「そうだアウィン、結婚しようか。」
リビングの窓から見える太陽が頂点を通過して暫くした頃、砂糖を何杯も入れた紅茶を飲みながら新しく養子を迎える準備の為書類に目を通していたルーチェはそう呟いた。
「…は?」
突拍子もない彼女の提案に目を丸くした私に対し、彼女は養子とは言え幼児を自分の息子として迎えるのであれば適切な家庭環境を用意しておくべきだと説明した。
「コーディエ達は弟子としていずれ騎士になるという目標をあげていたからいいけど〜…黒の民とはいえ魔道士になるとは限らないし出来るだけ普通の家庭と同じ環境を作ってあげたいんだよね〜」
「それはそうかもしれないが…」
ここまでして言おうとした言葉が詰まった。
"ルーチェはそれで良いのか?"
彼女の意見は最もだし保護者になる立場の人間として在るべき考え方だ。
だがしかし、きっと私とルーチェはお互いにこの先恋愛感情を抱くことはないのだ。
この数百年間共に過ごしてきた。
私達の間に何かしらの愛と呼んで良い感情はあるだろうがそれは決して男女のそれではなく、情を含んだような、長年連れ添った夫婦のようなもので、お互いそれがこれから好きだの恋だのに発展することは無いことが分かっていた。
それを知っているからこそ感じるものがある。
彼女はいつからか自分をどう使えるか考えるようになってしまったようだ。
ルーチェと結婚しても私達の関係が社会的に約束されただけで、これからも何も変わらないのは分かっている。
私自身は、ルーチェが責任を果たしたい事も理解し賛成しているので何もデメリットはない。
しかし、昔からルーチェを知っている者の一人として、手遅れだとは分かっているもののどこか普通の人生を歩んでほしいと願っている自分がいる。
本来結婚は自身の幸せ、将来、未来の為にするものだというのに。
この何百年、何度も何度もルーチェに自分自身の幸せを考えて欲しいと思い続けているが、今日も彼女のこの選択に対し私はバディとして手伝うことしか出来ないのである。