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    ※れおはる小説
    ※フェス後、美園(21)×遥(19)
    ※付き合い始めてしばらく経ってる

    眠いけどしたい遥と寝かせたい美園さんの話 ひとり暮らしを始めた礼音のアパートに、遥が入り浸るようになってしばらく経つ。
     夜間の練習を終えて帰ってくると、大抵遥が床かベッドに転がってくつろいでいるか、テーブルについてスマートフォンを弄りながらくつろいでいるか、音楽を聴きながらどこかしらでくつろいでいるか――基本的に、のんびりとくつろいでいる。
     楽器の夜間使用は不可のアパートであるため、それくらいしかすることがない、と遥は言う。大学の課題は日中に終わらせているから、わざわざ礼音の部屋でこなす必要もないらしい。一方で家事については、一度丁寧に教えたことでしてくれるようになった。半居候状態になっているからそれぐらいは、と遥なりに考えているようだ。
     あまりにも遥がいる状況に慣れ過ぎてしまい、その顔を見ない日の方が珍しい。事前に『今日はいかない』と連絡が来ていても、いざ帰宅して遥不在の室内を見ると、いやに部屋が広く感じられた。

    「ただいま」

     それくらい、遥がいる生活が当たり前になりつつあるここ数か月。
     今夜も『行かない』という連絡は来ていない。部屋には遥がいるだろう。そう思いながら帰って来ると、予想通り遥の靴が玄関に置かれていた。その日常的な光景に表情を緩めて、室内に足を踏み入れる。
     遥の姿は、ベッドの上にあった。
     横になっているでも転がっているでもなく、丁度起きたばかりのように上半身を起こしていた。その表情はひどく眠そうで、帰ってきたばかりの礼音へぼんやり視線を向けてくる。

    「……おかえり」

     輪郭の危うい声で言いながら、まばたきを繰り返す遥。
     現在時刻は午後九時。寝るには少し早いくらいの時間帯だ。しかし遥はすでに入浴も済ませたのか、いつも寝間着代わりにしているスウェットを身に着けていた。鮮やかな色をしたその髪も、ほんのりと湿って見える。
     どうやら、礼音が帰って来るまで寝ていたらしい。
     いっそ感心してしまうほど日頃からよく眠る遥だが、さすがに九時就寝はあまり見ない。今日はなにか疲れることがあったのだろうか。

    「起こして悪かったな」

     荷物をテーブルに置いてから、遥がいるベッドの方へと向かう。
     そのまま寝てしまっていい。そう伝えるつもりで歩み寄ったのだが、夢うつつとした表情のまま、遥が両手を伸ばしてくる。ねだるようなその仕草につられて身を屈めると、首周りに両腕が絡まってきた。

    「うとうとしてた……」

     お互いの顔が近付き、声混じりの吐息が頬に触れる。
     同時に、ふわりとシャンプーの香りが鼻腔を掠めた。
     じいっと見つめてくるその瞳は、眠気に緩んでいた。うとうとしてた、と遥は言うが、微かに触れ合っている肌もいつも以上に温かい。今にでも寝てしまいたいと、体が訴えているようだった。
     いつも以上の体温。
     ふと、体調不良の文字が礼音の頭に浮かぶ。
     もしかすると、それで早めに横になっていたのだろうか。
     咄嗟に遥の首筋や額に触れて体温を確かめたが、発熱を思わせるような熱はなかった。よかったと、胸を撫で下ろす。本当に眠いだけならば、それでいいのだが。
     そんな礼音の様子に首を傾げながら、遥が体を引き寄せようと腕に力を込めてくる。そちらへ倒れ込みそうになったところを辛うじて踏み止まると、目の前の顔がむっと不満げな表情を浮かべた。
     もしかしなくても、誘われているのかもしれない。
     どうしたものかと考えているうちに、そっと唇に口付けられた。

    「今日、したい」

     おまけにそんなことを物欲しげに囁いてくるので、ひどく困る。
     礼音に行為を拒む理由はないのだが、あからさまに眠たげな遥を抱こうという気にはならない。とりあえず熱がなかったとはいえ、休みたがっている体に無理はさせられないだろう。
     
    「今日はやめておけよ。眠いんだろ」

     そう宥めるように、仄かに湿った髪を撫でる。
     当の遥は文句を言いたそうな顔で、じとっと礼音を見上げていた。
     遥は頑固だ。礼音もひとのことは言えないが、一度言い出すと納得するまで自分の意見を曲げることはない。もしかすると今日はそういう気分で、先に入浴も済ませて待っていたのかもしれない。
     それでいて寝落ちしてしまったのかと思うと、それはそれで可愛いなと思ってしまうのだが。

    「……あんたはしたくねぇのかよ」

     への字に曲がっている口元でそう言われ、一瞬言葉に詰まる。
     したいかしたくないかで言えば、それはもう――。

    「……したいに決まってるだろ」

     嘘はつけなかった。
     好きな相手に眠気を押してまで誘われて、嬉しくないわけがない。その感情のまま、遥に引き寄せられてその身体を押し倒してしまえば話は簡単なのだろう。遥もきっとそれで満足する。
     礼音が弱り顔で返した答えに、遥はほらやっぱりと得意げな笑みを浮かべた。

    「でも、おまえの体の方が大事だからしない」

     そう続けた言葉を聞くと、遥はすぐに眉を寄せた。
     そんな反応をされることもわかってはいたが、その優先順位は変えられない。目先の欲より明日の遥の体調だ。心配のしすぎだと言われてしまえばそれまでだが、恋人の体調を心配してなにが悪い。
     そう思う一方で、遥が求めてくれた気持ちを蔑ろにもしたくなかった。

    「明日なら早めに帰って来られるから」

     ゆっくりとした口調で伝えながら、不服そうなその頬に手を添える。
     なにも今日にこだわらなくても、明日も変わらず傍にいるのだから。それをわかってほしくて親指で頬を撫でると、遥がふいっと拗ねたように視線を逸らす。
     そのまま考えるように目を背けていた遥だが、間もなく礼音の手に頬を擦り寄せ、目を上げる。それから甘えの滲んだ声色で「……じゃあ」と呟いた。

    「今日は、キスだけでいい」

     その様子をうかがうような視線に、胸の中がぞわりと波打つ。
     納得してくれたことへ安堵するより先に、ひどく落ち着かない気分になった。キスだけでもとねだられて、平常心でいることは難しい。可愛くて堪らない。けれど、遥の手前、落ち着かなければと一度深呼吸を挟む。

    「……それ以上はしないからな」

     自分に言い聞かせる意味合いもありつつそう言うと、遥はこくりと頷いた。礼音の首回りへ抱きついている両腕に、催促するようにほんのりと力がこもる。期待に揺れる瞳と視線を交わらせつつ、自分の心音を聴きながら唇を重ねた。

    「ん……」

     微かに漏れ聞こえる遥の声と、柔らかな唇の感触。
     その心地好さへ浸っている間に、重ねていた唇を遥の舌先がそっとなぞる。もう少し、と訴えかけている熱っぽい視線にあてられ、閉じていた唇を開くと、目の前の瞳が嬉しそうに緩んだ。
     可愛い。
     ぼうっとそんなことを思いながら、より深く口付ける。湿りを帯びた唇同士で触れ合って、どちらともなく舌先をくちゅりと絡める。ベッドで寝落ちてしまう前に遥が食べていたのか、その口の中はバニラのような甘い味がした。

    「う、んぅ……」

     鼻にかかったような吐息が聞こえると同時に、遥の両腕が懸命にしがみついてくる。
     いつもよりもどこか拙い仕草で、何度も啄むような口付けをされると、堪らない気持ちに頬が弛んだ。愛おしいというのは、そういう気持ちを言うのだろう。
     遥の背中に両手を回して、ぎゅうと抱き締めた。もう一度唇を重ね直して、濡れたその咥内へと舌を這わせる。ぴくりと遥の肩が小さく跳ねる。頬がほんのり色づき、んん、と蕩けたような声が耳元を掠めた。
     腰元を這う燻ぶったものを抑え込みつつ、少しの間、遥の咥内を愛撫する。歯列をなぞり、粘膜を撫でて、舌を交わらせているうちに、遥の表情が心地よさそうにふにゃりと弛緩していった。
     その様子を見ているだけで、満たされたような気分になる。
     遥が息苦しくなる前に唇を離すと、淡い若葉色の瞳がとろんと見上げてきた。軽く肩で息をしているが、もっと欲しいとねだってくることはない。今日はここまでと納得してくれているらしいその様子に、ほっと安堵する。

    「続きは明日な」 
    「……ん」

     素直に頷くその口元に、一度だけ軽く口付ける。
     それを相図にゆるゆると礼音から手を離した遥は、やはり眠たげにまばたきを繰り返していた。口では強気なことを言っていたが、眠いものは眠いらしい。本当にやめておいてよかった。
     
    「じゃあ、先に寝る……」
    「おやすみ」

     そう返して頬に触れると、柔らかい声で「おやすみ」と返事があった。そのまま布団に入っていくのを見届けて、ベッドに身を沈めた遥の髪を緩く撫でる。礼音に背を向けるように横になると、間もなく静かな寝息が聞こえてきた。
     今日に限ったことではなく、遥は寝つきがいい。
     そして一度眠ってしまうと、少しのことでは目を覚まさない。泥のように眠っている、という言葉がしっくりとくるほど熟睡しきってしまう。
     それを寝起きが悪いと思うこともあるが、傍にいても安心して眠っていられる間柄になれたのだと思うと嬉しく感じる。そう口元を綻ばせて遥の髪から手を離し、さて風呂にでも入ろうとベッドから視線を逸らした。
     その瞬間、何事か呟くような声が聞こえた気がした。
     遥がなにか言ったのかと視線を向け直しても、起きているような素振りはなく、規則的な呼吸に体が小さく上下しているだけだった。

    「…………」

     遥は何を言ったのだろう。
     それが寝言だったのだとしても、妙に気になった。なんとなくそのまま浴室へ向かう気になれず、ベッドの傍に腰を下ろす。さすがに見られていると寝づらいからだろう、壁の方を向いて眠っている遥の後姿を眺めて思う。
     遥と付き合うようになりしばらく経つ。
     初めからいろんな意味で目が離せなかったが、随分時間が経ってからも、ふと遥をひとりにしておけないと感じる瞬間がある。丁度今のように。
     きっと、まだ自信がないのだろう。
     一緒にいることで安心感を与えることはできても、離れてなおそれでも大丈夫だと遥が思えているのか、確信がないままなのだ。しかしそれを遥に聞いたところで、きっと遥もわからない。それはそれで不安にさせるだけのようにも思えて、実際に尋ねたことはなかった。
     まだ落ちた影が拭いきれない。
     それも直視して、これからも付き合っていく。
     もう一度その髪を撫でると、ん、と遥が零す寝息が聞こえた。


     (END)
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