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    ari_hbr

    @ari_hbr

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    MOURNING短い体が勝手に動いたのだと、そう思いたかった。だけど自分を騙すのももう限界だった。そんな気力すらもうどこにも残っていない。
     まだ若い狩人──家族を喪ったのだと言っていた──の背後から血槍が迫っていた。声をかけるよりも割って入る方が早かった。
     分かっていた。それで自分が代わりに死ぬのだろうということは。それでもそうするべきだと思って、ミツルは自身の意思で狩人と攻撃の間に割って入った。
     その結果として、こうして血溜まりの中で地に伏している。
     動けない。風通しの良くなった身体から、血が溢れ出していくのが分かる。即死はさせてもらえなかったらしい。下手くそめ、と内心で毒づく。吸血鬼に対してではなく、反射的に急所を庇って腕を差し出していた自分に対して。
     この期に及んで、まだ生きようとしている。生きる意味もないくせに。
     粘ついた音を立てて咳き込む。その度に全身に引き裂かれるような痛みが走った。寒い。血を流すごとに、体温も失われていくのが分かる。口の中には生臭い血の匂いが広がっている。
     差し出した腕と、それを貫いて刺された胸。腹に2箇所。自覚している傷はそこまでで、おそらく実際に攻撃を受けた 1070

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    MOURNINGいつものあした /延々と一人語り ver1.1まどろみの中、右手が宙を掻いてさ迷う。いつも傍にあったはずの温もりを求めて。しかしどれ程探しても求めるものは見つからず、やがて腕は力なく投げ出される。マットレスがそれを受け止める音と、細いチューブで繋がれた点滴が揺れて軋みを上げる音だけが、一人きりの病室に小さく響いた。その揺れるさまも音も、ミツルは感知しない。ただうつろな瞳を虚空に向けて静かに涙を零した。
     意識が覚醒する。思い出す。思い知らされる。そうだ。死んだのだ。真城は。他の誰よりも求め続けた、ミツルが愛した人は。

     真城朔はもうこの世界のどこにも存在しない。

     そして真城朔がいなくなった世界で、ミツルは一人ぼっちで朝を迎えている。
     目覚めたくなんかなかった。眠っている間にこの命が尽きてしまえばいいのに。何度そう思ったことか知れない。『死なないで』、そう望まれたことを覚えていればこそ。自ら死を選ぶことはできない、ならば死の方から迎えに来てはくれないものかと願った。何度も、何度も何度も。
     しかしそれが叶わないこともまた、よくよく分かっていた。手足に追った傷は決して軽いものとは言えないが、治療を受けてなお命を奪う程のものでは 4126

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    MOURNING2.51 ver1.1「出ないように努力しろ!」
    「わははは」

     扉が閉まる音のあと、少し置いて玄関から遠ざかっていく足音が小さく聞こえた。それを聞きながら、結局自分で流しに重ねた皿を洗い始める。真夏の熱気で温められたの水道水は、夜になり多少気温が下がってもなおぬるい。それでも、恥ずかしいことを言ったり支離滅裂な話をしたりで体温の上がった手に、流水の感覚は心地よかった。
    皿を洗えだとかなんだとか、そんなのは照れ隠しのようなもので。実際のところ世話になっているのはこっちの方なんだから、そんなのは自分でやって構わなかった。

     落ち着いて先程の会話を思い返すと結局また恥ずかしさが込み上げてきて、いつもより無駄に丁寧に、時間をかけて皿を洗っていく。一枚洗い終われば次を手に取って、またわしゃわしゃとスポンジで洗う。真城が出ていった部屋は静かで、ただ泡立ったスポンジが皿を擦る音と、シンクを叩く水の音、そしてその合間に食器がぶつかる硬い音が狭い部屋に響いた。
     ……そうしていると、さっきついでに訊いておけばよかったなんてことが今更思い浮かんだりして。自分のテンポの遅さに小さく溜息をつく。……めぐるの嘲りが聞こえた気 3672

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    MOURNING4年後くらい ver1.0吐き出した煙が立ち昇り、風に巻かれて拡散していくのをただぼんやりと眺めていた。視界の端では、後輩たちが狩りの後始末をしているのが見える。今回はかつての自分のように年若い狩人がいて始めはどうなることかと思ったが、結果として大した被害は出さずに片付けることができた。重畳なことだ。どこか他人事のように思った。
     いつの間にか、こうして始末を人任せにして自分はただ突っ立っていても許されるようなポジションになってしまっている。八崎市で狩りをしていた頃はいつもミツルが一番の後輩だったから、周囲から熟練の狩人のように扱われるのは今も慣れない。自分には過ぎた評価だとさえ思う。時折尊敬の眼差しなんかで見られると、耐え難い気持ちになる。
     頼むから自分に憧れたりなんてしないでほしい。一人のために他の大勢を見捨てようとした、そうしてまでいちばん大事な人を守れなかった狩人なんかに。
     再度煙を吸い込んで、吐き出す。一仕事終えた後だからといって、特段美味く感じたりはしない。むしろ何度吸っても不味いとさえ思う。それでも続けているのは、真城がかつて持っていたものと同じ銘柄だからという理由でしかない。
     空いている手 3619