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    ao_ao18

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    笹くんとんばちゃんのリアタイトーク

    #ちょぎんば
    draughtHorse
    #女体化
    feminization

    扇情ーー追伸 毎日青野原に行き帰りする部隊を見ていると、あそこにいるべきは俺だと痛感してしまった。いい加減年貢の納め時と観念して、修行に行く心の準備でもする頃合いなのかな。

     一週間のどーでもいいこと面白いこと、面白くなかったことを綴った文末、そんなおまけを添えて「笹舟」のメールを流した。日付が変わった午前一時、就寝前だった。
     翌朝、夜間に冷えきった空気にまぶたをあけるのも億劫な中、どうにか目覚ましのアラームを止めると、待ち受け画面には受信メール一件のバッジ。
     ぼんやりした頭で、文字どおり昨日の今日だ、まさかなと思いつつボックスを開けば、そのまさかの彼女からの返信だった。
     いつもどおり三行でしたためられた返信文のあとにもう一言。俺が送ったのと同じようにおまけが添えてあった。

    ーー追伸。なんともいえない

     受信日時を見れば、ほんの十分前に来たレスだった。反射的にアドレス帳を開いて発信ボタンを押していた。もしかしたら隣にナガヨシくんがいるかも、などと頭が正常に動き始めたのは呼び出し音が鳴ってからだ。
     二、三コールで、通話はつながった。
    「何事だ?!」
    「あは。おはよう、くーちゃん」
    「お、おはよう? どうしたこんな早くに」
    「うん。そっちも朝忙しいだろうから手短に言うけど、今日、仕事が終わったら会えない? 定時は何時?」
    「…………、んあっ?」
    「えっ」「へっ」といった短い驚嘆は普段からよく彼女の口から飛び出すけれど、「んあっ?」はなかなレアものだった。いい反応だ。優。
    「もしかして夜勤入ってたりするかな」
    「いや今日は、……午前も午後も例の、青野原の調査だ。だからヒトナナマルマルには上がれると思う」
    「そっか。じゃあ夕飯、外で一緒に食べない? ああもしかして、平日は外出禁止とかいう規則あったりするのかな」
    「ない。ただ翌日休みの以外の日は、門限は十時なんだ」
    「じゃあ飯食うには十分だね。十八時に迎えに行く。服装は軍装でいいし、そんな気分じゃなかったらまた連絡してほしい。じゃあ、武運を。気をつけて行っておいで」
    「えっ、おっ、おいっ?!」
     慌てふためく声を快く聞きながら通話を切る。電話し終わってから部屋の寒さを思い出したけれど、しゃっきり布団から出ることができた。上着をはおり、洗面道具を持って廊下に出る。
     さて、夜はどこで何を食べよう。一応彼女の希望は聞くとして、和洋中それぞれ候補はいくつかある。仲間たちの口コミがよくて気になっているところ、一度行ってみたら当たりだったからリピりたいところ。
     それを吟味検討しながらなら、今日の日課の事務仕事も遠乗りを除いては旨味のない厩舎当番も少しは楽しめそうだった。

        *

    ーー今晩、私服で行く。「デート」のように気合いは入れられないが、清潔にはしていく。

     定時過ぎに入ったメッセージを見て、「そうこなくちゃ」と指を鳴らすと同時に吹き出してしまった。「おしゃれしていく」と言い切らないだけでなく、わざわざ注釈と断りが入るのも、その予防線の文言もいかにも彼女らしい。それでも自分が私服で俺が戦装束だと連れ合いとしてちぐはぐに見えたり、あるいは俺が気を悪くするかもしれない心配したのだろう。本来はそうしたことに無頓着に違いないのに、他者はそうとは限らないと心得た上で気を回せるのが好ましかった。
     もちろん、何も言わなくてもがっつりめかしこんで来てくれる意識の高い女性も、駆け引きの楽しみや競り甲斐があって好きだ。けれどくーちゃんは俺には女性というよりは、カテゴリ的には綺麗な野生動物だった。簡単には他者にまつろわず、用心深く繊細で、嘘がない。そして一度懐くと底なしの信頼情を傾けてくれるし、そばにいると上質の毛皮でもって寄り添われているような、特別な気分になれる。
     まあ平たくいえば好ましい、好きだなあってことだ。
      
      *

    「気合い入ってないって言ってたけど、普通にかわいい」
     駅で二人きりになってからそう誉めてから、咄嗟に今のは「長船」らしくないんだろうなと思ったけれど、彼女ーーくーちゃんこと山姥切国広(女子)は当然そんなこと気にもとめない。ただ「……、よかった」とぼそぼそつぶやいた。答えるまでの間と真顔、そして駅の雑踏にまぎれるくらいの小さな声は照れ隠し。そう分かる程度には、メル友ともメシ友ともいえる彼女との付き合いは深く、長くなっていた。
     スキニージーンズにゆったりした膝丈シャツワンピにニットベストの装いは、甘すぎず尖りすぎてもいないくーちゃんによく似合っていた。そして色や生地は違うけれどコートがダッフルなのは偶然俺とおそろいだった。もっとも彼女の場合はおしゃれや防寒より実用性でそれを選んでいる。その証拠に、屋内でほんのり暖かい駅コンコースでも「フード、かぶってもいいか?」と遠慮がちに聴いてきた。
    「どうぞどうぞ。で、和洋中何が食べたい?」 
    「鍋」
    「へえ、珍しくピンポイント指定だ。すきやきとしゃぶしゃぶ、チゲ鍋、白湯、どれ?」
    「うーんと……スープに味がついててあっさりしたやつがいい。ツミレとか、野菜とキノコ厚揚げと……締めにはうどんやご飯や好きなのを入れて……、ぐつぐつ煮たい」
    「今日寒いし、いいね。じゃあ寄せ鍋……水炊きもいいな」
     鶏肉のうまい店、焼き鳥系よりはポン酒の酒造がやってるあそこかな。
     店の場所と交通手段まで当てをつけて「じゃあ行こうか」と促す。「ああ」とフードの中で頷いた口元はほのかに笑んでいて、突発的に誘ったのは間違いじゃなかったと自分にグッジョブした。

     くーちゃんは、好んでは飲まないけれど酒は強い方だ。だから、ソフトドリンクオンリーじゃなく「水も同様」な軽さや量なら飲む。「何かあった」ときに動いたり判断したりするのに障りのない範囲だ。
     だから水炊き屋に入って、頼んだ鍋に野菜や肉、きのこに豆腐を放り込んでいい塩梅に煮えるまでの間、先づけを肴にちびちびと飲みながら「最近どう?」って話をした。出先で一緒にご飯を食べるのはもう慣れたシチュだったけれど、仕事終わりにそのまま、というのは今までありそうでなかった。風呂には入ってきたけれど、一日机に向かったり寝藁をかいたり馬を駆ったりして、そこそこ疲れた頭と身体で掘りごたつに入っているといつしか、彼女と同じ城に顕現してたらこんな感じなのかなと想像していた。飾り気のない、けれど落ち着いた時間。まあ距離が近かったら近かったで、わざわざ離さなくても城内でどう過ごしてるかわかるものだし、俺もナガヨシくんのようにツンツンしていたかもしれない。自城の国広と、あえて時間をあわせて飯を食おう、なんて気がおこらないように。
     ただ互いのことを報告し合うといっても、俺の方の日課は遠征内番、ときどき里に出勤ともうここ三年繰り返しすぎて目新しさもくそもない内容だったから、トントン転がるように進んだのは主にくーちゃんが俎上に載せた話。新しく調査指令が出た青野原の戦場ーー通称「8−3」についてだった。

    「サイコロの出目はおおよそ固定ができてきたが、まだムラがあるんだ」
    「うちの主人もいろいろ試行錯誤してるよ。短刀多めに入れると『未』に行く確率上がるよね」
    「ああ。それから同じ編成でも隊長副隊長を入れ替えると逸れたり……、隠蔽や索敵値が出目に影響してるんだろうか」
    「あと刀装。金がボロボロ剥がされるからって省エネしてあるものでテキトーにしのごうとすると逸れたりする」
    「やっぱりそうだよな、な?! でもうちの城よりそっちののが、レベル高い刀が各刀種で揃ってるだろう。それでもやっぱりハゲるのか」
    「残念ながらどいつもこいつもハゲ散らかしてるねぇ。大太刀や太刀だから、金盾フルだから大丈夫、ってことがない。何をどう試してもダメな時はダメじゃないか? 8−3って」
    「本当にそうだ……、弁当食っても団子食ってもハゲるときはハゲるし重傷にもなる。盤石な編成や装備がない感じが、今までになく厄介だ」
    「それにラストだけじゃなくて三戦目もやばいんだろ? やばいってか、エグい。短刀と脇差入った部隊」
    「それな!! あいつら絶対短刀じゃない……なんというか、短刀のガワに太刀が入ってる感じに重いんだ、あの打突。毎回遭遇するわけじゃないから、それが救いだけどな」
    「先に倒したいのに槍チク相手と同じでそれもままならないしねぇ。あと刀装クラッシャーの薙刀」
    「そう、薙刀も厄介だよな。だから兄弟や鯰尾たちが弾いてくれるのがすごく心強いんだ。でも刀装といえば、俺が一番不満なのは敵の装備だ。こっちは在庫をすり減らしてるってのに、何回出陣してもあいつらがつけてるのはいつでも金刀装ばかりだ。ずるかないか? 一体誰が作ってるんだ」
    「っはは、確かにね。凄腕の技能者がいるかもしくは、そういうマシンでも開発済みだったりして」
    「……もしそうなら俺たちだって切実にほしいぞ、それ。時の政府に開発予定はないのか」
    「技研の兵装開発課もがんばってるみたいだけど。まだたまーに金刀装キャンペするだけが精一杯っぽいよ」

     そうした軍備や編成のコツに戦果、そして得体の知れない敵影、調査不可能な領域で一体何が起きているのか、とめどなく話しているうちにお互い二杯目までグラスや熱燗の徳利を空けおわり、鍋からもくたくたと食べ頃の音と湯気が上がっていた。
     ただこうして一見対等に話をしていても、俺とくーちゃんには大きな隔たりがあった。
     彼女は実際に戦場に出た自分自身の所感や経験を語ってる。対して俺が口にしてるのは、データや仲間から又聞きした知識、情報だけだ。
     どんなに敵の短刀や脇差が素早くするどく切り込んでくるか、薙刀の強烈一撃が刀装もろとも吹っ飛ばすか。把握していてもそれは俺がこの身で以って知り得たことではない。そうした強敵と自ら対峙し、斬り結び、そして己が腕と刃でもってねじ伏せたわけじゃない。ただ見知ったことを右から左に訳知り顔で流しているだけ。
     ある事象をただ外から眺めているのと、実地に臨んで接するのは言うまでもなく全然違う。そこから得られる情動も、経験もだ。
     日々傷つき、血と泥まみれになってそれでも誇らしげに帰城してくる仲間たち。
     対して、俺は?
     弱い刀が修行にいく、などとうそぶいている俺の方はどうだ。
     強いはずなのに、青野原に赴くその部隊には入れない。自ら入ろうと名乗りを上げることもできない。なぜならば、役に立たないことは試すまでもなく歴然としているから。ステ値の数字でも、演練でも、俺の上をいくやつらが瀕死になって帰ってくるような戦場だ。
     誰に言われたわけでもなかった。だからこそ自分で思い至ったその結論と事実が受け入れがたくて、地団駄で地面すら割れそうなほど悔しかった。けれど今のままではどうしたってひっくり返しようがない。

     俺は強くない。少なくとも青野原に跋扈している敵勢力には敵わない、それが事実。
     だからこそ昨夜の、あの追伸だった。

    <つづく>
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