何かあった未来の金持ち警官ドル市長による市民平等の為の「貨幣制度廃止」が認められて2ヶ月経過した。ドンヨーク警察の警官は音信不通だったキャッシュに会えないと思っていた。
「マルメンのアニキ〜!やっとキャッシュのアニキがどこかわかったじゃん!」
「本当ですか!?どこにいるんです!?」
「ロストンの、●地区のアパートじゃん!」
「キャッシュの居場所が見つかったのね!流石バカラね!」
「よーし、明日キャッシュに会いに行くよん!」
こうしてDP内部は、キャッシュに会うために休みを利用してロストンへ向かった。音信不通だった彼に会えることに誰もが希望に満ちていた。
*
ロストンに到着したDP内部。迷いながらも●地区のアパートの3階まで登り、304号室のドアまで辿り着いた。そこのインターホンを押したのはマルメンだった。ピンポーン!軽やかな電子音が鳴り響く。
「はーい……」
気怠げな声と共に開かれたドア。そこには、ボサボサの赤髪、濁った虚ろな緑の目、素朴な上下の服。信じ難いが、声を聞くからにキャッシュだった。
「ど、どうも…、キャッシュさん…。お久しぶりです…。」
「アパートになんか隠れてないで、出てくれよ。」
ポンド警部も、心配そうに声をかける。フランも警部に続いた。
「そうよ。わたし達、キャッシュはどんな感じか知りたいだけなの。」
だがしかし、マルメン達の心配を嘲笑うような感想が返ってきた。
「お前らは、金持ちの惨めな末路を覗き見して笑いたい人?」
「違うじゃん……」
「今の見てどう?人が苦しんで、殺されそうなのを見て、楽しんだ?」
「違うじゃん!!!!!」
反金持ち達の罵詈雑言や笑い声と、マルメン達は同じだと思われているのだろうか。そうじゃない。そうじゃないのに、脱力するのを必死に堪え、どうか伝わるようにと思いの丈を込めて説得した。
「ぼくたち、キャッシュさんを迎えに来ました。助けたいんです。何か助けになることがぼくたちに」
「助ける?どうやって?」
「……ッ!」
キャッシュは鋭い目でマルメン達を威嚇した。
「助ける助ける助ける。今まで何度も聞いた。対策を取りたい。絶対に助けますから。でも、どうにもならなかった。助ける助ける助ける。ねぇ、なのに、何ができるって言うの?」
「……!」
全員絶句した。開いた口が塞がらなかった。
「助ける助ける助ける。何も知らないくせに。助ける助ける助ける。口先なら簡単に言える。なのに助ける助ける助ける。オレを助けたい。オレの力になりたい。助ける助ける助ける。哀れんで泣く。同情で泣く。でも結局何も起こらない。」
キャッシュは、奥底に言い知れない怒りをチラつかせて、マルメン達を威嚇する。
マルメン達に留まらず、なまっちょろい世間、社会、世界や無責任な言葉、無慈悲な態度、無寛容な心、善良金持ちに対しての偏見や無自覚な見下し、そしてそれらを隠蔽する欺瞞。キャッシュの眼差しは、その全てに向けられた刃のようだった。
「助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける助ける!うんざりなんだよ!!」
アパートであるにも関わらず、キャッシュは、体を揺らして吠えた。
「もう帰れっ!!二度とその面見せるなっ!!偽善者がっ!!!!!!!!!!!!」
キャッシュはその怒鳴り声と共にバタンッッッッ!!!!!と乱暴にドアを閉めて消えた。
「キャッシュさん、お願いです…」
「しゃーないよん、マルメン。何言っても」
「どうしちゃったじゃん、キャッシュのアニキ……」
「もういいわよ、帰りましょう。」
フランが寂しそうに呟いた。
ロストンにいるキャッシュとの再会は、マルメン達にとって過去最高に最低最悪の結果を残してしまったのだった。
「こんなことになるなら、行かなかった方が余程ましだったろうな……」
帰りの電車に揺られながら、マルメンは虚ろな目で呟いた。