【寂左】鷹で嵐で大いなる歌「道がすっかり色づいたね」
そう言うと、左馬刻は無言で寂雷を見上げた。
「以前ここを歩いた時は、まだ街路樹には色濃い緑の葉が生い茂っていましたから」
紅葉よりも鮮やかな瞳が、葉の溜まった足元を、周囲を映してから、またこちらに戻ってくる。
「秋が好きなのか?」
「ええ好きですよ。左馬刻君は?」
「まあまあ」
美という概念は一体誰が作ったものなのだろう。人が生まれるずっと昔の原初からそんなものが存在したかのように、微に入り細に入り、端々まで自然は美しい。
「例え誰に教わらなくとも、我々は何かを美しいと思うのかな」
イチョウの葉が、不規則的な軌道で舞い落ち左馬刻の上着に引っかかった。寒い時期において当たり前のことかもしれないが、今日の彼は軽装とはいえ長袖に上着も羽織っていて安心する。葉を手に取り、顔の横に掲げてみた。
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