アダルサとあるサークルでの夜ご飯。テーブルには「くろ」「key」「さちさち稲荷」「まいたけ」「すたこ」「あろぺん」の6人が座っていた。ある程度食事が進んだその時、「すたこ」は唐突に席を立った。
「……じゃ!俺!帰るんで!」
「すたこ」はそう言うと、鞄を持って玄関へと向かった。他の5人は驚いた様子だったが、すぐに笑顔になり、口々に「また明日ー」やら「気をつけてねー」などと声をかけた。
ドアが閉まり、足音が遠ざかっていくと、「まいたけ」はぽつりと呟いた。「あいつ、最近付き合い悪いよなぁ……」
その言葉を聞いた「くろ」は少し眉を寄せて答えた。
「まぁ、色々あるんじゃない?ほら、彼氏できたとか?」
「えっ!?マジかよ……それなら言ってくれればいいのに……」
「いやいや、そんな訳無いだろ」
「だって『さちさち稲荷』さんもそう思いますよね?」
突然話を振られた彼女は、「へっ!?」という間抜けな返事をした。
「うーん……でも確かにちょっと怪しいかも……」
「だろ?やっぱり彼女いるんだよ!絶対!」
「おいおい、『まいたけ』、落ち着けって」
「だってさぁ……なんか隠してる感じするし……」
「隠し事なんて誰でもあるから大丈夫だよ」
「そうだぞ『まいたけ』!気にしない方がいいって!」
「そっか……そうだよな!ごめん!変なこと言って!」
それからしばらく他愛のない会話が続き、やがて話題は先程話に出ていた「すたこ」の事になっていた。
「しかし、あいつほんと何してんだろうな」
「確かに最近は全然顔出さないもんね〜」
「今日来れば良かったのに」
「仕方ないよ〜忙しいだろうしさ〜」
「何か悩みがあるのかな?」
「うーん……どうなんだろ……」
「とりあえず今度聞いてみるわ」
「おぉ!頼んだぜ『くろ』!」
「任せときなって!」
その後も雑談は続き、やがて解散となった。
帰り道、「まいたけ」は考えていた。
(……あいつ、本当に大丈夫なのか?)
そして翌日、朝10時50分、大学の最寄り駅にて。
「おっ!来たきた!」
そこに現れたのは「すたこ」だった。昨日とは打って変わって元気そうな様子である。彼はこちらを見つけると駆け寄ってきた。
「おはようございます!」
「おう!お前来るの遅かったじゃん!」
「いやぁ、寝坊しました!」
「ハハッ!相変わらずだなぁ!」
二人は笑いながら大学へと向かった。「まいたけ」は嬉しかった。久々に彼と話すことが出来たからだ。
「ところでお前、昨日の晩飯の時いなかったけど何やってたんだ?」
「あぁ、実はですね、サークルの先輩と一緒に飲みに行ってました」
「えぇっ!?まじかよ!?」
「はい、先輩の彼女がサークルの後輩で、それで紹介されて仲良くなったんですよ」
「えぇっ!?ちょっ……詳しく教えてくれよ!」
「いいですよ」
こうして二人の会話が始まった。「まいたけ」は彼の話を聞くうちに段々と違和感を感じ始めていた。それは彼の様子が明らかにおかしい事だ。いつもよりよく喋るし、何よりも楽しげなのだ。
そしてその日の午後3時頃、講義が終わり帰ろうとした時、彼は突然こう言ったのだ。
「あの……すみません、この後用事があるんで失礼しますね」
「えっ!?おい!ちょっと待てよ!」
彼は急いで荷物をまとめ教室から出て行った。残されたのは唖然としている「まいたけ」と数人の生徒だけだった。
その日の夕方6時過ぎ、「まいたけ」は駅にいた。そこで彼を待っていたのだが一向に現れる気配がない。時刻は既に7時半を過ぎていた。
(あいつ……一体どこに……)
そう思った瞬間、駅の改札から出てきた「すたこ」の姿を見つけた。だがその姿を見た途端、「まいたけ」は目を疑った。なぜなら「すたこ」の隣には女性がいたからだ。それもとても可愛らしい女性だ。彼女は親しげに彼に話しかけている。
「あれって『すたこ』の彼女か……?」
その時、「まいたけ」は思い出した。以前彼が言っていた言葉を。
(最近出来たんだよなぁ……)
「まさか……嘘だろ……?」
呆然として立ち尽くしていた彼だったが、ふと我に返ると慌ててその場を離れた。これ以上見てはいけないと思ったからである。
「畜生……やっぱりそういうことだったのか……!」
走り去る電車の中で、彼は一人呟いた。
次の日の朝、1限の授業に向かうため、彼は早めに家を出た。
「すたこ」はまだ来ていない。もうすぐ授業が始まる時間だというのに、まだ姿を見せない。もしかしたら遅刻かもしれない。そう思って待っていると、後ろから声をかけられた。
「おーい!『まいたけ』ー!」
振り返るとそこには「すたこ」の姿があった。
「……ッ!お、おう!久々だな!」
「すいません!遅れちゃいまして……」
「いやいや、別に大丈夫だって!」
「ありがとうございます!」
「それより……昨日は何してたんだ?」
「昨日ですか?普通に彼女と遊んでましたよ?」
「……そっか……なら良かった……」
「?」
「じゃ、俺行くわ」
「はい!また後で!」
その後、2人は別々に行動したが、その間ずっと「まいたけ」は考えていた。昨日の彼女の事だ。
「『すたこ』の彼女ってどんな人なんだろう……」
「やっぱり可愛いんだろうか……」
「もしかして……めっちゃ性格悪いとか……」
そんな事を考えている内に時間が過ぎていき、やがて授業の時間になった。
「あっ!やべっ!早く行かないと!」
慌てて席に着いたが、すでに先生は来ており、出席を取っていた。
「『まいたけ』さん、今日は欠席ですね?」
「はい、さっきまでいたんですけど……」
「分かりました。ではこれで終わります」
そしてその日の昼休み、彼は「すたこ」に声をかけた。
「なぁ、『すたこ』」
「どうしました?」
「昨日さ、一緒に歩いてる女いたじゃん?」
「あぁ、はい!いましたね!」
「あの子ってお前の彼女なのか?」
「えぇ、まぁ、そうですけど……」
「付き合ってどれくらいなんだ?」
「うーん……確か半年ぐらいだったと思います」
「へぇ〜、結構長いんだな」
「えぇ、でも最近はあんまり会えてなくて寂しいんですよねぇ〜」
「そうなんだ……ちなみにどこに住んでるんだ?」
「えっと……ここから二駅先ですね」
「あぁ、そうか……分かった、ありがとよ」
「いえいえ、それじゃ僕はこの辺で」
「おう!」
(やっぱりそうだったのか……)
「まいたけ」はその事実を知ってショックを受けていた。同時に怒りが込み上げてきた。
(あいつ……俺を騙していやがったんだな……ふざけんじゃねえよ……)
その日の夜、彼は再び駅のホームで「すたこ」が来るのを待つことにした。
しばらくすると、「すたこ」がやってきた。
「あれ?こんなところで何やってるんですか?」
「ちょっと話があってきたんだよ」
「はぁ……そうですか、とりあえず座りましょうよ」
二人はベンチに腰掛けた。
「それで、話っていうのはなんですか?」
「お前さ、彼女いるのに他の女の子と遊んでたわけだよな?」
「えぇ、まぁ、そうですけど……」
「お前、最低だぞ」
「はっ?」
「俺、見たんだよ。昨日お前と一緒にいた女のこと」
「…………」
「すたこ」は何も言わず黙っている。
「しかもその子はサークルの後輩らしいじゃないか」
「…………」
「正直に答えろ。本当は彼女なんかいないんだろ?」
「……」
「何とか言えよ!」
その時、「すたこ」は立ち上がった。
「いい加減にしてください!!」
「!?」
「僕が誰と何をしようと勝手じゃないですか!!それにあなたには関係ないでしょう!」
「関係なくないだろ!」
「どうしてですか?」
「それは……その……俺はお前のことが好きだから……」
「えっ……?今なんて言いましたか……?」
「だから……好きなんだよ……!」
「……本当……ですか……?」
「ああ、そうだよ!悪かったな!気持ち悪くて!」
「そんなことありません!むしろ嬉しいですよ!」
「えっ?」
「だって僕のことを好きになってくれる人がいるなんて思ってませんでしたから……」
「そ、そうなのか……?」
「はい、そうです」
「そっか……良かった……」
「という訳なので、これからよろしくお願いします!」
「おう!こちらこそ!」
こうして2人は付き合い始めたのであった。