セックスしないと出られない部屋に閉じ込められたいずレオ瀬名はどうしたものかと頭を抱えずにはいられなかった。
俺がどうにかしなければ。あほな王さまはどうせこの状況に霊感がどうのと言い出し作曲し出すに決まっている。一見この部屋にペンなんてないけど。あるのはベッドと…やる事をやる時に必要なもの諸々だ。
しばらくベッドに座って腕組みをしながら考えていると、それまで大人しくしていたレオが口を開いた。
「セナ、明日大切な仕事があるって言ってなかった」
「え…なんで知ってるの」
「ん~この前ナルと話してたじゃん。お前、絶対行かなきゃいけないんだろ?」
「そうだけど…あんたよく覚えてたね」
確かにユニットで集まった際、嵐やその場にいたメンバーになんとなく話した記憶はある。といっても1週間も前の話だから、まさかその時作曲に夢中になっていたはずのこいつが覚えているなんて意外だった。珍しいこともあるものだ。
「セナが珍しく嬉しそうに話してたから覚えてた☆…てことは早くこんなところから出なきゃいけないよなぁ。う~ん…つまりおれとセナがはやくセックスしなくちゃ…」
「ちょっと!待って、あんた本気!?確かに明日の仕事はすごく大切なやつだけど、だからってさ…他に手があるかもしれないじゃん」
確かにずっとやりたかった仕事だ。俺だって早くここから出たい。でもだからといってこいつとすぐにセックスをしろという要求を飲めるかと言われたら話は別だ。そもそもそういう目で王さまを、月永レオを見たことなんて1度もないのだから。
「他の手、あるの」
「……まだ思いつかないけど、なにあんたいつも妄想がどうとか言ってるんだし一緒に考えてよねぇ」
「だってそんな悠長にしてられないだろ、こんなことでセナの努力が無駄になっちゃダメだ。ここから出られる鍵が示されてるなら、それをまず試した方が効率的じゃないのか?」
ぐぅの音も出ない正論である。いつも難題ほど考えるのが楽しいとかいって人の話を聞こうとしないこいつが、真面目な顔で現状を打破しようとしてくれている。多分俺のために。
「う…王さまにまともな反論されると腹立つねぇ…ちょ~うざい!ていうかさ、わかってんの?あんた、俺とそういうこと出来るの?」
そもそも、いろいろぶっとんでるこいつに性欲がまともにあるのかすら怪しい。どうしてもいつものレオからは性的なイメージが浮かばない。した事も今までなかったわけだけど。
「ん~~さすがにセナとセックスする妄想はしたことなかったな?」
「当たり前でしょ…」
「でもセナとならこの試練も乗り越えられる気がする!」
この笑顔でこの言い方はちょっとずるい。一瞬心臓がはねたことには気付かない振りをした。
「あっそう…もう、腹くくるしかないわけね。それで、どうするあんた俺のこと抱ける?」
「切り替え早いのはセナのすごい所だよな」
「言葉のキャッチボールをしてくれる」
「まって!考えてんの!う~~…おれがセナを…」
「……」
「『お前に抱かれるつもりはない』って顔してるな…」
あれぇ、ポーカーフェイスには自信があるんだけど
「そんな顔してないでしょ」
「おれにはわかんの!じゃあセナはおれに抱かれてもいいのか」
「良くない」
「良くないんじゃん」
良いか良くないかなら、もちろん良くない。当たり前でしょ、すごく痛いだろうし特に受け身の方が負担が大きいと思う。多分絶対そう。
「そもそもねぇ、男同士でやるのって大変なんだよ。下手するとどっちも痛い目見るし…そこんとこ理解してるわけ?」
「なんとなく…?えっ、まさかセナ経験が「あるわけないでしょ殴るよ」
流石に拳を振り上げかけた俺は悪くないと思う。人をなんだと思ってるの!
「ごめんって!つまりセナはおれに任せられないってことだろ?じゃあセナがおれを抱けばいいんじゃないか」
「えっ」
「え」
確かにそちらの方が俺には都合がいいかもしれない。実際、シュミレーションもそちらの方がしやすい。いやしたことないんだけど、多分王さまが相手なら、抱かれるよりは抱く方が向いてるとは思う、あくまで究極の選択だけれど。
でも、良くない。俺はこいつのことを出来るだけ傷つけたくないからだ。身体も、そして心も。
王さまに身体的にも精神的にもキツい思いをさせるくらいなら自分が…と、思うわけで。
「……まぁ、その方がいろいろと不安は少ないけど…あんたはいいの?王さまだって初めてなんでしょ。多分すごく痛いよ」
「セナは心配症だなぁ」
「あんたがお気楽すぎるの」
「セナは優しいなってことだよ。おれは大丈夫!ていうかセナならどっちでもいいしな!」
そんな風に即答出来ちゃうのは、こいつが自分の身体にあまり頓着してないからなのか、それとも、
「セナになら、任せられる」
……ああやっぱり、ずるい。
「…プレッシャーだなぁ」
こっちはあんただから、自分が受け入れる選択も考えたっていうのにさ。
「わははは!頼りにしてるぞ!」
人の気も知らないで、王さまはいつもの様に快活に笑った。
「とりあえず、服を脱いだらいいのか」
「そりゃ服を汚したくないならね……」
そっか、となんの躊躇いもなくベッドの上で服を脱ぎ出したレオを見て、瀬名はため息をつきそうになるのをグッと堪えた。
なんでこいつは今から俺に、男に抱かれるというのにこうもいつも通りなのだろうか。これからすること、ほんとにわかってると再度確認したくなってしまう。
「うわ、あんたご飯ちゃんと食べてるの」
「ん~~んんん、まぁ一応」
なにその煮えきらない返事。王さまが作曲に夢中になりすぎて食事を疎かにするのは今更だけど、それにしたって昔…こいつに言わせると〝現役〟の時の方が、まだましな身体をしていたと思う。ちょっとあばらが浮いてるのは頂けない。
「セナって着痩せするけど、案外筋肉もついてるよな~さすがモデルっていうか」
「当たり前でしょ、プロだからねぇ…って、ちょっと?ぺたぺた触んないでよ」
王さまは決して変な触り方をしているわけじゃないのにこうして直接触られるのは初めてで、何故だか胸がざわつく。
「え~いいだろ減るもんでもないし。セナの身体がきれいなんだもん」
そんなの知ってるっての。にしても、ねぇ、こういう行為のときってもうちょっと他にあるでしょ、ムードもクソもないじゃん。元々期待はしてなかったけどさぁ。
瀬名は今にも口から出そうになる不満を全て飲み込んで己に触れているレオの手をとり、肩をそっと押し倒した。
「わっ」
全く色気のない声をあげてあっさり天井と向かい合う形になったレオはキョトンとして目を瞬かせる。その表情があまりに幼くて、瀬名は急に罪悪感からか息苦しさを感じた。
「セナ」
「ねぇ、王さま。俺も出来るだけ傷付けないように努力するけど、嫌になったり痛かったりしたらちゃんと言ってよね」
「セナなら気にしないけど」
「っ俺が!気にするの!」
「ははっ ホントにセナは優しいなぁ~お前になら任せられるって、言ったろ」
レオが伸ばした腕がいつの間にか瀬名の首にまわり、軽く引き寄せる形で2人の距離はゼロになった。