Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    MA_is_avoid

    主にアイコン差分

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 164

    MA_is_avoid

    ☆quiet follow

    フォロワー!これ2話目です まだ戦いません そして創作のタイトル相変わらず浮かびません

    #FC一次創作リレー
    fcPrimaryCreationRelay
    ##私性とレプリカ
    ##レプリカ本編

    荒唐 2 それから直ぐに、飛雨に連れられ百世は彼の運転する車に乗せられる。淡い灰色をした普通自動車であり、乗り込むと芳香剤らしき石鹸のような香りが漂う。百世が後部座席に乗ろうとすると、既に運転席に座っている飛雨が助手席を叩いた。
     百世は無論眉間に皺を寄せたが、飛雨は機嫌良さげな笑顔で座席を叩くばかりであり数分の攻防の末百世が折れ、助手席に乗り直す。石鹸の香りと血生臭い匂いが混じり合ったものが鼻を捻じ曲げる勢いであり、百世はエンジンが掛かり次第即刻窓を開けた。彼女が吐く所まで行かなかったのは、ひとえに乙女のプライド故である。
     かくして走り出した車は夜だというのに街灯も疎らな細い道を何度か通り、やがて古いビルの脇にある駐車場に辿り着いた。足場はコンクリートではなく砂利であり、車に微振動を響かせる。それが百世にとってはとどめとなり、彼女は車の扉を開けるなり崩れ落ちた。
    「吐くかと思った」
    「あ、コンビニの袋あるよ」
    「いくら先生の前でも嫌」
     そっかあ、と飛雨は気のない返事をし、崩れ落ちたままの百世の身体を俵担ぎにしてビルに運び込み始める。当然抵抗が飛雨の頭上から降ってくるが、どこ吹く風といった様子である。人気のない場所である故に、誰にも見られていないことが幸いだった。
     押し扉を飛雨が脚で開けると、入り口のすぐ側から「行儀が悪いな」と呆れたような声が掛かった。彼の声よりも少し低い男性のものだ。見遣ればそこには白金色の髪を三つ編みに結った男が立っている。
    「おかえり飛雨、そっちのお嬢さんは?」
    「俺の後継者候補」
    「何処で拾ってきたんですかこんな可愛い子」
     男が百世の頬をうりうりと突く。現在進行形で俵担ぎにされている百世には抵抗の手段は無く、不服そうな顔をしながら「まだ降ろしてくれないんですか」と飛雨に訴えるばかりであった。飛雨は機嫌良さげに笑いながらも百世を降ろす気配は微塵もなく、結局男の手が飽きて離れても百世の身体は宙に浮いたままだ。
     うんざりしながらも、百世はいつもより少し高い視界からビル内部を伺う。古い外装の割に内部は小綺麗にされており、普通のテナントビルと何ら変わりない様子だ。観察をしていると視界ににゅっと白金色の頭が飛び出る、どうやら男は飛雨より背が高いらしかった。
    「僕は魚住、魚住行方。飛雨の上司です」
    「……不磨百世です」
     改めて真面に見た魚住と名乗る男は、青銅のような青緑の瞳で百世に微笑みかけ、俵担ぎのまま握手をさせた。状況の奇妙さに百世は飛雨の胸板を靴で蹴るが、やはりどこ吹く風である。そして魚住も飛雨に降ろすよう言うこともない。
     それは信用がないことへの示唆であるのを、百世は何処となく感じていた。人殺しをするような組織だから当然と言えばそうなのかもしれないが、たかが女子高生一人に何が出来ようか。精々周囲の器物損壊と逃亡、そして調整が積の山だろうが、彼らはそう思わないようだ。
     不満には思えど、百世にはどうすることも出来ない。二人はとりあえず移動することにしたのか、地面がスライドしていきやがて鉄の箱に乗り込むのが見える。
    「一先ず事務所に案内するね、詳しい話はそこで」
     魚住は丁寧に百世の顔を見てそう告げ、前方に戻りボタンを押した。魚住が消えた百世の視界は、二人の背後故に鉄の壁だ。浮遊感も無機質な壁もどうにも居心地が悪く、百世を悪の組織に攫われた人質のような気分にさせる。
     尤もあの現場を見てからでは、悪の組織と思っても差し支えないだろうが。
    「ねえ百世」
     ごうんと、目的地についたのか強い浮遊感に三人は襲われる。百世からは二人の顔は伺えなかったが、それが飛雨の声だとは分かっている。
    「これ以上先に進んだら、俺たちの言うこと聞くしか生きる道が無くなっちゃうけど、本当にいい?」
     確認というべきか、揺らぎというべきか。飛雨の声色からは意図が読めなかった。答えを待っているのか、魚住も飛雨も歩み始める気配はない。百世は短く溜息を吐いて、簡潔に答える。
    「じゃあここで死ねって言うんですか」
    「……あは、それもそうだ」
     百世は遂に目的地まで飛雨の肩から降りることは叶わなかったが、とかく飛雨は鉄の箱から出た。次いで魚住も出て、エレベーターの扉が閉まった所で漸く身体が降ろされる。かちあった飛雨の眼はどこまでも黒く、色を持っていなかった。視線を感じた飛雨はにこりと、特に意味はない笑みを浮かべた。
    「さて、ようこそ百世さん。 ここが調整実行課事務所です、奥へどうぞ」
     振り向けば、格子の張った硝子扉を開いた魚住が微笑んでいた。後ろから飛雨が押し、やや急かされるように進むとそこには刑事ドラマの一室のような、デスクが数台と客用だろうか大きなソファが二つ、ローテーブルが一つと想像よりも一般的な光景が広がっていた。魚住と飛雨以外の人間は出払っているのだろうか、人の気配はない。
     お茶を淹れますねと魚住は掃け、飛雨は百世が棒立ちしているのを見るなり姫抱きでソファまで運ぶ。数時間前に出会ったばかりの人間とは思えないほど飛雨のパーソナルスペースは狭いようだ。おまけにその後当然のように百世の隣に座るものだから、彼女は思わず飛雨を見た。真っ黒い風体の男はにこにこと微笑みながら百世を見つめ返している。
    「近い」
    「ごめんね?」
    「謝るなら離れて」
    「それはヤダ」
     この間、飛雨は全く笑顔のままである。百世が自ずからソファの端に寄ればそれに合わせて飛雨もずれる。わざわざ一度ソファから立ち上がり反対側の端に座れば、飛雨もそちらに尻をずりずりと引き摺って寄る。
     これを三回くらい繰り返した所で、人数分のお茶をお盆に乗せた魚住がソファの方へやってきて、「仲が良いんですね」と微笑んだ。二人からは真逆の返事が返ってきたので、魚住は更に可笑しそうに笑った。
    「さて、何から話しておきましょうか。 飛雨の仕事についてはご存知ですか」
     魚住がそれぞれの前にお茶の入った湯呑みを置き、向かい側に一つ湯呑みを置く。それから着席して、百世の眼を測るように見た。
    「調整と場合によってそれの後処理」
    「概ねそうです。 調整とはどんな行いかは?」
    「平和において都合が悪いとされる人物を殺すこと」
    「その通りです。 林司さんから教わったんですね」
     百世にとって、居心地の悪い問答だった。差し出された湯呑みを持ち魚住の顔色を伺うも、飛雨よろしくにこにことしているばかりである。
     飛雨は人物名を出されてふうん、と鼻を鳴らし、ソファに凭れる。調整対象の名前程度こそ知ってはいたが、彼には林司という男が何をしたかは伝えられていない。敢えてか性質か、それはとても素直な反応だ。
    「……先生は知らなかったんですか?パパのこと」
    「知れば知るほど情が湧く可能性もあるからって、基本知らされないね」
    「そんな、……ただ命令だからって殺された訳!?」
    「百世さん」
     しぃ、と魚住が人差し指を口許に当てる仕草を取る。身を乗り出しかけていた百世はすんでのところでソファに座り直し、魚住は再び口を開く。
    「悪人が全く生まれ持っての悪であることは少ないんですよ」
    「パパは悪人なんかじゃ」
    「自分で言うのも何ですが、こんな怪しい団体のことを知っている彼が、君に他にも隠し事をしてないって言い切れますか?」
    「……、」
    「百世さんに僕達のことを教えたのも、いざというとき自己防衛ができるように……つまりこうなることを予測していたんじゃないでしょうか」
     荒唐という組織は、表沙汰にされているものではない。無論道徳的な理由もあるが、何より表向き司法以外が人を殺すことを秩序は認めていないのだ。その秘密のシステムを外部に話すだけで嫌疑を掛けられるのもおかしな話ではない。秩序もまた、この必要悪とも言えるシステムで保たれているものの一つなのかもしれない。
     しかし百世の感情はそれでいなされるようなものでもなかった。衣服が皺になることも厭わず握りしめて、恐らく全てを知っているであろう魚住を睨む。態度を崩さない魚住を前に、百世の震える肩をそっと掴んだのは飛雨であった。
    「駄目。抑えて」
    「……っ、元はといえばアンタがやったんじゃない!」
     目を見開いて、百世は飛雨の手を払い除ける。飛雨は小さな衝撃の走った手を一度見て、百世に向き直る。
    「ただ殺すだけじゃ済まなくなる。 俺に復讐するんでしょ?」
    「そうよ、私はその為に……!」
    「でも今の百世なら俺が殺すのに造作もないんだよ」
     百世の肩が掴み直され、みしりと音を立てる。飛雨の生業が生業だからか、それとも単純に成人男性の力だからだろうか、力強い。百世は黒いまなこにそう訴えられて、漸く荒立った気迫を少し沈めた。
    「順調に躾が出来てますね」
     一部始終を眺めていた魚住が飛雨を称賛する。百世は睨みを効かせたが、意にも解さず話を戻す。
    「さて、百世さんですが、いきなり実行の練習をしろだなんて無体は出来ないので……調整対象の居所調査から始めましょうか」
    「魚住さんが教えてくれるんじゃないんですか?」
    「教えはしますが、誰だってずっと一箇所には留まっていないものでしょう?」
    「まあ、確かに」
     人員が多くはないんですよね、と魚住は付け足す。言われてみれば、デスクも数が少ないように感じられた。実行課と銘打たれるくらいなので行動に起こす人間とそれを指令する人間程度しか人員が存在しないのかもしれない。他者を殺すことに抵抗が少ない人間がそう多くても困るだろうが。
    「あとは百世さんはまだ未成年なので、養子とは行かないまでも未成年後見人程度は……」
    「あ、じゃあそれは俺がやるよ」
     はい、と朗らかに手を挙げた飛雨を見て、百世は明らかに嫌そうな顔をし、魚住は意外そうな表情をした。瞬時に百世は魚住を見たが、彼はじゃあそうしましょうかとメモに記入を始めておりがっくりと肩を落とす。
    「何でよ!」
    「色々面倒無くて良いじゃん?」
    「嫌ー!アンタ何か気持ち悪いんだもん!!」
     魚住のペンを走らせる手を百世は止めようとするが、その前に飛雨が引き止める。黒い眼には何か思惑があるのだろうか、百世を引き寄せて耳打ちする。
    「俺が一緒にいれば林司の遺物を保管しやすくなると思うよ」
    「……、分かったわよ」
     百世が大人しくなったことを確認して、魚住は「わからないことがあったらいつでも聞いてくださいね」と締め括った。いまいち不満げな百世に反して、飛雨は機嫌良さげに百世の背中に手を回す。無論その手をはたき落とそうとして、びくともしないのを見ると溜息を吐く。
     仕事は終えたとばかりに伸びをする魚住は、回った時間も気にせずお茶を啜るどころかデスクから茶菓子を持ち出して食べ始める。話している最中に手を出されなかっただけましだろうかと百世がぼんやり思っていると、彼は咀嚼音に混じってふと思い出したように声を上げた。
    「後見人になるんだったら、お家も百世さんの所に寄せたりします?」
    「あ! じゃあ俺あの家に住もうかな」
    「はぁ!?」
     百世の大きな声が響くのもこれで何度目だろうか、しかし彼女の抗議を聞き入れることはなく二人は今後についてを話し合っており、一気に掻き乱された生活の様子に永遠にも思しき溜息が流れ出ていった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works