Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ari_hbr

    @ari_hbr

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 48

    ari_hbr

    ☆quiet follow

    短い

    体が勝手に動いたのだと、そう思いたかった。だけど自分を騙すのももう限界だった。そんな気力すらもうどこにも残っていない。
     まだ若い狩人──家族を喪ったのだと言っていた──の背後から血槍が迫っていた。声をかけるよりも割って入る方が早かった。
     分かっていた。それで自分が代わりに死ぬのだろうということは。それでもそうするべきだと思って、ミツルは自身の意思で狩人と攻撃の間に割って入った。
     その結果として、こうして血溜まりの中で地に伏している。
     動けない。風通しの良くなった身体から、血が溢れ出していくのが分かる。即死はさせてもらえなかったらしい。下手くそめ、と内心で毒づく。吸血鬼に対してではなく、反射的に急所を庇って腕を差し出していた自分に対して。
     この期に及んで、まだ生きようとしている。生きる意味もないくせに。
     粘ついた音を立てて咳き込む。その度に全身に引き裂かれるような痛みが走った。寒い。血を流すごとに、体温も失われていくのが分かる。口の中には生臭い血の匂いが広がっている。
     差し出した腕と、それを貫いて刺された胸。腹に2箇所。自覚している傷はそこまでで、おそらく実際に攻撃を受けた箇所はもっと多い。確かめる気はなかった。どうせ死ぬのだから、意味がない。
     視界が霞む。夜高さん、と狩人の誰かがミツルを呼ぶ声が遠い。痛みはもはや感じない。ただ寒かった。だけど寒くて堪らないのはあの日からずっとそうだから、今更だ。
     死ぬことは怖くない。ずっと早く終わりにしたかった。真城がいない生から解放されたかった。それができずに万全と生き続けてしまったのは、ひとえに真城に死なないことを願われたからで。だけどそれは死ねない理由であって、生きる理由ではなかった。
     生きる理由はない。あの日から、ずっと。だけどここで誰かを助けて死ねるなら、少なくとも生かされた理由にはなるのかもしれないと思えた。
     ──生きていられなくてごめん。命を投げ捨ててごめん。真城が大切にしてくれたものを大切にできなくてごめん。でも俺頑張ったよな。真城が助けてくれた命を無駄にしてないよな。次に繋げたよな。
     なあ。真城。
     懺悔にも問いかけにも、都合のいい幻聴が聞こえることはついになかった。でも、きっとそれでいい。幻に縋ることなど許されない。許されなくていい。真城が望まなかった狩りを続けて、真城が望まなかった死を迎える自分。真城との約束を何一つ果たせない、嘘つきの役立たずなど。
     それでも。きっと向こうに行けば会えるのだと。そんな夢を見ることくらいは。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🌼
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works