お餅いくつにする? ふあぁ、と眠たげに目を擦りながら、猿川慧はダイニングに現れた。気の抜けた表情やもったりとした寝起きの雰囲気に反して、髪はきちんとセットされている。そのギャップがなんだかおかしくて、依央利はふっとこっそり笑った。
「おそよう、猿ちゃん」
正確には一度顔を合わせているのだが、お雑煮を温めなおしながらわざと依央利はそう言った。慧はうん、とぼんやり返す。
「お餅いくつにする?」
「ひとつ」
「えー? 少なすぎない?」
「うるっせぇ。食欲ねーよ、寝起きで……」
またひとつ、大きなあくび。
「昨日はずいぶん遅くまで起きてたもんね」
歌うように含みを持たせてそう言うと、慧はずかずかと歩いてきて依央利の尻を蹴った。
「痛ぁ!」
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