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    nejitoro

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    nejitoro

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    朝絞め殺されかけたのを根にもって、寝る場所の変更を主張する宵越
    実際は移動とかしてなかったんですけど、もしかしたらこういうルートもあったんじゃないかな〜という感じの話
    宵越が部長の事を好きな王宵

    合宿あたりのお布団を交換したい宵越君のもしも話「場所、交換してもらうからな」

    風呂から戻り、割り振られた部屋へと入る。
    6組の布団が引かれた室内でそれぞれ前日と同じ布団を目指す中、宵越は突然畦道に人差し指を向けてそう主張した。
    飲み物を買ってくると言って途中で分かれた井浦と王城はこの場には居らず、宵越以外の3人は畳を踏みしめる足をぴたりと止めて、意味もわからないまま振り向く。

    発端は今朝のことだ。
    今彼らの前にあるのと同じように3行2列に並べられた布団、その内の窓側に眠っていたはずの伊達が、トイレに行った帰りにつまずいて宵越の上にのし掛かった。
    そしてそのまま二度寝を決め、更に宵越の頭側に寝ていた水澄が、元来の寝相の悪さから彼の首に締め技をかけた。

    2年生2人に永眠させられかけたと、これから寝るぞというタイミングで思い出した宵越は合宿二日目となる本日、絶対に通路側は嫌だと眠る場所の変更を申し出たのだ。

    「え?オラとか?」

    指先を向けられた畦道はなぜそうなったのか訳がわからず、驚いた形相で目を瞬かせる。
    文句は認めないといった形相で詰め寄った宵越が、絞め殺されかけた朝のことを引合いに出して初めて朝の惨事を思い出した。
    彼の主張の意味を理解することができたのはその後だ。
    当然あの惨事を目の当たりにした身としてはその提案をあっさりとのむ気にはならず、畦道は人差し指で頬をかくと困ったように笑う。
    その様子を横目で見ていた水澄が、いつの間にか布団の上で胡坐をかき、片手をあげた。

    「俺が交換してやろうか?」
    「おまえと交換しても無駄だろうが!つーか寝相悪すぎんだろ!!」

    水澄の位置は宵越の対面だ、結局人の通り道に位置する。
    たとえそこに移動したところで、結局は踏まれ、締め上げられ、今朝と同じ目に合う未来が宵越の脳裏によぎった。
    その提案をすぐさま却下する宵越に、半ば予想していた通りの返答を受けた水澄は腕を上げたまま声をあげて笑う。

    「それなら俺と交換するか?」

    それならばと今度は早朝の事をそれなりに悪いと思っていた伊達が手を上げた。
    この場所ならば要望にあっているはずなので問題ないだろう。
    そう考える彼は、宵越が断らないと踏んで返事を待たずに荷物を腕に抱えはじめる。

    しかし予想とは異なり、宵越の反応は酷く鈍かった。
    歯切れが悪く返事をするその横顔をじっと見つめる水澄は、どうやらピンとくることがあったようだ。
    彼は伊達に手を振り合図を送り、伊達はソレに気が付き足を止めた。

    視線を水澄と宵越交互に向け、彼もまた思い当たるものがあったようで、交換は止めようとあまりに不自然な流れで前言を撤回する。
    その様子を不思議に思った畦道と宵越はいきなりどうしたんだと訝しみ、そろって首をかしげた。

    宵越が問いただしてみたところで伊達は何も言わない。
    そうして水澄はどこか機嫌が良さそうに口元を緩めている。
    畦道はそんな三人の様子をただ見つめていたが、ほどなくしてなにか思い当たることがあったようで「あっ」と声を上げた。

    宵越はそろいもそろって一体なんなんだという気持ちを隠そうともせず、三人をそれぞれじとりと睨みつける。
    その視線に耐えきれなかった畦道は、口元をひきつらせると視線をさ迷わせ唇を開いた。

    「……宵越は部長の隣がいいんだべ?」
    「は!?」

    そうして出てきた言葉に宵越は体を強ばらせる。
    なにか言いたそうな様子で口を開いたが、その唇から出てくるはずだった言葉は驚きの声が優先されて消えてしまった。
    こうなってしまえば隠す必要もないと二年生の彼らは緩めた口元をそのまま、それぞれ主張する。

    「ああ、だから畦道との交換がいいんだろう?すまなかったな、すぐに気が付かなくて」
    「隠すなって、どうせおまえバレバレなんだっつーの」
    「な、なにが」
    「なにって、部長のこと好きなんだろ?」
    「っ……!っ!まて、おい、勘違いするんじゃ……」

    善意で事を進める三人を宵越は制止しようとするが、彼らは全く聞く耳を持つ様子がない。
    というよりも、口でいくら否定したところで宵越の顔がそうだと語っており、彼の口から出る否定の言葉などまるで意に停めていないというのが正しいだろう。

    元来まっすぐな性格故か、隠し事が苦手な彼は嘘をうまくつけない。
    初めて会った者にすら簡単に見透かされてしまう程のその性格は、長く一緒に時間を過ごすにつれてさらに明け透けになり、今では部員全員が真実か否くらいなら察することが出来た。
    だから、今彼から吐かれる強い否定は、極端に言ってしまうと王城の事が好きだとはっきり主張しているといっても過言ではない。

    彼らは、渦中の二人がどのような関係かまで明確には知らないが、付き合っているにせよ、いないにせよ、宵越のわかりやすすぎる反応を前にひたすら後押しをしたい気持ちになっていた。
    応援の意を込めた生暖かい視線を向けられ、からかわれているとでも思ったのだろうか、宵越は強く拳を握りしめてその目を今すぐにやめろと主張する。

    「まぁ最初の要望通りなんだからいいだろ?」
    「それは……、……いや、やっぱり良くない」

    早々に話を進めようとする水澄に流されそうになった宵越だったが、思い直して食い下がる。
    彼は布団の上でだらけていた水澄の足の上にまたがると、自分の主張を聞き入れさせようと詰め寄った。
    水澄は慌てて後ろに下がろうと試みるが、宵越は彼の足首をつかみ逃がすまいと引き寄せ、カバディさながらの攻防が布団の上で繰り広げられていた。

    「!!ちょ、まてまて!こんなところ部長に見られたら……っ」
    「ただいまー」
    「っ!」

    入口の扉が開く音と同時に聞きなれた声がして、二人は肩をビクリと揺らす。
    部屋に入ってきた王城と井浦が布団の上の二人を見下ろし、なにかあったのかと至極当然な疑問を口にする。

    傍目には喧嘩をしているようでもあるが、部屋の空気はそんな雰囲気ではなく、どちらかといえば和やかな空気だった。
    その中で唯一ピリピリした様子の宵越が何でもないと否定して水澄の上から退き、立ち上がると、気まずそうに二人から顔を逸す。

    一方水澄はというと宵越とはまた違った理由で気まずさを覚え、張り付いた笑顔を保ちつつ王城を横目に盗み見ていた。
    王城はいつもと変わらない表情で宵越の横顔をじっと見つめている。
    彼の本心をこの場に居る誰も聞いたことはなかったが、彼は稀に酷くわかりやすい独占欲をのぞかせることがあった。
    やけに近い距離だったり、視線だったり、そういう行動の端々を目の当たりにしていた水澄は彼らを、付き合ってはいないが両思いだと思っていた。
    だからこそ覚えた気まずさからその様子を伺っていたのだが、王城は焦ってる様子も怒っている様子もない。
    後ろに続いていた井浦も喧嘩でないのなら問題ないと特別気にした風もなく王城の横をすり抜ける。

    「はいこれ、自販機に紅茶あったよ」
    「あ、あざっす」
    「畦道はわかんねーから茶買ってきた。ほら、伊達にもやる」

    差し出されたペットボトルは別れ際自販機に行くついでに買ってくると申し出た王城に水澄が頼んだものだ。
    井浦がその後ろを通って他の2人へと同じように飲み物を差し出したので、おそらく王城が抱えている2本の内、1本は宵越の物だろうと予想が付く。

    「もしかして場所、変えてるの?」
    「変えてほしいっていうから交換したんすよ!なっ!宵越!」
    「……もう死にかけるのはごめんだからな」

    朝の騒動を知っていた王城は特に理由を掘り下げることはなかった。
    ただ自分の場所は変わっていない事だけ確認すると布団の近くに持っていた荷物を置き、腰をおろす。
    畦道が宵越の立つ場所まで移動すれば、宵越は今までの文句を全て飲み込んで掻き寄せるように荷物をその腕に抱えた。
    ゴタゴタとしてしまったが、元々コチラの出した要望通りなのだからと自らをなだめる。
    わざわざぶり返してまで怒鳴る気にはなれなかったようだ。

    「宵越君、なんだか顔が赤いね?湯あたりでもした?」

    荷物を抱えて窓際の布団へと移動する彼の手を王城はつかまえる。
    引き止められて布団と布団の間に立ち止まることになった宵越は『湯あたり』という単語から素直に先程の入浴を思い出し、普段の入浴と今日のソレの長さを比較した。

    「……べつにそんな長風呂はしてないと思うが」
    「そう?気のせいじゃないと思うんだけどなぁ」

    王城は宵越の顔を下から覗き込み、宵越はそれを真正面から受け取って困惑すると同時に顔の熱を自覚することとなる。
    もしかしていつもよりも風呂が熱かったのだろうかと悩み、立ち尽くす彼の腕を王城はつかみ、瞬間彼は足を折ってそのままその場に腰を落とした。
    座り込んだ宵越は不思議そうに瞬きをして赤い瞳を王城へ向ける。
    ハッキリとは言えないが、彼の技であるカウンターを使われたのかもしれないと疑う感覚だった。
    ただ今ここで使う意味がわからず、ハッキリ使われたとは断定のできない状況に、宵越は目を丸くして首をかしげる。

    「なんだ?」

    カウンターを使っているにしろ、いないにしろ、腕をつかまれているのは目に見える事実だったため、その理由を問うのは自然な事だった。
    王城はにこりと目を細めて答え、同時に宵越の目の前に良く冷えた水が差し出される。
    宵越君の分だよと言われ、彼はソレを大人しく受け取って短い礼を述べた。

    真っ黒な大きな瞳でじっと見つめられて、宵越はその様子を伺いながらペットボトルのフタをひねる。
    別に今引き寄せてまで渡してくる必要はないのでは、そう頭に過りつつも別段気にすることではないと思い直しペットボトルに口をつけた。


    水澄といえば、宵越が王城の様子に明らかな困惑を見せているのを見て、確実に自分のせいではないと思いつつも罪悪感を覚えていた。
    先程の体制からもしかしたら王城がそれを気にして、今のように宵越にちょっかいを出しているのではないかと思ってしまったためだ。
    ただ今宵越に声をかける王城は、不機嫌というよりはどちらかといえば機嫌がよく見え、先の件を弁明する雰囲気でもなく、助け舟としてコチラへ注意を引くのも違う気がして頭を悩ませる。
    そんな水澄を見ていた井浦がため息を吐き、手招きをして彼を近くへ寄るように誘導した。

    「……さっきの会話ほとんど聞こえてたんだよ」

    王城はこの部屋に入ってきたときから宵越がその場所に行きたがった理由も、はやし立てられたことも全てを知っていたと、そう耳打ちをされることでやっとつじつまが合ったのか、水澄は顔を上げたわ。

    『なるほど、そりゃ機嫌もいい』

    いまだにわけのわかっていない宵越が、どうやら開放されたらしく伺うようにそろそろと後ろに下がる。
    強張ってた肩の力を抜き、持ってきた荷物をやっと移動させた。
    何はともあれこれで安心して眠れると満足そうな宵越は、枕元に先程王城からもらったペットボトルを置き、布団をめくると潜り込む。
    交換相手の畦道は、よかったなぁと微笑ましそうにその様子を見つめていた。

    「おい正人」
    「ん?なに?」
    「わかってんだろーけど、わきまえろよ」

    王城は井浦の言葉ににこりと笑う。

    「うん、わかってるよ。ね、宵越君」
    「は?……おう……?」

    王城は宵越に同意を求め、彼は何もわかっていない様子だったが、王城の顔を前に勢いで同意を返した。
    井浦は目つきを鋭くしたものの、王城がそんなもので震え上がる人物ではないことはわかっていたので、早々に諦めてため息をつき、疲れたからもう寝ようと提案をした。

    電気を消そうと井浦が立ち上がる前に、畦道が立ち上がり入口の前にある明かりのスイッチへと近づく。
    呼び掛けと共にパチリと音がなり、電気が消え、非常用の薄明かりだけがぼんやりと室内を照らしていた。

    宵越は枕に頭を落とす。
    暗闇の中で仰向けに横になっている王城の輪郭がうっすらと見えて、これから蛹のように全身を布団で包むのだろうかなんて、そんなことを考えながら宵越はそれを見つめていた。
    ふと身じろぎをしたその輪郭がこちらを見ているような気がしたが、暗闇になれていない目では明確にはわからず、宵越は瞼を下ろした。
    暗くなり、横になれば疲れ切った体がどんどん眠りの世界に引き込まていく。

    微睡みの中で、王城のおやすみという声が最後に聞こえた気がした。
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