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    足田おし

    Twitterは@Tarita_Oshi
    氷帝とかにょた百合とかジロガク好きなオタク。
    忍足UCにはガチ恋なオタク。
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    足田おし

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    憂鬱岳人くんを殺さない慈郎くんのお話。

    昼休みの終わりまであと5分くらい。
    暑くなりかけのじめじめした空気はおれの心地いい眠りを妨げる。
    この時期は比較的起きてることが多いと思う。
    跡部と宍戸とかはそうでもない、もっと起きてろって言ってるけど。

    曇天。今日は雨が降るそうだ。
    そのためいつもより人の少ない屋上の陰で一眠りつこうとしたら岳人が来た。

    いつも通りぴょんぴょん歩いて、俺を見つけるとやっぱりな、って顔をされた。
    岳人は俺がどこで寝ているか、樺ちゃんの次に知っている。

    近づいてくるにつれ気がついた。

    珍しくわかりやすいほどに疲れている。そんな様子。
    それでピンと来た。
    あんまり眠れてないな、あれ。

    おれはなぜかそういうのに気がついてしまう。
    眠気が珍しく吹っ飛ぶ。
    時期的なものもあると思うが、こういう時に眠くならないのは何年かに一度かの現象だ。
    たまには眠くないのも悪くないと思いつつ岳人に手を振ると、あぁ、と返してくれたのが唇の動きでわかった。

    「よぉ、さぼり?」

    岳人はこっちに来て俺の寝ている隣にどっかりあぐらをかいた。
    ひんやりとしたアスファルトが俺たちの湿度で蒸された体を冷やす。

    「おまえと一緒にすんな」

    「サボりじゃないし〜。5限自習だから寝にきたの」

    「そういや宍戸も言ってたな」

    「でしょ?鳳とコートで打ち合ってくるって」

    「全く仲良いよな」

    「ね」

    他愛もない話をしながら、今にも降り出しそうな曇天を見上げる。
    給水塔の下、水はけのためのちょっとした出っ張りがあって、そこの下は濡れないと俺は知っている。穴場ってやつだ。
    ここは静かで、基本誰もいない。
    階下に繋がる階段に行くには濡れなきゃいけないけど、もしそうなったら止むまで待てばいい。なんならそこまで走っちゃっても良いし。
    ゆっくりした沈黙の後、おれは岳人に気になっていたことを直接訊いちゃうことにした。

    「岳人、最近寝てないでしょ」

    ずばり、と付け足して。
    がばりと起き上がってそう言う。

    「おー、昨日ゆーしんちいた。あんまり寝れなかった」

    よくわかったな、なんて苦笑しながら岳人は答えてくれた。

    「居心地いいって言ってなかった?」

    「居心地の良さと寝やすいかは別だろ」

    「忍足んちめっちゃいい匂いしそうなのに」

    「まぁ臭くはねぇな。あいつんちねーちゃんいるし」

    「岳人もでしょ」

    「まぁそうだけど」

    おれにも妹いるけど、そのせいか柔軟剤は甘くてフローラルな香りだったりする。
    岳人のねーちゃんにも会ったことがあるけど、やっぱり甘くて良い匂いがした。
    女の子ってのはみんなそうなのだろうか。
    ちなみに当の忍足は、すっとした目が覚めるような、そんな匂いがする。おれにとってはそれも”良い匂い”だった。

    またしばしの沈黙のあと、くだらない雑談は続く。

    「なぁ跡部がさ、前ブタメン食ったらめちゃくちゃ気に入ったらしくて購買に置かれてんの知ってる?」

    「えっ、それいつ?」

    「最近。2日前?」

    「ええっ!?早くない!?さすが跡部だしー」

    「あとフルーツ餅」

    「購買が駄菓子屋になるのもそう遠い未来じゃなさそーだね」

    「はは!確かに!まー俺は唐揚げが置いてあればいいんだけど」

    「岳人ほんと好きだね」

    「そりゃそうだろ、美味いぞ〜」

    そういえばお昼は唐揚げがお弁当に入ってた、なんて世間話を続けようとしたけど、岳人の表情がなんかいつもと違くて。
    すごく悲しい顔とかじゃなくて、むしろよく笑う。何か誤魔化してるみたいな。

    「ねーなんかあったの?」

    おれは遠回しなのは苦手だ。
    初対面とか付き合いが浅いやつならともかく、幼なじみなら尚更だ。
    特に岳人。
    嘘が下手くそなのに、すぐに何かと隠そうとする。

    「は、なんで」

    少し怪訝な顔をされたけど、おれは引き下がらないぞ。

    「岳人、表情がいつもと違う。おれはなんかわかっちゃうんだけど、どうなの?」

    いつにもない真剣な態度で接したら、岳人は折れた。はぁとため息をつき、少し苛ついたようにガシガシ頭をかいた。
    折れた理由は、多分だけどこうやって問い詰める時のおれの頑固さを彼はよく知っているからじゃないかと思う。

    「……家族と喧嘩した」

    「いつものことじゃん」

    「いやまぁそうなんだけどよ」

    「なんか深刻なの?」

    「家の手伝いしろって。俺だって部活あるって文句言ったら怒られた。」

    そこから岳人はぽつぽつと、だけど何か溢れてしまったというような様子で語る。
    あぐらをかいていた脚は膝小僧を抱えなおした。

    「ねーちゃんは自分の用事って家にいねぇし、あいつはまだ小さいから手伝えねぇし、そしたら俺なんだけど、でも俺だって色々あるし?反論したら喧嘩になって、家出てきたけどさぁ」

    彼は俯く。
    確かに喧嘩の内容としてはいつもと違う。
    いつもは唐揚げがないとか洗濯物出さないとかそういう理由で喧嘩して家出してるけど、こういうのは初めてかもしれない。

    「いや、なんで俺?って。テニスもまだまだ練習しないと駄目だろ俺。スタミナ不足が課題なのに何もできてないし、なのに早く部活切り上げて家の手伝いしろとか、そりゃなくね?」

    気がついたら、岳人の膝が少し濡れていた。
    俯いた顔からぽた、と涙が溢れ出てきて雨みたいだった。
    そういえば、さっきから雨が降ってきていた。
    気がつかなかった。

    「岳人、岳人おいで」

    俺は幼なじみ。
    だから、弱っている彼を見るのは慣れている。
    もちろん、その対応だって。

    「ほら、こういう時くらい甘えてこいよ」

    膝小僧を抱えて丸まって涙を流す岳人を後ろから包んでやる。
    あったかくて、ちゃんと生きていて、安心する。

    「岳人ちょっと強がりすぎだし。忍足にはこれ話したの?」

    「あいつは深掘りして聞いてくるようなヤツじゃないからさ、だから話さなかった。」

    「そっかー、おまえららしいや」

    頭をとんとん撫でてやると、ガキ扱いすんなよと言われたがおれのことを振り解こうとはしなかった。いつものこと。彼は素直になんてなれない。

    「なんでおれんち泊まり来ないの?」

    「おれの母ちゃんとお前のお袋さん仲良いだろ。ジローんち行ったらすぐ連絡行くから」

    「忍足んちも変わんないと思うけどね」

    「ゆーしは関係ねぇし」

    おれに甘えさせられて安心したのか、身体の力が抜けていて膝小僧が解かれる。あぐらをかいて、使い古された中履きの土踏まずが見えた時、何故か妙に安心した。

    俺も隣に座り直して、冷たいアスファルトの壁にもたれかかる。
    珍しく岳人が真隣に来て、同じようにもたれかかった。
    中履きのつま先の向こう側で雨が降る。
    ギリギリ濡れない。絶妙な場所。
    普段学校は騒がしいのに、全て雨の音で掻き消された。
    世界には俺と岳人しかいないみたいな感じがした。
    2人だけの世界で、ぽつぽつ会話をはじめる。

    「じゃあ窓越しに来ればいいのに」

    「無理があんだろ……」

    「岳人すっげー跳べんじゃん。いけるいける」

    「……まぁ、そうだけど」

    そういうと、にっと笑った。
    少し弱っていたのだろう、岳人は少し泣くといつも通り元気になった。

    俺も安心して、なんだか眠くなった。

    「がくと〜ぉ、部活始まったら起こして……ね……」

    「また寝んのかよ」

    その岳人の声は、いつもより優しかった。




    実は岳人、たまに元気がないっていうか、死にそーな顔してる。
    だから今日も怖かった。
    高いところが怖くないおまえが、いつか死んじゃうんじゃないかって。
    いやないと思うけど、すごく怖い。

    昔から隣にいたおまえがいなくなったら、おれはものすごく寂しいよ。

    だから絶対、おれはおまえを殺さない。
    岳人が参っちゃってるとき、おれが支えてやるんだ。
    中学に入って家族喧嘩の絶えない彼を見て、そう決心した。
    岳人、一緒にいようね。

    俺が眠りに落ちる前、肩に重みを感じた。
    今日は良い夢が見れそうだ。
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