楓可不『Trick yet Treat』 コン、コンコン。この数ヶ月で聴き慣れた音が耳を打つ。予想していたより遅かったな、と思いながら、楓はローテーブルの上に置いていた小さな包みを取って玄関に向かった。
「トリック・オア・トリート!」
楓が可不可の病室を訪ねていた時と同じリズムで叩かれた扉を開けると、落とした視線の先には大きなカボチャ。そのくり抜かれた口の中で被り物と同じように目を細めた可不可が今日一日で何度聞いたかわからない決まり文句を口にした。期待に満ちた瞳を細めて差し出された手に、楓はさきほど手に取ったお菓子を乗せた。
「はい、どうぞ」
「ちぇっ……まだ残ってたか」
「ちゃんと人数分準備してたから貰いに来てない人がいると余るんだよ」
「ふぅん……」
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