性奴隷として扱われてた切くんと、爆くんの話闇市で当たり前のように奴隷が売買される世界。日夜あらゆる種族が売られ、買われていた。
その中でもドラゴンのハーフは
『完全に人型になれること』
『頑丈で乱暴なプレイにも耐えられること』
そして何より
『寿命が人間の何倍もあり「旬」の期間が長いこと』
それゆえ最高級品として高値で取り引きされていた。
(なんやかんやあって捕まってしまった)エイジロウは竜化して逃げられないよう魔法のかかった首輪を付けられ長いこと有力貴族に囲われていた。
ところがひょんな事から首輪が外れその隙に逃亡。
人間不信に陥ってた彼は何とかたどり着いた人里離れた山奥に隠れ住むことになった。
静かに傷を癒しながら暮らしていたある日、けたたましい爆発音と共に一人の男が襲いかかってきた。
「ここらで1番強ぇドラゴン、ってのはテメェかよ!?」
むやみやたらに襲われないようにと、常に竜化していたのが仇になった。どうやらこのあたり一帯の「主」として噂が広まっていたらしい。
逃げる隙もない猛攻とその男の圧倒的強さに、応戦虚しく竜化が解け地面に膝をつく。
「ハーフ…」
頭上からポツリと聞こえる呟きに思わず顔を上げてエイジロウは驚いた。
男は自分に手を差し伸べていた。
自分を気遣ってくれているのだろうか…?
そんな淡い期待が胸をよぎる。
おずおずと差し出した手を引かれ立ち上がりながらかけられた言葉に、結局エイジロウはまたどん底に突き落とされた。
「テメェは今日から俺の奴隷だ」
どうして人間は奴隷を求めるのか。
またあの日々が繰り返されるのだと思ったら、いっそあの場で殺してくれれば良かったのに…と思わずにはいられなかった。
嫌だ嫌だと思いながら結局男の家まで来てしまった。
竜化しても敵わなかった相手だ。逃げようと抵抗しても結局力でねじ伏せられ、そしてさらに酷い扱いを受けるのだろう。
従順にしていても丁寧に扱われることなど今までなかったけど。でもそちらの方が幾分かマシなのだと言い聞かせた。
家に着くまでの間に男の名前を知った。「カツキ」と言うらしい。
カツキは家に着くとまず風呂を沸かしエイジロウを放り込んだ。汚ねーから綺麗になるまで出てくるなと。
やはり「そういうこと」を求められるのだろう。
わかってはいたが目の前に突きつけられた現実に少し涙ぐみ、それから丁寧に準備をした。
ちゃんとやらないとつらいのは自分だから。
覚悟を決め風呂を上がったが、そこから少し様子がおかしかった。
まずたらふく食事を振る舞われた。食べないと怒られそうだったので全て食べた。久しぶりの温かい食事はとても美味しかった。
それから伸びきった爪と髪をどうにかしろと言われたが、自分ではどうすることも出来ず呆けていたら盛大なため息ともに舌打ちをされた。怒られるのかと思い少し身構えたが、意外なほど優しい手つきで爪と髪を整えられた。
終わるとカツキは武具の手入れをするといいエイジロウを放ったらかしにして何やら作業を始めてしまった。
眠くなったら勝手に寝ろと言い残して。
これは?放置プレイの一種なのだろうか?
寝ろと言われたからと、本当に寝たら明日酷いお仕置をされるのでは?
予想外の展開にエイジロウは固まったまま、カツキの作業を眺めるしか出来なかった。
そうこうしているうちに武具の手入れが終わったのか、くぁ…と欠伸を噛み殺しながらカツキは寝室に向かってしまった。
風呂に入れられたこと以外、カツキの意図は全く分からなかったが、とにかく自分がここにいる理由はひとつしかないのだと急ぎ後を追って寝室に向かった。
ベッドに腰掛けているカツキの傍らにエイジロウはそっと近づいた。
それまで置物のように動かなかったエイジロウが突如として移動し、自分の前に座り込んだことにカツキは怪訝そうな顔をした。
もう眠たかったし、場所がないからここじゃなくてあっちで寝ろ、そう言いかけて何か言いたげに見つめるエイジロウに気づく。
目が合うと一瞬たじろいだ後、意を決したようにエイジロウが口を開いた。
「あの、俺、大抵の事は大丈夫なので…何でもやりたいこと、言ってください。」
「…ご主人様。」
目の前の少年が発する言葉にカツキは瞠目した。
それと同時に、今までどんな仕打ちを受けてきたのか、自分が言った奴隷という言葉がこの少年にとってどんな意味を持っていたのか瞬時に理解し己の迂闊さに苛立ち舌打ちした。
舌打ちされたことにびくりと肩を震わせたエイジロウ見てまた舌打ちしそうになったがそれを飲み込んでエイジロウをベッドに座らせ向かい合う。
同じ目線で、対等だとわからせるように。
「奴隷」と言ったことの訂正。
エイジロウが思ってるようなことを求めてはいないこと。
自分のことはカツキと呼ぶこと。
敬語は使わないこと。
半ば強引に全てを納得させ解放する。
まだ、半信半疑といった顔をしていたが、わかった。と一言呟き黙ってしまった。
「うちで寝たけりゃ寝ればいいし、嫌なら出てっても構わねぇ。」
テメェの好きにしろ、俺は干渉しねぇ。
そう態度で示しながらエイジロウの様子を伺うと、少しホッとしたような、泣きそうな顔をしていた。
翌朝目を覚ますとエイジロウが足元で小さく丸まって眠っていた。
すやすや小さな寝息を立てて眠る彼の顔を覗き込むと存外に幼く見えた。
カツキは起こさないように起き上がると朝食の支度をしにキッチンへ向かった。
おわり