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    mic_tamanegi

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    mic_tamanegi

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    ※女体化注意

    付き合ってないサマイチ♀
    TDDとバチバチ期

    よそいき「走ると胸痛いんすよ」
    「ゲェッホ!!」

    イケブクロの路地裏、誰もが知るチーム、TDDの4人が集う事務所に、今日は紅一点で最年少の一郎と、その一郎を特別に目を掛け、最愛の妹とはまた違う「大切」な感情を持っていた左馬刻が2人、ソファーに並び座っていた。
    スマートフォンを弄りながら、一郎が何の気無しに話す内容に、左馬刻は咥えていたタバコの煙が思わぬ所に入り大きく咳き込んだ。

    「…お前、っお前よぉ、」
    「なーんか最近張るっつーか。生理前とか特に痛くて。」
    「待て待て待て。一回黙れ。」
    「乱数が左馬刻さんに聞けって。」
    「あのクソ野郎!!」

    一郎と同じ年の妹がいるから。どうせそんな理由で何の意味も含みも無いのだろう。左馬刻の事を男として見ていない、そう遠回しに言っているようで、その艶やかな黒髪を乱れさせ、白く柔らかな体に手を這わせたいと毎日欲を燻らせては理性を総動員している身としては、暴れ泣きたくなる非情さ。

    だがこうやって頼られたり、遠慮なく相談を持ち掛けられるのはやぶさかではない。何も信じず、何かに寄り掛かることも知らず、全て自分でなんとかしなくてはと生きてきた一郎に甘えられることが、最近の左馬刻にとっての幸せだったから。

    あまり一郎の方を、特に顔から下を見ないようにしながら、話を続ける。きちんと期待に応えたい。困っているなら助けてやりたい。

    「…あー、その、なんだ。痛えってことはよ、その…動くと、…揺れるっつーこと…だろが。」

    やめろ想像するな。

    「そっすね。上下に。」

    ……上下に。

    「…ってことは、アレだ。サイズ。合ってねえんじゃねえか?その、下着の。」
    「下着?」

    パーカーの襟ぐりから中を覗き、「サイズ…」と呟く一郎を見て、左馬刻はこめかみから汗を流した。まさか、まさかとは思うが…

    「テメエまさかノーブラか…」
    「………ブラジャーって、高くて。」






    今日のミーティングは中止だと乱数と寂雷に連絡を入れ、左馬刻は一郎の首根っこを掴みセイブ百貨店のランジェリーショップに突撃した。

    「上と下、それぞれ5…いや10ずつ見繕ってくれや。」
    「そんな要らないっすよ!!パンツなんてその辺のスーパーで買えま」
    「黙れ」

    2人の悶着を営業スマイルで受け止め、女性店員は一郎を華やかな店内へと招いた。お好みのデザインはと聞かれても一郎にはわからない。動きやすくて耐久性に優れた物、スポーツブラ?アレがいいですと答えれば、店員はターゲットを左馬刻へと変えた。

    「彼氏さんはどういった物がお好きですか?」
    「あ?」
    「あ、あの人彼氏とかじゃモガモガ」
    「っそーーだな、コレとコレとコレ。よし、着てこい。GO。」

    一郎の口を塞ぎ、「彼氏」というワードに気を良くした左馬刻は意気揚々と色とりどりの下着に手を伸ばした。
    選ばれたそれらはどれも…

    「…分かりやす過ぎんだろ、あの人」
    「セクシー系がお好きなんですね。では先にサイズ測りますね。」

    試着室に放り込まれた一郎の手には、黒と赤の、レースがふんだんに使われた下着が3点。17歳、処女の一郎はあまりにも自分とかけ離れたデザインに、左馬刻との距離を感じてしまい、少し胸がチクリと痛んだ。

    「うーん。お客様、かなりお胸が豊かですので、お連れ様が選ばれたブラジャーですとこちらの黒しかサイズのご用意が無いですね…」
    「あ、いいっす。後はお姉さん適当に選んでもらって。」
    「かしこまりました。お連れ様にもそうお伝えしておきますね。」

    それもそのはず。一郎は一般的に見ても胸が大きい方。なのに左馬刻が選んだ下着はどれもカップ面積が狭く、胸をしっかりホールドするには更にサイズアップをしなくてはいけない。

    少しして店員が持ってきたのは、真っ白なレースがあしらわれたとても美しい下着だった。
    一郎が思わず「綺麗」と呟くほど。
    その言葉に店員は嬉しそうに笑い、お連れ様にも先にお見せしたら、「良いな」と仰ってましたよと微笑んだ。

    体の形が見違えるように整った。肩に違和感はあるけれど、「女の人の体」を自分も持っていたのだと、一郎は初めて知った。いつものパーカーや制服すら、なんだか特別に見えてくる。
    試着室の外で待つ左馬刻に、綺麗な自分を見て欲しいと思った。







    そんな時代もありました。

    「このクソ女がぁ!!足引っ張んなら引っ込んどけ!!」
    「うっせーんだよクソヤクザ!!テメエこそ息切れてんじゃねえか年寄りは引っ込んでろ!!」
    「んだとゴラァ!!ぶっ殺すぞクソアマぁ!!」
    「やってみろやクソ野郎!!チンカス!!」

    ここは中王区。
    第二回ディビジョンラップバトルの決勝後。一郎達に紛れ込んで中王区に侵入していた反乱分子が爆破事件を起こし、中王区の外から入った者は皆、容疑者として拘束される流れとなった。
    だが大人しく捕まるような人間ではない。左馬刻も一郎も。

    「ふざっけんじゃねえぞ!!俺らを招待しやがったのは中王区だろうが!!これが客の扱い方か!!」
    「ありえねえ!!今日推しの登場回だぞ!!リアタイ出来なかったらどうしてくれんだ!!」
    「あっ!!前行くんじゃねえクソガキ!!引っ込んでろ!!」
    「若者が先陣切る時代なんだよジジイ!!」

    約2名がギャーギャー騒ぎながら前を塞ぐ中王区の警備を蹴散らし、MTCとバスターブロスを先頭に18人が荘厳な門へ向かう。
    だが途中、一郎の足が絡れた。顔色が悪い。少し苦しそうだ。

    「っ一郎?」
    「姉ちゃん!?」
    「いち姉!?」
    「……わり。大丈夫。」

    胸を押さえ、細く呼吸を繰り返す一郎を見て、左馬刻はすぐにその体を横に抱えた。

    「は!?」
    「なっ!?おい碧棺左馬刻!!テメエ姉ちゃんを下ろせ!!」
    「いち姉に気安く触るな変態!!」
    「黙ってろ童貞。おい一郎、お前その、あー…下着、ちゃんと着けてんのか。」
    「左馬刻?しょっぴくぞ?」
    「うっせ。答えろ一郎。合ってねえんじゃねえか。サイズ。」
    「はぁ!?ちゃんとアンタが買ってくれたやつ着けてんわ!!」

    腕の中で顔を真っ赤にし、反論するその内容に左馬刻は目眩がした。
    「アンタが買ってくれたやつ」
    それは2年前。成長期を歩んでいた一郎の体のサイズに合わせた物。当時から既にとても魅力的なスタイルだったが、今は背が伸び、そして女性らしいラインもよりハッキリとしていた。

    「っこのクソダボが。…もういい。大人しくしてろ。」
    「え!?は!?ちょっ…」
    「走るぞテメエらぁ!!!」
    「姉ちゃんを離せクソ野郎ぉぉぉぉぉ!!」
    「うわぁぁぁぁあいち姉がヤクザに攫われるぅぅぅぅぅ!!!」
    「左馬刻!!未成年者略取はまずい!!」
    「ほう。人を抱えてそのスピード。やるな左馬刻。」

    外野の声なんて聞こえない。
    左馬刻は一郎を安全な場所へ運ぶこと、そしてこの無駄にボリュームのある服の下で恐らく窮屈な思いをしている体を、一刻も早く解放してやることで頭がいっぱいだった。
    重い門を抜けてからも足は止まらない。
    いつしか誰の声も聞こえなくなり、一郎が肩を思い切り叩き、ようやく我に返った。

    「ど、何処まで連れて行く気だよ!!いい加減下ろせ!!」
    「あ?ああ…何処だここ。」
    「知るかよ!!ったく、ええ…マジで何処だよここ…」

    路地裏に入り、周りの安全を確認してから一郎を下ろす。顔色はすっかり戻り、息苦しさも落ち着いたようだった。

    「お前…マジなんか。その、下着…」
    「はぁ?まだ言ってんのかよ。ちゃんと着てるっつってんだろ。」
    「いや着てねえだろちゃんとは。」
    「着てる。見るか?」
    「見ねえわ。あ"ーくそ…」

    それにしてもどうもおかしい。
    肉体労働が多い萬屋を営み、さらにラップバトルでもアクティブに体を動かす一郎が、窮屈な衣類を身に付けることに左馬刻は違和感を覚えた。

    「お前普段からそれ着けてんのか」
    「普段…は、違う。楽なやつ。スポーツブラ。動きやすいし。」
    「じゃあなんで。決勝にンな窮屈なの着てんだ。」
    「………決勝、だから」
    「あ?」

    言いづらそうに色違いの瞳を泳がせ、一郎は自身の腕を抱きながら言葉を探した。
    こんな事を言ったら女々しいと思われるだろう。鼻で笑われるかもしれない。もしかすると気持ち悪がられるかも。
    だけど左馬刻には誤魔化しも嘘も通用しないと一郎は知っていた。
    観念したように、揺れる瞳は前に立つ男を見据えた。

    「初めての決勝だから…綺麗な俺で、出たかったんだよ」
    「綺麗って…」
    「この下着は、綺麗だから。これを着たら、俺は綺麗になれるから…」

    初めて身に纏った純白の下着。
    カッコいい憧れの先輩も褒めてくれた、一郎の初めての「綺麗」。
    それは今でも変わらず唯一で一番だった。
    一郎の言葉を全て聞いた左馬刻はため息をこぼし、落ち着きなくタバコに火を付けた。
    数分もかからず一本吸い終わり、意を決したように口を開いた。

    「行くぞ。」
    「どこに。」
    「セイブ。新しいの買ってやる。」
    「要らね」
    「要るんだよ。」

    過去に縋るのは終わらせる。
    もう17歳の少女は存在しない。
    ここにいるのは19歳の、間もなく大人になる女性。
    左馬刻と同じ、大人の世界を生きる一郎へ。
    今の一郎に、相応しいものを。

    「綺麗なお前で、優勝しろ。」

    左馬刻の言葉に、一郎は目を見開いた。
    路地裏を出て雑踏の中を進む左馬刻を追い掛ける。
    昔のようで、昔ではない。
    一郎は左馬刻の背中を見つめ、伸ばしたくなる手を必死に我慢した。

    胸が苦しいのは下着だけのせいじゃない。
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