レテの水底㉒/記憶喪失佐真「先に地獄で待ってるぜ、兄弟」
呪いの言葉を背に受けながら、嶋野はひょいと手をあげひらひらと振ると己が部屋を後にした。
「……佐川…ッはん」
「お前、さ…」
嶋野の足音が遠のいて漸く腕の中の彼をまともに覗き込んだ真島の言葉を遮るように、佐川は嗄れ声で彼を呼んだ。
「よくやった……偉かったよ、ほんと」
それを聞いた途端、不意にどっと全身から汗が噴き出した。佐川の血と己の汗でドロドロに濡れた首元をトントンと震える手で宥められながら、真島は唇を噛む。佐川司に褒められた。実際彼に初めて陰茎を舐められた時の五百倍は驚いて、一千倍は「幻聴か?」と己の耳を疑っている。
「はは、何てツラだよ。やめてよ笑うとあばらが痛ぇんだから」
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