない』って」
「ハッハッハッ!!そりゃ言えてるなァ!」
男はしゃがんでフォルトゥーナに目線を合わせて訊いた。
「なんでおめぇは残った?」
「だって見てみたいじゃん。皆が行く必要ないって言う程強い奴」
「強者に対する興味か…いいぜ、気に入った」
「きゃっ!?」
男はフォルトゥーナを抱えあげ肩に乗せ歩きだす。
「よーし行くか!」
「てか、名前なんて言うのよアンタ。アタシはフォルトゥーナ・マルール」
「俺は、アロガン・ストレングスだ。よろしくなフォルお嬢」
「何その変な呼び方」
似たような髪色の長髪をそよ風になびかせて、二人は任務地へと向かった。
巨大猪が出たという村に着くと、すぐに惨状を目の当たりにすることになる。
「家も畑も全部めちゃくちゃにされたみたいだね。村人は皆隣の村に避難したらしいけど当然だよね」
倒壊した家屋や、作物ごと荒らされた畑、そして村のあちこちに残る直径5m程の蹄跡。
「人間が勝てないわけだよ」
「俺は勝てるぜ?」
「すごい自信じゃん」
「物理だけなら王国最強だからな。で、どうやって探す?足跡から察するに山並みのサイズだぜ?隠れるのは無理だ」
「うん。アタシもそこ不思議に思ってた。だってさ、こんなにデカいのが暴れ回ったのに周りの森にはどこにも侵入してきた痕跡がないのはおかしいって」
フォルトゥーナの言う通り、村を囲んでいる森のどこにも足跡はなく、木をなぎ倒して進んだ痕跡もない。
「これきっと、人為的なやつだよ。隣村に行こ」
隣村に移動する途中、目の前に怪しい男が立ち塞がった。
「待っていたぞアロガン!」
「知り合い?」
「知らんな。何の用だいあんちゃん」
「貴様を倒しに来たんだ」
「あー、成程な」
「何が成程なのさ」
「時々いるんだよ、コイツみたいに俺を倒そうとしてくる奴がな。名声目当てにな」
それを聞いて、フォルトゥーナがキレた。
「はぁ!?そんなもんの為に村潰したの!?」
「餌を撒いただけだ」
「うるっさいわね!ぶちのめすわアンタ!!」
魔導書を開くと、相棒のMr.ディールが飛び出してきた。
「さぁさぁ皆様お待ちかね!Mr.ディール登場ですぞ〜!!」
「やっちゃうよ、ディール。アロガン、アンタは手出さないでね。アンタに用があるのは知ってるけど個人的にコイツムカつくから一発ぶちかまさせてよね」
「いいぜ、好きにしな」
フォルトゥーナの魔法を見てみたかったアロガンは言われた通り一歩下がり、腕組みして見守る。
「まぁ、肩慣らしにいいかもな。俺の鉄魔法で一発だ!」
男が魔導書を開くと、フォルトゥーナの倍ある大きさの、鉄で出来た熊が現れた。
「やれ!!」
熊が襲いかかってくるが、フォルトゥーナは冷静に魔導書のページを一枚取った。
「クジ魔法」
「超強化薬バイオレットバイオレンス!飲めば超パワーを得られますぞ!」
「絶対副作用ヤバいやつじゃん。ま、出たなら使うしかないか」
熊の振り下ろした爪を避けると、黒い瓶の蓋を開けて紫の液体を飲み干した。
「さぁ、一発かましましょう!」
「分かってるって!潰したるわこんなの!」
左拳で思い切り熊の腹を殴れば、鉄製のボディーが凹み、背中にフォルトゥーナの拳の跡が浮き出た。
更に追い打ちに右アッパーを顎に打ち込めば、熊の首が吹き飛び、動かない鉄の塊に成り果てた。
「痛ったぁ〜い!!鉄だからそりゃそうか」
反動で痛がってるフォルトゥーナを見て、男は恐れつつも次の魔法を繰り出そうとする。
「ば、バケモノめ…!だったらこれならどうだ!」
男が次に出したのは、山ほどある大きさの鉄猪だった。
「アロガンごと、葬ってやる!」
「マズイね」
「ええ、薬の効果はもう切れてますからな」
「はぁー??!どーすんのよ!」
「じゃあ選手交代だな」
見守っていたアロガンが猪とフォルトゥーナの間に入った。
「いいパンチだったぜ、お嬢」
「まぁね」
「じゃあ、俺が本物を見せてやるよ」
アロガンが背中のポーチにしまっていた血のように赤い魔導書を開く。
その魔導書はとても薄かったので、それを見た男はバカにしてきた。
「おいおいおい、大ベテラン魔道士とは思えないな、その薄さ」
「魔導書の厚さなんて、関係ねぇ。属性も技術も、魔力量もな。魔法なんて俺からしたら邪魔だからな」
右拳に魔力が集まっていく。
「純粋な力のみの戦いが一番好きだが、人様に迷惑かけてまで俺を殺ろうとしたおめぇは完ッ全にぶっ潰さねぇと気がすまねぇなァ」
凄まじいまでのパワー、スピード、魔力を備えた拳が突進の構えを取った鉄猪の鼻柱に当たる。
俺が使えるのはこの一つだけ。だが、一つだけでいい。
「衝撃魔法 ザ・インパクト!!!」
鉄猪は粉々に砕け魔の粒子になって空気中に還り、突き抜けていく衝撃波は男すらも木っ端微塵にした。
「いや、やりすぎじゃん!!」
周囲の木ごと地面を吹き飛ばした威力につっこむフォルトゥーナ。
「報告どーすんのよ!?証拠なくなったよ!?」
「ん?大丈夫だ。一部始終録画してるからな」
マントの留め具を指さして言う。
「録画?」
「ジーシエっていう天才発明家がダチに居てな。俺は何でもかんでもぶっ潰して吹き飛ばしちまうせいで証拠が残らなくて報告になりゃしねぇから、映像にして残せるようにしてもらったのさ」
「あのオジサンなんでも作れるのね…」
「よし、帰るか!ついでだ、飯奢ってやるよ」
「マジで!?やった!!」
来た時と同じように肩に乗せてもらってフォルトゥーナは何を食べようか考えるのであった。