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    香(かおる)

    小話おきば

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    香(かおる)

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    アシュルク/誓い

    「この劣化レプリカが!」
    「……」
    一体何度その単語を紡がれたのだろう。
    今となっては数えることのできぬ事象に、ルークはつきりと心の奥が痛む感覚を覚えた。
    その言葉を目の前の男——アッシュに吐かれたのは、何も昨日今日のことではない。自分が彼のレプリカだと分かってから―正確にはアッシュは大分前からルークのことがレプリカだと気付いていたのだが―幾度となく呼ばれた。たとえ彼が己のことを見下していないにしても、そう何度も吐き捨てられると流石のルークも心にずしりとくるものがある。己は所詮偽物で、本来ならばこの世にいて良いものではないのだと思い知らされるから。
    「…?おい、聞いてるのか?レプリカ」
    「……」
    「おい、レプリカ!」
    普段ならアッシュが吠えれば何かしらルークも返答するものだが、今日に限ってルークは下を向きぎゅっと拳を握りしめている。その様子を不思議に思い、アッシュは再度彼を呼ぶが、依然としてルークから返答はない。
    ―体調でも悪いのか?
    「おい、ル…、」
    もう一度ルークを呼ぼうとし、アッシュはその声を喉の奥に引っ込めた。なぜならば。
    「お前に…その…レプリカレプリカって何度も言われると…、なんだかへこむな」
    目の前の男が、悲しそうに微笑んでいるのが目に入ったのだ。
    悲しそうに見えたのはアッシュの気のせいだったのかもしれない。だがアッシュには、目の前にいるルークが今にも泣きだしそうな、くしゃりとした笑顔を浮かべているように見えた。その所為で一瞬、アッシュはその場に固まる。
    思えば、彼はレプリカだが、その真実を知らされた時はどんな気持ちだっただろう。世界がすべて自分の敵に見える、そのような感情を持ったのではないだろうか。
    被験者の自分と、そのレプリカの彼。その事実は変えようはない。ただ、彼も自分も、どちらも世界に絶望し、彼は今もなお傷を負っている。その傷は、紛れもなく自分が付けている。そのことがアッシュの口を噤ませた。
    「——っ、」
    「…?アッシュ?」
    今度はアッシュが黙り込む番だった。ルークの肩を叩こうと伸ばした右手はそのままに、アッシュは視線を真下へと泳がせる。一方ルークは先ほどの表情を何処かへ消し去り、今はけろりとし普段の表情に戻っている。
    「アッシュ?なあ、どうしたんだ?」
    未だに視線を下へと落とすアッシュの表情を確認すべく、ルークはアッシュの顔を覗き込もうと顔を傾けた。
    ―刹那。
    「ぅわっ?!」
    二本の腕で強く引き寄せられたかと思うと、次の瞬間にはルークはすっぽりとアッシュの胸に顔を埋めていた。突然の展開にルークは頭を整理できず、アッシュの胸の中でじたばたともがこうとする。
    「あ、っしゅ…!なんだよ、急に…!」
    彼の背中を軽く叩き離れようとするが、アッシュが力いっぱいルークを抱きしめているために、ルークは彼の腕から逃れることができない。
    相変わらずアッシュは黙っているし、しかし腕の力は弱めようとはしない。しばらくしてルークは抵抗することを諦めた。そして小さくため息を吐く。
    「…アッシュ…?突然何やってんのか知らねえけど…だんまりじゃ、俺、わからな」
    「……すまなかった」
    「…え?」
    変わらずアッシュに抱きしめられながら、ルークは彼の小さな、とても小さな呟きを耳元で聞く。それは己への謝罪の言葉だった。アッシュはもう一度小さく、それでも一回目よりは少しだけ大きな声で『すまなかった』と呟いた。
    始め何に対しての謝罪か分からなかったが、ルークは次第にそれが彼が頻繁に口にする言葉に対してだと理解した。それは先ほど己が彼の前で傷ついた顔をしてしまったためだろうか。正確な理由はアッシュに聞かないと分からないが、ひねくれものの彼のことだ、きっと本音は喋ってはくれないだろう。そう思ったルークは、無言でそっとアッシュを抱きしめ返した。背中に回した手に少しだけ力を入れて、優しく抱きしめる。アッシュのことをなだめるかのように。
    しばらくして、アッシュは自身の腕を解く。そして真っすぐにルークの瞳を見据えた。その顔には戸惑いや申し訳なさと言った表情はなく、通常のアッシュのぶっきらぼうな顔に戻っていたのでルークは安堵した。
    「…お前が嫌がることは、その、」
    「ん?」
    「もう、言わないと約束する。だから、」
    アッシュはそっとルークに口づける。一度、二度、角度を変え、何度も。
    ルークをもう二度と悲しませはしない、その誓いの意味を込めて。
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    香(かおる)

    DONEアシュルク/誓い「この劣化レプリカが!」
    「……」
    一体何度その単語を紡がれたのだろう。
    今となっては数えることのできぬ事象に、ルークはつきりと心の奥が痛む感覚を覚えた。
    その言葉を目の前の男——アッシュに吐かれたのは、何も昨日今日のことではない。自分が彼のレプリカだと分かってから―正確にはアッシュは大分前からルークのことがレプリカだと気付いていたのだが―幾度となく呼ばれた。たとえ彼が己のことを見下していないにしても、そう何度も吐き捨てられると流石のルークも心にずしりとくるものがある。己は所詮偽物で、本来ならばこの世にいて良いものではないのだと思い知らされるから。
    「…?おい、聞いてるのか?レプリカ」
    「……」
    「おい、レプリカ!」
    普段ならアッシュが吠えれば何かしらルークも返答するものだが、今日に限ってルークは下を向きぎゅっと拳を握りしめている。その様子を不思議に思い、アッシュは再度彼を呼ぶが、依然としてルークから返答はない。
    ―体調でも悪いのか?
    「おい、ル…、」
    もう一度ルークを呼ぼうとし、アッシュはその声を喉の奥に引っ込めた。なぜならば。
    「お前に…その…レプリカレプリカって何度も言われると… 1837

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