bite marker「戦友」
戦友の居場所を突き止めた。
私の情報網を持ってすればそう大して苦労するものでもなかった。
飼い主たるハンドラー・ウォルターは突然の訪問者に驚愕と警戒を滲ませていたが……。
あの手この手でどうにか事情を説明して渋々と言った感じで目立つからとスティールへイズをハンガーへ格納させてもらった。
警戒を中々解かないハンドラー・ウォルターに私自身も丸腰であることを何度も言い聞かせる。
あいつにも友達が…邪魔をするのは野暮か…?等とぶつくさ呟いているハンドラーを無視して戦友がいるという部屋へと向かう。
教えられた場所の扉の前に立ち、1つ深呼吸をする。
この扉の向こうに戦友がいる。
直接の対面は初めてで心がはやりだすのを感じる。
なんて声をかけようか、そんなことを考えながら迷いなく扉の開閉ボタンを押した。
「やあ戦友、ヴェスパー部隊のラスティだ。
直接会うのは………」
言葉につまる。
奥のベッドで横たわっている人物が見えるが、あれが戦友だろう。
寝ているのだろうか。
起こしてしまわぬようできるだけ足音を殺してベッドまで歩みを進める。
ベッドの傍に立てば仰向けに寝転がり静かに寝息を立てる人物の姿。
まるで死んでいるようだったがゆっくりと胸が上下しているのを見るに肺はちゃんと酸素を取り込んでいることが確認できる。
普段は背中を預けるに足る存在と、思っていたイメージとは違い全体的に少し弱々しさを感じる。
そんな寝顔をまじまじと見つめていると不意に瞼がゆっくりと開かれる。
何度か瞬きを繰り返した後、こちらを認識したのか視線を向けられる。
「やあ、戦友。直接会うのははじめてだな。
私がヴェスパー部隊のラスティだ」
にこりと笑いかければ僅かに目が見開かれるがすぐに平静を装うように顔をそらされた。
驚いているのがバレバレなのに可愛らしい反応だなと笑みがこぼれる。
「寝ているところをすまないな。
君に会いたくなってね。
もちろん仕事は終わらせてきたさ。抜かりは無い」
ラスティは明るく声をかけながらベッドのふちに座る。
621は横になったままでは失礼だろうかと身体を起こそうとするのだがなかなか上手くいかない。
ベッドに両手をつくのだがそこから身体を持ち上げることができないのだ。
「…戦友?」
心配そうに眉尻を下げるラスティの姿に居たたまれず、正直に身体のことを打ち明ける。
隠していても仕方の無いことだ。
「そういうことなら任せてくれ」
少し驚きはしたもののさして問題はない。
ACを駆っている時は名前にたがわない羽ばたくような戦い方に圧倒されたものだが…まさか本人がこのような状態だとは露ほども想像していなかった。
戦場を活き活きと駆け回る様、戦友にとってACは肉体の延長…それ以上のものなのかもしれない。
一言、断りを入れてから戦友の両脇に手を差し込んで身体を持ち上げる。
少し申し訳なさそうにしている彼を座らせるとそのまま背中に両腕を回してそっと抱きしめる。
驚かれるかと思ったが大人しいもので抵抗はない。
密着した胸部から熱と共にトクリ…トクリ…と心臓の鼓動が伝わってくる。
そのまま後頭部に優しく手を添え、少しかさついた唇に自身の唇を重ね合わせる。
最初は触れ合うだけだったものが徐々に唇を割らせるように舌先を隙間にねじ込んでいく。
息を詰めるような声は聞こえたものの特にこれといった抵抗もなく熱い舌は中へと侵入を果たす。
中で逃げようとする舌を捉え、絡めて逃がさない。
舌の裏、歯列や上顎、余すところなく彼の咥内を蹂躙していく。
お互いの荒くなっていく息遣いと唾液の水音だけが耳に届く。
夢中になっていると弱々しい力で服を引っ張られてふと我に返る。
ふーふーと息苦しそうにしている戦友に気付いてがっつきすぎたかと慌てて唇を離す。
げほげほと咳き込む背中をさすってやれば呼吸は落ち着いたのかまたそっと身体を預けてくる。
先程よりも明らかに早くなっている鼓動と高くなっている体温に情欲がかき立てられる。
まだだ、落ち着け。早急なのはよくない。
戦友に負担をかけるような真似もしたくない。
自分を落ち着かせる意味も込めて戦友の後頭部を優しく撫でる。
パサつき絡んだ毛先を解くように何度も指を滑らせれば指通りは良くなる。
くすぐったそうに顔をこちらの胸に埋めてくる様子はどうやら満更でもなさそうだ。
耳が赤いのを見るに恐らく今は顔も真っ赤なことだろう。
通信越しでも無表情さが伝わってくる戦友のきっとレア物だろう赤面した姿は堪らなく見たいが……。
「…戦友」
呼べば見せてくれるだろうか。
「…………」
反応はある。返事の代わりなのだろう、服をぎゅっと掴まれた。
「戦友」
もう一度呼ぶ。今度は耳元で囁いた。
「…………っ」
僅かに上向いて見えた目元は予想通り赤面していて上目遣いにこちらを覗き込んでくる。
不服そうな表情をしているのを見るにやはり恥ずかしいのだろう。
なかなか離れようとしない身体を少し持ち上げて首筋に噛み付いてやる。
びくりと震える身体を強く、しかし傷付けない程度に押さえつけながらその噛み跡に労わるように舌を這わせる。
小さく呻き声をあげる戦友の背を撫でながら襟元にあるチャックに手をかけた。
突如手持ちの端末から音が鳴り響き、通信が入った旨が伝えられる。
「…司令部からだ。ど うやら時間切れのようだな。
すまない。またいずれ
会おう。さらばだ戦友」
最後に名残惜しいとばかりに頬に触れるだけのキスをして優しくその身体をベッドへと横たわらせる。
心なしか戦友も名残惜しそうな表情をしている気がして思わず顔がほころぶ。
そう残念そうな顔をしないでくれ。
次に会えた時は続きをしよう。
そう伝えれば顔の赤い戦友は噛まれた場所を手で押さえながら顔を逸らせる。
これは恥ずかしがってるだけだなと肯定的に捉えながらもう一度額にキスをして部屋を後にした。
次は1日休暇を取ってくる必要がありそうだ。