とあるブラコンのお話し ────父さんじゃなくてあんたが死んでしまえばよかったのに!
そう言った俺の弟は、言った直後にどうしてか自分自身が傷ついたような顔をした。
そして続けて何か言おうと口を開くのを俺は静止して、「わかった。」と一言だけ言えば弟は面白いくらいに目を丸くした。
そんな顔もやっぱり可愛いなぁと思いながら、俺は自分の鎌の刃を首に当てる。
父さんは俺達が小さい頃に死んでしまったから代わりにはなれないけれど、今すぐここで命を絶つことは出来る。俺が死ねばきっと弟は久しぶりに笑ってくれるだろう。
久しぶりに見れる弟の笑顔を想像して思わず笑みがこぼれる。そしてそのまま、鎌を握っている手に力を入れる。
流石俺の鎌と言うべきか、すこし力を入れただけで首筋から何か伝う感触を味わった。
「…っ、あんた、何してんだよ!」
そのまま一気に完全に首と身体を離れさせようと更に力を入れようとした瞬間、鎌を持っている腕を押さえつけられた。それも最愛の弟に。
「何って、お前が望んだから死んでやろうと。」
「…は…?」
何故か呆気に取られる弟に、そんなことより危ないから離れた方がいいぞ、と言うが、微動だにせず。
まずいなぁ。早く斬らなきゃ普通とは違う俺はこんな傷直ぐに治ってしまうのに。
「…っ、う、そだから…死なないで…」
何故か泣きながらそう願う弟にまた俺はわかったと一言だけ言って鎌をしまう。
死なないでと言われたら聞かない訳にはいかないじゃないか。他でもない俺の弟の願いなのだから。
そこから暫く俺は弟が泣いているところを何となく眺めていると、騒ぎを聞き付けた俺達の養父が駆け付けてきた。
養父を視界に入れると、弟は逃げるように自分の部屋に引きこもって行った。
それに少し寂しく思っていると、養父が何やら俺に叫んでいるようだった。
何となくこの傷に関してのことだろうと思い、「こんな傷、すぐ治るよ。」と一言だけ言って俺はその場を後にする。
実際もう塞がりかけていたし、塞がる際に出た血液…今は桜の花びらとなったのか。それを片付けるために箒を手に取る。
それにしても久しぶりに弟が泣いたところを見た気がする。
それはそうか。俺は嫌われているし、そもそも弟は部屋から出ることがあまり無いから。昔はあんなに泣き虫だったのになぁ。と思い出に耽ける。
そして改めて思う。やはり弟は、弟のためならなんだって出来るくらいに可愛いなぁと。