ネムの裏人格
通称『ピエロのネム』

故郷で迫害を受けていたネムにとって頼れるのは
母親しかいなかった
だがその母親も常に傍に居られるわけはなく、
ひとりでいる間は気が休まらず精神も疲弊していった
父からの暴力も他人からの蔑むような視線も
ネムを壊すには十分すぎる威力があった

ある日を境に、ネムはよく眠るようになった
それは時間も場所も関係なく、食事中や運動中、
さらには父からの暴力の最中にすら眠っていた
それと同時に、話し方の違う『もうひとりのネム』が
表に出るようになっていた

『もうひとりのネム』は普段のネムとは違い
暴言にも暴力にも怯まず、時には煽るなど
正反対の性格をしていた
口調も普段のようなふわふわとしたものではなく
強気な女性のようなものになっていた
おかげで普段のネムに対する迫害もなりを潜めていた

変化が起きたのは10歳の頃
突然ネムに『星座の寵愛』を受けたときだった
迫害の理由だった「獣人としての特徴」が
星の加護によって消えてしまったのだ
故郷の人々がネムを迫害する理由は無くなった
無くなったのにも関わらず、人々はネムを
迫害し続けた
それも、今まで以上に

『星座の寵愛』を受けたことはネムにとって
非常に好都合だった
学園への入学資格を得た上にこの町を出られる
ただひとつ心残りがあるとすれば、それは母だろう
だが母はネムの背中を押した
母の代わりに、と「ピエロの仮面」を渡した
「ピエロの仮面」はネムを守ってくれる
そう言った母の顔はよく覚えている
おかげで今のネムは他者の視線に怯えることなく
平穏な日々を送れている

ネムは自身のもうひとつの人格に
『ピエロのネム』と名前を付けた
『ピエロのネム』の記憶は一切無いが、ピエロは
ネムを守ってくれるから大事にしたいらしい