あえて竜殺しの汚名をきて 竜の夢をみる。青い竜が遠い空を飛んでいる夢だ。あまりに高いところを飛ぶので、その姿は豆粒のように小さく見える。マトリフはまるで飛び方を忘れてしまったように、地上から竜を見上げていた。
しかし夢はいつも突然に終わる。誰かが廊下を歩く足音が、夢を壊していくからだ。
城の中で働く者の朝は随分と早いらしい。控えめな小走りの靴音が遠くから聞こえる。寝汚いと言われるほど寝坊をしていたマトリフが、今ではすっかり早起きになってしまった。
靴音が部屋の前を通り過ぎてからマトリフは身体を起こした。しばらくベッドの上でぼうっとしていたが、いずれ動かねばならないのだと己を叱咤してベッドから降りる。その際に手が真っ先に杖を探していた。だがそれは旅へと持っていった輝きの杖ではない。宝玉もなにも埋め込まれていない、ただ歩行を補助するための杖だった。
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