言葉とキス「あちらの話はまとまったみたいだ。行こう、ゼルダさん。大丈夫、僕の家に使ってない部屋がある。」
ラッセがゼルダの手を引いた。それを見たリィレは、頭をリンクの肩にもたれかけて、
「さ、私たちも。リンクさん、家に入れて下さる?」
と甘ったるい声で囁いた。
「待って下さい!」
叫んだのは、ゼルダだった。
「わ、私も、愛してます。私の方が愛してます。リンクを!」
震える声で、それでもゼルダは気丈に言い切った。そして、ラッセの手を解き、未だリィレの胸に乗せられているリンクの手を両手で掴んで引き抜いた。
「あなたの言う通り、私はリンクの恋人を名乗るには不出来な女かもしれません。でも、それでも、私は誰よりもリンクを愛しています。リンクだって…。」
気持ちが昂って、再び涙がこぼれた。
「リンクだって私のことを愛してくれています。」
そう。リンクはゼルダのことを愛してくれている。
胸を張ってそう言えるほどには、リンクは日々の営みの中で、ゼルダに「愛してる」を伝え続けてくれた。今回のことだって、うじうじ泣いて落ち込んでいたのは自分だけで、リンクはずっと堂々としていた。「将来を共にと誓い合った人」と、きちんと言葉にしてくれた。納得できない様子の彼らに対して、行動でも示そうとしてくれた。足りないものがあるとすれば、私の覚悟だ。
「ラッセさん、これが私の気持ちです。」
そういうと、ゼルダはリンクの唇に自分の唇を押しつけた。
長いキス。いつもキスをするのはリンクからだった。初めてのゼルダからのキスに、見る見る間にリンクの首筋が、顔が、耳が、赤く染まっていく。果てには頭の上からボンっと小さな破裂音がした。
「ちょ、ちょっと…。」
目の前で口づけを交わす二人に憤慨したリィレが、ゼルダに掴みかかる。それを、リンクがキスをしたまま流れるような手捌きでいなした。
「…というわけで、リィレさん、悪いけど、俺の心はこの人だけのものだから。後にも先にも。」
ひとしきり熱い口付けを交わして、名残惜しそうに顔を離したリンクは、リィレにそう告げると、ゼルダを抱きかかえた。
「では。俺たちはこれで。ーーーああ、ラッセといったっけ。二度とゼルダに言い寄らないで。しつこくするようなら、穏便に済ませられる自信がないから。」
刺すような瞳でそう言い放つと、リンクはゼルダを抱えたまま家の中に姿を消した。
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戸を閉めて鍵をかけると、落胆の混じった二つの足音がのろのろと遠ざかっていくのが聞こえた。
そして訪れる沈黙。
必死だったとはいえ、なんという大胆なことをしたのだろう。ゼルダは急に気恥ずかしくなって、リンクに抱えられたまま目を伏せた。
「ゼルダ。」
口を開いたのはリンクだった。
「あの…さっきはすみませんでした。ラッセの言う通りです。ゼルダにひどいことをしてしまいました。二度とあんなことはと…思ったのですが、でも、ゼルダの言葉が…いつも、俺が一方的に気持ちを押し付けてるんじゃないかって…その…」
今しがたラッセとリィレに見せた毅然とした態度はどこへやら、リンクの言葉は妙に歯切れが悪い。
ゼルダが上目遣いに様子を伺うと、リンクとバチッと目があった。途端にリンクの顔が真っ赤に染まる。
「ですから、ゼルダの言葉と……キスが、嬉しかったというか…その…
すみません、正直に言います。火がついてしまいました。」
何に、と問うほど、ゼルダももう少女ではなかった。
「このままベッドにお連れしてはいけませんか。」
リンクが熱っぽく、しかしながら先程とは違って優しく、ゼルダの耳に囁いた。
(一方その頃マンサクは、バッタを捕まえるためハイラル平原にいた。)