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    厄災課玄武

    元同人オタ〜長き封印の時を経て沸々

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    厄災課玄武

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    ヴァルガ様過去話、2話(完結)

    生きている音「先程は失礼した」
     声をかけてきたのは、従者の方からであった。
    幕舎の前に立ち、寝ずの番の構えだろう。外は夕闇が支配し、小さな篝火すら明るく眩しく感じられた。
    黒甲冑は戻る足を止め、改めて従者をながめた。背こそ女性にしては高いが、僧兵の鎧を着てはいても、胴の厚みや腕の太さが女性のそれだ。見誤った原因は立ち居振る舞いだろうか。
    「…こちらも、手加減の出来ぬ性質で」
    従者が頭巾を上に引き上げて真っ直ぐにこちらを向いた。照らされた顔は、目元の朱塗りが目を大きく、厳しく見せている。
    「多少だ。問題ない。
     あの程度で壊れるような鍛え方はしていない」
    この女。
    「「夢読み」は王女であったが、おぬしは何者だ」
    小刀を抜き、素手になっても首を狙う身のこなしは並の者ではない。
    「ただの側近だ」
    「…そうか」
     照らす火が急に弱まった。水でもかけたかのように篝火が火を落として、消えた。
    雨も風も無い。
    「ただの側近」は姿勢を低くし、既に小刀を抜いている。
    火が消えたのは、「何か」がいるのだと勘付いている。
    黒甲冑も槍を構え、見回す。匂いを嗅ぎ、気配を探る。肌の、鱗の感覚を研ぎ澄ます。
    相手は魔道士の類いだろう。容易く近寄っては来るまい。

    『どこだ…賢者…』
     言葉ではなく、意志そのものが頭に侵入した。
    「…な」
    何者だと言葉が発せられる前に、黒甲冑の手が口を塞いだ。
    「喋るな。見つかる」
    顔を寄せ、小声で。耳元に熱い呼気がかかる。
    熱い?
    王女にたしなめられ流そうとした疑念が湧き上がる。やはり後で問い詰めよう。
    今は。背合わせに立ち、気配を探る。

    『居るはずだ…闇の賢者…』
    割れ鐘の意思に眩暈と吐気がし、体の力が抜けていく。黒甲冑の背に身体が当たり、次いで膝が緩んだ。
    闇の賢者を排除する気か?
    トライフォースの一片がある真横で…!
    「?」
    地面に落ちる前に太い腕が回り込んで抱き止められた。手から小刀がすり抜け甲冑に当たって甲高い音を立て

    『 見 つ け た 』

    同時に黒甲冑の肩越しに魔物の燃える眼が見えた。
    「後ろっ」
    声は掠れ小さな呻きにしかならなかったが、黒甲冑の長駆は瞬時に動いた。
    片腕でこちらを抱えたまま、槍を捌く。
     魔物の声は執拗に頭に侵入し意識を掻き乱す。甲冑に耳を押し当て、「生きている」音にしがみつく…。

    強く早い心音。
    呼吸と同時に地鳴りのようにゴゴゴと唸る音。

    面ぼおの隙間から、口角を引き上げる口元と、チラチラと炎が燻っている様が覗いた。
    噂には聞いた事がある。
    ヒトの姿を操る竜の一族が存在する、と。

    槍が魔物を突き、断末魔が耳をつん裂き、意識が途切れた。

       闇ノ賢者ハ、護ラレタ。
       賢者ノオ役目ハ、マダ先。

    「インパを助けて下さり、感謝致します」
     ゼルダ王女は気を失ったままの側近を見下ろしながら礼を述べた。額と頬に触れ、胸に耳を当てる。
    「ギブドの呪いを受けたようですが、少し休めば大丈夫でしょう。
     彼女はシーカー族で、私を公私に渡り支えてくれていて…闇の賢者となる者でもあります」
    言葉を切り、彼女を護り運んできた黒甲冑を見上げる。
    「お礼をしたいのですが?」
    「…必要ない」
    「そう言うと思いました。…これを友好の証に」
    ポケットから、小さな宝飾品を出した。
    「私の髪飾りです。何かあった時に、王女ゼルダに会うための助けとなりましょう」
    「…そういうことなら」
    素直に受け取る彼に微笑みかける。
    「あと、あなたの事を騎士と呼ばせて下さい。
     竜騎士、と」
    兜の下で炎が揺らぐ。
    「見張りに立とう…勇ましい賢者殿の代わりに」
    踵を返す「竜騎士」に、ゼルダは会釈した。


     「竜騎士」が魔女の手に堕ち、ハイラル王国に牙を剥くのは、まだしばらく先。
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