大人になった君「あー……ぜんっぜん分からん」
「てめぇ、そんなんで本当に受かる気あんのか?」
狭いアパートの一室。木製のローテーブルの上に並ぶ参考書の前で、陸奥はぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き乱して倒れ込む。肥前はそんな彼を見かねてため息を吐きながらも、麦茶が注がれたコップが倒れてしまわぬようにとさり気なくテーブルの中央へと寄せた。
顎を台の上に乗せたままに唇を尖らせ、分かりやすく不貞腐れている陸奥と参考書の二つを交互に見遣り、汗のかいたグラスを手に取ると大分温くなった茶を一口分流し込む。
「あるに決まっちゅうやか!肥前先生と並んで仕事するがあが、わしの夢ながじゃき」
「……、そうかよ」
煽る言葉に陸奥は素直に反応し、あの頃と比べれば随分と凛々しくなった眉を殊更に釣り上げ、きりっと表情を引き締めて肥前に真っ直ぐな眼差しを向けてきた。
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