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    Q_miyako

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    Q_miyako

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    💙うのいぬ誕2023💙 ちこく
    おめでとう竜水さん! 伊縫もね

    混色「たーつみ。誕生日おめでとう!」
     にこにこと。
     こちらの不機嫌を隠しもしない表情に、彼は全く臆することをしなかった。ひとつの曇りすら浮かべないその笑顔は、一周回って酷く薄情に思われる……いや、これは穿った見方、かもしれない。伊縫一というのは、単純に、そういう・・・・男なのだ。
    「……ありがとうございます」
    「どういたしまして! ね、ロウソク貰ってきたんだ、せっかくだし立てて吹き消すことまでやっちゃわない? ホールだし、食べ切るのは明日以降でもいいからさ」
     ──そういう。こういう、押し付けがましい男なのだ。
    「お気持ちには感謝しますが……こちらにも予定がある、とか考えなかったんですか」
    「え? 予定あるの?」
    「……失礼な人ですね」
    「や。ごめんごめん! 皮肉とかじゃなくて、本当に予定があるなら大人しく退散するからさ。ケーキを置いて。ロウソク置いてくから、もし誰かとパーティするならみんなで使って。あとこれ、と、これとこれとこれ。プレゼント! お前の好み、わかるようでわからないから若干当てずっぽうだけど……嫌いなのがあったら無理せず捨てちゃっていいよ。ラインナップは一応趣味と実用半々くらいで……」
     ……ぺらぺらと。
     こちらを──ともすれば、敢えて──無視して至極嬉しそうに喋る様に、自然、じとりとした目付きになってしまう。
    「相変わらず加減を知りませんね、貴方は」
    「減らそうと思ったんだけどね。多くて悲しくなるもんでもないでしょ? だから、もし悲しくなるなら捨てちゃっていい」
    「……」
     ケーキの包み。プレゼント箱。その全ては几帳面に包装され、青色のリボンが丁寧にかけられて華を添えている。
     それを、気に入らなければ捨てていいと言う。変わらず、翳りのない表情で。
     じわりと、苛立ちが滲む。
    「……あなたは?」
    「……? なにが?」
     じわりと、さらに。
     ──本当に大嫌いなのだ、この男の、こういうところが。
     重く。長いため息をつく。
    「入ってください。……食べ切りますよ、ケーキ」
    「え。予定は」
    「……いいですから」
     ぐい、と両手が塞がっている彼の背を押す。



     彼が歌っている。朗らかに、楽しそうに。ディアたつみ、と結ばれたバースデーソングが終われば、彼は無邪気に笑って手を叩き、期待するような目をこちらに向ける。
     居心地が悪い。
     悪い、というのを察せないひとではないだろうに、彼はいつものように──否、いつも以上にテンションが高く嬉しそうだった。
    「なんでそんなにテンションが高いんですか、あなたは」
    「そりゃお前の生まれた日だもの、嬉しくもなるよ。俺は神様なんて信じちゃいないけど、ついつい調子よくありがとうって叫びたくなっちゃうくらいには」
    「……それを言われるべきはあなたもでしょう」
     再び湧いた苛立ちに、つい詰るような声が出る。
    「誕生日、なんですから」
    「……ああ、そうだね」
     まるで忘れてた、みたいな顔。それにまた、腹が立つ。
     欲しいものは、なんて訊くのは癪だった。話が長くなることは明白だったし、何よりそれでは、彼を祝うことに積極的みたいだ。
     なにより、彼が一番欲しいものを、自分は知っている。……知っていて与えないのだから。
    「ロウソク、消しますよ。……あなたも」
    「俺も?」
    「あなたもです。まさか嫌なんですか」
    「や、別に嫌じゃないけど」
    「だったら黙ってやってください。ほら、こっち側。半々で消せばいいでしょう」
     自分は何をやっているんだろう、とケーキ越しに向かい合いながらぼんやりと思った。
     存外に熱い蝋燭の火が揺らぐ。
     それが纏うオレンジ色の光が散って、彼の碧い髪や瞳にいたずらに触れていく。馴染まない暖色が、紺碧の中でビー玉のように跳ねた。
     ぱちり、と。不意に彼と目が合った。
     橙と混ざって黒色に見える瞳が、艶やかに笑む。
    「それじゃ、改めて。誕生日おめでとう、竜水」
    「……おめでとうございます、伊縫」
     温かい声と、冷たい声が絡む。
     ふう、と双方が息を吹けば、17の橙は揺れて掻き消え。
     軽く烟る部屋の中は、瞬きに沈むように。黒一色で満たされた。
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    💙💙💙💙💙💙💚💚💚😭
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    Arasawa

    DONEハピエン前提で、愛する女に嫌われ逃げられてる七海が好きな人にオススメの話です。
    七海の出戻りが解釈違いな元カノの話 1呪術師としての物心がつく前から七海はそばにいた。七海は、私が二年の時に入学してきた。彼のことは大好きだった。彼も実は私のことが好きだったと判明して、学年が上がる前に付き合い始めた。そこからずっと、灰原が亡くなっても夏油が離脱しても、ずっとずっと七海のそばにいた。七海がいない人生なんて考えられなかった。だからこそ、私は高専卒業と共に呪術師を辞めようとした七海を必死で引き留めた。七海に地獄を味わわせ続けるとしても、そばにいてほしかった。当時高専を卒業して一年目だった私は、七海がいない人生が考えられなかった。

    七海は誰よりも何よりも心の支えだった。支えを失った自分がどうなるのかなんてわからなくて、七海がいない人生なんて考えるだけで背筋が凍るほど寂しくて、時には冷静に時には情けなく泣きじゃくりながら説得したけれどまるで効果がなかった。七海は七海で、私をこの地獄から連れ出そうとしてくれた。お互いにお互いを熱く説得しあって、険悪にもなる日もあったし見えない心を身体で分かり合うように貪りあう日もあった。大きな紆余曲折を経て、結局私は七海と共に過ごす人生よりも、この地獄で支えを失ったまま生きる道を選択してしまった。
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