あなたのせい / きみのせいどこからかハーブのやわらかい香りがする。太陽の光をいっぱいに吸い込んだ清々しい甘さに顔をほころばせると、晶は枕に頭を預けた。
「明日は何か予定はある?」
同じく枕に頭をのせたフィガロが、晶に尋ねる。その声は昼間よりほんの少し低い。眠る前のひととき、こうして語り合うおだやかな時間は心地よいものだった。
「……あ、あります」
どことなく甘い雰囲気のなか、晶は口ごもる。フィガロがこうして明日の予定を聞いてくることは珍しくない。同じ任務に行く日は流れを確認することもあるし、お互い何も無ければどこかに出掛ける計画を立てることもある。何ら当たり前の質問に口ごもるには訳があった。
「なあに? 俺に言えないこと?」
案の定、フィガロは笑みを深くした。優しげに微笑んでいた瞳に一瞬でからかいの色をのせ、晶を見下ろすように半身を起こす。灯りを背に隠したフィガロは、影をまといながら楽しそうに笑っていた。
ごくり、と喉が鳴る。
これは絶対に逃さない顔だ。見下ろされた晶は苦しまぎれに視線を逸らしながら、早々に諦めて決意した。
「……フィガロは」
「うん」
「私の体が何か変わったと思いませんか……」
「へ?」
きょとんとした表情。時折見せる無防備そうなそれが、可愛いと思うから重症だ。
直視できなくてもフィガロの反応は見えていた。晶は横を向いているから、熱いほどに真っ赤な頬も、耳も、上にいる彼にはよく見えていたことだろう。顔の横に置かれた手に指を伸ばすと、ぎゅっと掴まれた。
「……賢者様、もしかして誘ってる?」
距離を詰めたフィガロが、耳元で囁く。この上なく楽しそうな声にこれでもかと色気を込めて、彼は部屋の空気を作りかえてしまった。
【続く】