三、瞼(憧憬) 朝顔が目を覚ます。丸まった花弁が日の出に合わせるように、ゆっくりと開いていく。緑簾のために建てられた支柱には、もう屋根の方まで、蔓が伸びている。
(切ればいいのか?)
大包平は屋根を見上げて、そう思った。
始めたのは短刀たちだった。暑さが本格的になる前に、簾をかけるはずが、いつの間にか朝顔にすりかわっていた。誰かがそうするとただの簾より綺麗だと言ったらしい。短刀たちは初めこそ世話をしていたものの、花が咲いたら飽きたらしく、部屋が近いという理由で、大包平が世話をしていた。今、短刀たちは向日葵に夢中らしい。
(初志貫徹しないとは、どういうことだ)
大包平は深く息をはいた。
大包平はとくに植物が好きというわけでもないし、育て方も知らない。勝手に部屋の前にこんなものを作られた身になってほしい。
1965