家を無くす壮年の話 弦一郎は自室のテレビとネットニュースにかじりついている。
その顔色はあまり良くなく、心労が表に出ているのが窺えた。
悪天候による臨時休業のため、仕事を無理矢理終わらせて帰ってきたというので、かなりの苦労をしたのではなかろうか。狼は荷物を両手で抱えたまま、やつれ気味の横顔をぼんやり眺めている。ここは弦一郎のマンションで、狼は彼に拉致された。比喩ではない。猫ともども人攫いにあったので一家ぐるみ被害にあったといっていい。
今年最大級の、と脅かされながらもいつものアパートで過ごそうとしていた狼の家に、仕事帰りの弦一郎は突然やってきた。
常とは異なり特に連絡もなしに現れた男に、応対する間も無く無言で鷲掴まれ、車に押し込められそうになったのはほんの数時間前の話だ。弁解しようもない人攫いあらわる。
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