まどろみの声「ゆっくり休め、621」
ハンドラーにそう言われて大人しく自室へと篭もる。
ベッドへ仰向けに寝転び、無機質で暗い天井を見つめる。
程なくして降り掛かってきた睡魔に身を任せてまどろんでいたところベッド横のテーブルの上で通信端末が震えて音を立て始める。
のろのろと端末を手に取り、表示された文字を確認することなく画面に指をスライドさせて端末を耳に当てた。
「私だ。ヴェスパー部隊のラスティだ」
つい少し前にも聞いたばかりの耳に心地いい声にそうか、と抑揚なく答える。
突然通信を寄越してくるとは、緊急の用事だろうか。
「君の声が聞きたくてね。
…眠たそうな声だな。もしかして起こしてしまったか?
それは申し訳ないことをした。
君とは仕事上の話ばかりだからな。
たまには、たわいも無い話もしてみたいと思ったのさ。
まぁこれは今言った通り私の個人的な通信だ。
君も今回の化け物退治で消耗しているだろう。
寝ながらでいいから子守唄程度に思って聞いてほしい」
言われた通りベッドに寝そべったまま端末を耳元に置いて目を閉じる。
「君が私のことをどう思ってくれているのかは分からない。
だがもしこの戦いが終息して両名が生き残っていたのなら、君と直接会って話をしてみたい。
戦場での姿と声しか知らない君のことをもっと詳しく知りたいと私は願う。
戦友。…それまではどうか生き残ってほしい。
君のことだ、心配は不要だろうがね。
私も全力で生き残ろう」
多忙であるはずのこの時期に私用な連絡を入れてくるなど…ただの独立傭兵を何故ここまで気にかけるのだろうこの男は。
同じ強化人間だという事実に親近感でも湧いているのか。
何度か仕事で共闘したからなのか。
実に親しげに話しかけてくる。
独立傭兵である自分が敵側に回る可能性を考慮していないのだろうか。
お気楽なことだと思う。
「君とは違う形で知り合いたかった。
まぁ、この戦場でなければ君と知り合うこともなかっただろうし私が君に心惹かれることもなかっただろうがね。
それでは失礼するよ。また共に仕事ができたらいいな、戦友。良い夢を」
最後に端末からは遠いところで、叶うならその夢に私が出てくることを…など聞こえてきたような気がしたのはきっと聞き間違いだろう。
……通信が切れ、部屋には静寂が訪れる。
殆どを無くしてしまったはずの何かがほのかに熱くなるような感覚を覚えた。
少しばかりミッションを共にしただけの男に心が揺さぶられている。
不思議だがどこか心地のいい気分のまま意識はベッドの上で深く沈んでいった。